沖縄知事選を目前にして苦境に陥った自公連立政権、安倍首相は内外の批判をどう乗り切るか、公明党はまたもや迷走するのか、維新と野党再編の行方をめぐって(その39)

 8月30日夜、京都で小さな会合があり、沖縄知事選をめぐる現地の生々しい情勢報告を聞いた。何よりも目を引いたのは、その場で見た「辺野古中止80%、移設強行、反発広がる」という特大見出しを付けた琉球新報(2014年8月26日)の現物だった。琉球新報は8月23、24の両日、政府が辺野古移設に向けた海底ボーリング調査を開始(強行)したことへの県内電話世論調査を実施し、沖縄県民の世論が圧倒的に「移設反対」に傾いていることを明らかにした。

質問の数は全部で6問、いずれもが米軍普天間基地の帰趨にかかわる重大な内容であり、本来ならば、政府自身が辺野古移設を決定する前に行わなければならない項目だ。調査方法は、電話帳(ハローページ)から地域の人口比率に沿って無作為抽出し、20代以上の男女を対象にするもの。抽出した6013リストのうち電話に出た3981世帯から調査対象者の不在や回答拒否などを除き、610人(1世帯1人ずつ)から回答を得たとしている。調査対象者の不在数が不明なので正確なことはよくわからないが、回答率がかなり低いのが気になる。それを前提とした上で調査結果をみよう。

<質問と回答>
【問1】普天間飛行場の名護市辺野古移設計画で政府は海底ボーリング調査を開始した。今後の移設作業についてどう思うか。「移設作業をそのまま進めるべきだ」20%、「移設作業は中止すべきだ」80%

【問2】ボーリング調査を開始した安倍政権の姿勢を支持するか、しないか。「大いに支持する」4%、「どちらかといえば支持する」14%、「どちらかといえば支持しない」27%、「全く支持しない」55%

【問3】普天間飛行場の返還・移設問題について、どのように解決すべきだと思うか。「沖縄県以外の国内に移設すべきだ」16%、「国外に移設すべきだ」31%、「名護市辺野古に移設すべきだ」10%、「辺野古以外の沖縄県内に移設すべきだ」5%、「無条件に閉鎖・撤去すべきだ」33%、「その他」6%

【問4】政府が辺野古のボーリング調査を開始したことを受け、仲井真知事はどのように対応すべきだと思うか。「知事は埋め立てに向けた政府の作業に大いに協力すべきだ」5%、「知事は政府の作業に協力すべきだが、急がず慎重に対応すべきだ」21%、「知事は政府の作業に協力すべきではなく、少なくとも作業の中断を求めるべきだ」20%、「知事は昨年12月の埋め立て承認の判断を取り消し、埋め立て計画そのものをやめさせるべきだ」54%

【問5】11月の知事選で投票する人を選ぶ際に最も重視することは何か。「普天間飛行場の移設・返還などの基地問題」34%、「経済振興や雇用対策」24%、「医療や福祉、教育問題」19%、「環境問題」5%、「候補者の人柄や、候補者との地縁や血縁」7%、「その他」11%

【問6】どの政党を支持しているか。「自民党」11%、「民主党」4%、「公明党」2%、「共産党」3%、「社民党」5%、「社大党」2%、「支持政党なし」60%など。

 この回答を見て感じることは、安倍政権が米軍普天間基地辺野古移設は既に決定したことであり、沖縄知事選の如何にかかわらず移設工事を進めるとしていることに対して、沖縄県民は政府決定を認めず、また辺野古移設を中止・撤回すべきとの断固たる姿勢を堅持していることだ。このことは普天間問題の解決策について、「県外・国外移設や無条件閉鎖・撤去」を求める意見が80%に達し、「辺野古移設支持」は10%、「辺野古以外の県内移設」が5%にとどまったことでも証明される。

また仲居間知事が県民への公約を裏切って埋め立てを承認したことに対してもこれを既成事実として諦めるのではなく、「埋め立て承認判断を取り消し、計画そのものをやめさせるべきだ」の回答が5割を超えるなど、県知事選を通して辺野古移設を撤回させようとする強い意思が感じられる。そのことは、県知事選で最も重視する政策が「普天間の移設・返還などの基地問題」の回答が34%になるなど、経済振興・雇用対策や医療福祉・教育問題など超える最多の回答率に達したことでも明らかだろう。

 これに関連して注目されるのは、最近になって安倍政権の安全保障政策や経済政策について海外の有力紙が相次いで警告を発していることだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(アジア版)は8月20日の社説で、名護市辺野古で始まった新基地建設について、過去18年に及ぶ県民の根強い反対の中を強行したと指摘し、アジアの自由と秩序は国と地方の協力が一致してこそ維持できると警鐘を鳴らした。そして「普天間をめぐる物語は、壮大な戦略に関わる場合でも、全ての政治は地元だということを思い出させてくれる教訓だ」との主張で結んでいる(沖縄タイムス、2014年8月25日)。

また8月14日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズ社説は、「安倍晋三氏は長期低迷する日本経済を復活させると誓って政権の座に返り咲いた。それから2年近く経った今、概して『アベノミクス』と称される、首相の野心的な経済政策の組み合わせが苦境に陥っている」と断じた。理由は、国内総生産GDP)統計が「日本経済が年率換算で6.8%縮小し、3年以上前に東北地方を襲った大震災と津波以来最悪の景気縮小になったことを示している。エコノミストらが今春に予想していたよりもはるかに深刻なGDP減少だ」というもの。そして「GDPがこれほど大幅に減少した最大の理由は、政府が消費税の引き上げを決めたことだ。日本の公的債務は世界最大で、その結果、歳入の拡大が政府にとって極めて重要な仕事になっている。この目標の達成を後押しするために、安倍氏は今年4月に消費税率の3%引き上げを実施。これが多くの家計と企業の支出パターンを歪めることになった。今週のGDP統計が出た後、安倍氏は、計画されている追加の消費税引き上げがまだ正当化できるのかどうか判断しなければならない。資金力のある日本企業により大きな財政負担を負わせ、家計の負担を軽くした方が賢明かもしれない」と警告をしている(JBプレス、2014年8月15日)。なお同様の指摘は、日経新聞8月29日のコラムで「的を外すアベノミクス」というタイトルでも紹介されており、「安倍晋三首相の『3本の矢』は明らかに的を外している。あるのはたった1本、通貨の下落のみだ」という厳しいものだ(英フィナンシャル・タイムズ特約)。
 
 このような政治経済情勢の下で安倍政権は如何なる舵取りをするのか。あくまでも強行路線を貫いて自爆の道に突き進むのか、それとも沖縄知事選を契機に若干の軌道修正を図るのか、その行方は今度の内閣改造人事を見れば明らかになるだろう。また公明党は沖縄知事選では「自主投票」を決めたとも伝えられるが、一方では那覇市長選で自公統一候補を模索しているとの記事もあり、依然としてその落ち着く先が見えてこない。最後まで「迷走」した振りをしながら、やがては「苦渋の決断」に踏み切るのだろうか。(つづく)