東京都知事選に見る日本政界再編の構図、日本維新の会は原発政策で分裂・消滅する、東京都知事選を考える(その4)

 選挙戦がまだ始まったばかりの時にこんなことを言うのは気が早いと言われるかもしれないが、今回の都知事選の最大の特徴は、選挙結果がその後の日本の政界再編に直結していることだろう。その火付け役が日本維新の会石原慎太郎共同代表であり、維新の分裂が導火線になることに関しては衆目が一致している。石原氏はことある度に原発推進集団的自衛権を持ち出し、維新が改憲原発を否定するときは離党(分裂)するとの意向を再三再四表明しているからだ。

 窺った見方をすれば、石原氏が都知事候補に田母神氏を担ぎ出して(個人的に)支持したのは、石原代理候補としての田母神氏の公約に「原発再開・活用」を掲げさせて都知事選を戦うためであり、選挙戦を利用して維新への自らの影響力を広めるためだと考えられる。石原氏が安倍首相に協力を約束した「改憲集団的自衛権の行使」、「原発再開・原子力政策の推進」、「国家安全保障政策の確立・軍備増強」などの基本政策を宣伝するには、田母神氏は格好の人物であり、都知事選は絶好の舞台だからである。

 だが、石原氏にも誤算がなかったわけではない。それは細川元首相が小泉元首相の支援を得てあろうことか「脱原発」を旗印に立候補表明し、維新の松井幹事長や松野国会議員団幹事長が細川支持を表明するに及んで、維新全体を田母神支持に動員できなくなったことだ。結果として維新は自由投票となり、都知事選に関しては事実上「原発再開派」(田母神支持・旧太陽系)と「原発フェードアウト派(将来はなくす)」(細川支持・大阪維新系)に分裂することになった。

 加えて石原氏を苛立たせているのは、みんなの党から分裂した結いの党が維新に対して新党結成(合流)を前提にした政策協議を持ちかけ、橋下徹共同代表をはじめ大阪維新系の幹部が積極的に参加意思を表明していることだろう。石原氏はこの動きを牽制するため、1月23日、共同通信のインタビューに応じ、党内対立に関して「決定的なものだったら党を割ってもいい」とまで踏み込んだ発言をしている。

 また結いの党に対しては「護憲政党で何の共通項もない」と強調し、今月始まった政策協議に重ねて不快感を表明した。その上で将来的な自民党との合流については「否定しない」と述べ、集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党に代わり自民党と連立する可能性についても言及した(「公明を切れ」というのはかねてからの石原氏の持論である)。同時に「野党を再編する必要はない」として、自民党に対抗できる二大政党を目指す野党再編に否定的な見解を示した(共同通信、2014年1月23日)。

 共同通信の配信記事に色めきたった各紙記者に対して、石原氏は翌日の1月24日、国会内で記者団にさらに踏み込んだ発言を繰り返す。維新が昨年12月の両院議員総会でトルコやアラブ首長国連邦などへの原発輸出を可能にする原子力協定に反対する方針を決めたことに対して、「あんなバカな方針。僕は反対した。物事をセンチメントに論じたくない」と断言し、「原子力政策を全部否定することになれば、自分の文明論に反する。党を辞めないわけにはいかない」と息巻いたという(朝日新聞、2014年1月25日)。

 これに対し、松井維新幹事長(大阪府知事)や松野国会議員団幹事長は、「考えが違うわけではない」とか「離党はあり得ない」などと事態の火消しに躍起になったというが、政党理念や基本政策にこれほど大きな違い(亀裂)があればもはや同一政党と見なすことは不可能だろう。東京と大阪の2大都市を表看板にして生れた日本維新の会は、皮肉にも東京都知事選において支持候補が異なるという東西の対立が露わになり、いまや分裂の危機に瀕しているのである。

 日本維新の会が分裂することは、国政への影響力を行使する上で得策でないことは維新の誰もが承知している。それにもかかわらず、大阪維新の会が結いの党や民主党の一部と新党結成(合流)を執拗に目指すのはなぜか。松野氏は「自民党と対抗するためには3桁の数の野党が必要だ」などと主張しているが、それは表向きの理由に過ぎない。大阪維新の会には橋下代表が「維新の名前が消えても構わない」と言うほど、合流を容認せざるを得ない切羽詰まった背景と理由があるのである。

 その背景と理由は、新党結成(合流)の時期が来年2015年春の統一地方選の前に設定されていることでも明らかだ。大阪維新の会は次期統一地方選で全滅に近い敗北が予測されており、このままでいけば(地域政党としても)消滅しかねない危機に直面しているからである。すでにその前兆は時々刻々と顕在化してきており、劇的な幕開けが昨年暮れの大阪府議会における第3セクター大阪府都市開発の株式売却議案の否決だった。

 維新が議席過半数を制している(はずの)大阪府議会において、松井知事提案の議案が維新派議員4人の造反によって否決され、その後4人は除名されて維新が「少数与党」に転落したのである。また3分の1強の議席しかない大阪市議会では、公明の「維新離れ」で大阪都構想関連議案が何一つ通らなくなり、橋下市長も維新も身動きできず立ち往生する事態に陥っている。

 橋下代表や大阪維新の会の幹部が新党結成(合流)をめざす最大の理由は、既成政党の合流によって政党の名前を変えることにある(維新のままでは当選できない)と私は睨んでいる。そのプログラムは以下のようなものだ。
(1)「日本維新の会」や「大阪維新の会」を消滅させて新党を結成し、名前を変えて、新しい政党イメージを打ち出す(中身は変わらない)。
(2)新しい名前と姿で次期統一地方選に臨む。
(3)余勢を駆って2015年11月の大阪ダブル首長選挙に再選を期す。
(4)2016年衆参同時選挙で国政政党として生き残る。

 だが、こんな皮算用がまかり通るほど現実は甘くない。次回は東京都知事選が惹き起す政界再編(野党再編)の行方について論じたい。(つづく)