安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(3)、「護憲円卓会議・兵庫」の議論で明らかになったこと、維新と野党再編の行方をめぐって(その6)

 4月29日の「護憲円卓会議・兵庫」の発足を兼ねたシンポジウムにおいて、安倍内閣自民党の高支持率下での護憲運動のあり方をめぐって興味ある議論が交わされた。このシンポを取材した神戸新聞(2014年4月30日)は、「枠組み超え、護憲を」との見出しで、円卓会議発足の趣旨と3人のパネリストの発言要旨をおよそ次のように報じている。

 冒頭、代表世話人の佐藤氏は、「市民運動の(組織や党派の)しがらみは私にもあるが、それではいけない」と幅広い勢力の結集を訴え、シンポでは従来の枠組みを超えた護憲活動のあり方がテーマになった。これを受けて、政井孝道氏(元朝日新聞論説委員)は「米中韓などの世界情勢が大きく変化し、(保守の間でも親米保守歴史認識重視派との間に亀裂が生じているのに)、日本の革新勢力の認識は変わっていない」と、画一的な「保革対決」論に立った従来の情勢認識に再考を促した。

 広原は、このような情勢の下での具体的な護憲運動の進め方として「自民・公明の改憲反対派とも連携するなど、護憲運動のコペルニクス的転回が必要だ」と問題提起し、岡本仁宏氏(関学教授、政治哲学)は「憲法のスピリット(精神)を守りながら、憲法をよりよく変えることも提案しないと(「護憲」だけのキーワードでは)若者の心はつかめない」と指摘した。要するに「保守=改憲」「革新=護憲」といった従来の枠組みを超えなければ、現在の護憲運動の“カベ”を突破することができないとの共通認識が示されたわけだ。

 実は、このシンポが開催されるまでには込み入った「前史」がある。昨年4月14日に神戸で開かれた「4/14護憲結集討論集会」へ佐藤氏らの実行委員会が各政党へ参加を呼びかけたところ、某政党から「政党が正規の機関で決定した総括や方針を公開討論で変えさせるような集会には参加しない。これは政党への不当な介入であり干渉だ」との思いもかけない回答が返ってきたのである。

 そこには、私が東京のジャーナリスト集団の同人ブログ『リベラル21』(2013年1月28日)に寄せたブログ、「“開かれた選挙総括”を行い、革新政党の旧いイメージを払拭し、広範な護憲勢力を再結集しなければならない。革新政党の不振と衰退は目を覆うばかりだ(6)〜関西から(90)〜」との主張が問題視され、この提言を受けた政党代表との忌憚のない意見交換は、「建設的な意見交換の場になりえない」との意向が記されていた。

 佐藤氏らは、上記のブログは広原の個人的見解であり、討論集会は様々な意見交換を目的とするもので、特定政党の自主的活動へ介入するなどの意思があるはずもない。むしろ講師・政党・市民が異なる意見も含めた建設的な討論こそが主催者側の希望であり、本集会に賛同した人びとはなによりも思想・信条・党派の違いを超えた開かれた討論が今大事との趣旨を理解している、との道理ある回答で再考を促したが結局賛同は得られなかった。

 討論集会はもちろん大成功で、参加した各政党、市民団体、個人は護憲運動をいかに推進するかをめぐって忌憚のない意見交換を行い、議論は大いに盛り上がった。だが主催者側にとっては、この討論集会を通して市民と政党の対話が如何に難しいかがわかったらしく、このような試みを今後も続けるかどうかが相当問題になったようだ。そして何回かの会議を重ねて「護憲円卓会議・兵庫」を結成することで意見が一致し、今回の発足記念シンポに至ったというわけである。

 私自身はこの間の詳しい経過は知らないので、今回のシンポはパネリストの一人として参加したに過ぎない。しかし昨年の経験を同じく共有する者として感じることは、市民運動と政党活動は相対的に独自の存在であって、簡単に連携できるものでもなければ、軽々しく連携すべきものではないということだった。その思いが今回の「護憲運動のコペルニクス的転換が必要」という発言になったわけで、以下、レジュメの一節を紹介する。

【新しい護憲運動の展開、求心型運動から拡散型運動へ】
 憲法をめぐる現段階の特徴は、国会での圧倒的な改憲勢力の存在にもかかわらず、また国政レベルでいまだ護憲統一戦線が形成されていないにもかかわらず、各紙の世論調査でも明らかなように国民の護憲意識が飛躍的に広まりつつあるという一見矛盾した現象があらわれていることである。この“政党と国民世論のギャップ”ともいうべき事態は、国民の護憲意識の広がりに対応できない護憲勢力の構造的弱点(分裂できない民主党、教条的体質を脱皮できない共産党、組合依存の社民党など)に根ざすものであり、いますぐに克服できるとは思われない。

 したがって当面の護憲運動の力点は、これら既成政党・支持政党の枠にこだわることなく、いま広がりつつある護憲意識の流れを市民の間でさらに加速させることが重要かと思われる。つまり安倍支持・自民党支持であろうと公明党支持であろうと、護憲意識を持つ市民諸階層(保守層など)に広く憲法論議の場に参加するよう呼びかけ、憲法9条や96条の精神や意義について交流する運動形態が求められているといえる。

 この新しい護憲運動の特徴は、「護憲派を結集する」(既成革新勢力の結集)という従来の“求心型運動”とは異なり、「保守派・無党派と交流する」という“拡散型運動”に重点を置くことにある。つまり「護憲派革新政党支持者」の結集から「護憲市民=保守派・無党派」との交流への方針転換であり、運動形態の転換である。護憲円卓会議の活動形態との関連で言えば、護憲派をどう結集するかといった戦術・戦略論に終始するのではなく、経営者、業界団体関係者、宗教団体、スポーツ団体、ジャーナリストなど多彩なメンバーを招聘して自由に意見交流し、その中から当面一致できる護憲運動・護憲活動の方向性を見出していくことが考えられる。

 また開催方法や開催頻度から言えば、フォーマルな円卓会議方式もよいが、会議が軌道に乗った段階で常設の会場を確保し、月1回程度の“サロン形式”の懇談会を催すことも考えられる。会場は、行きつけの喫茶店、レストラン、居酒屋、風呂屋などの定休日を利用するか、場合によっては「貸し切り」であってもよい。いずれにしても「決まった日」の「決まった時間」に「決まった場所」に行けば、自由に意見が交流できる機会があればよいということである。(つづく)