集団的自衛権の行使容認で「平和の党」を捨て、消費税の引き上げで「庶民の党」を捨てる公明党、結党50年を目前にして山口代表の「前のめり発言」が目立つ、維新と野党再編の行方をめぐって(その38)

 集団的自衛権の行使容認に踏み切って以降、公明党山口代表の「前のめり発言」が目立つ。8月21日、広島市の豪雨被害で救出活動が続く中、安倍首相が静養のため山梨県の別荘に戻ったことを野党幹部が批判したのに対して、山口代表は「内閣としてしっかり対応している」と首相を臆面もなく擁護。また安倍首相が20日、広島市の土砂災害の第一報を受けながら静養先の山梨県でゴルフを始め、約1時間プレーを続けたことについても、「ゴルフを中止して官邸に戻り、しかるべき指示を出した。取り立てて非難するには当たらない」と官房長官さながらに首相をかばった(各紙、2014年8月21日)。

一方、これからの最大の政治課題になる消費税10%引き上げ問題に関しても、山口代表は8月26日、札幌市内の講演会で「(自公民)3党で合意したので、われわれは重要な責任を持っている。経済の動向は生き物なので慎重に見ながらも、大局的な判断がなされなければならない」と述べ、消費税率10%への引き上げは予定通り来年10月に実施すべきだとの認識を示した(各紙、8月27日)。

 この状況は、集団的自衛権の議論を始めるにあたって「(この問題で)連立政権を解消するようなことはしない」と述べた山口代表の用意周到な発言意図(布石)を想起させる。つまり議論をしても、それはあくまでも「連立政権の枠内での話し」だと予め枠をはめることで創価学会公明党内の異論を抑えながら(ガス抜きをしながら)、最終的には安倍政権の「下駄の鼻緒」の役目を果たすという山口氏一流の政治手法のことだ。

 消費税引き上げ問題に関しても、山口代表は目下のところは生活必需品に対する軽減税率の適用は不可欠だと強調してはいるが、それはあくまでも「消費税10%引き上げ、来年10月実施」を前提とした話であって、この「大枠を崩すことはできない」との認識では安倍政権と完全に一致している。つまり8月26日の山口発言は、軽減税率の適用は「ペンディング」(留保)にしてもいいから、消費税引き上げは予定通り実施せよとの事実上の「ゴーサイン」なのだ。

 山口代表がこの時期に消費税引き上げをことさら「予定通り」と発言したのは、アベノミクスに危険信号が点滅し始め、消費税引き上げの前提条件とされる景気動向に不安材料が出てきたからだ。内閣府が8月13日に発表した2014年4〜6月期の国内総生産(GDP、実質)は、個人消費の落ち込みにより年率換算でマイナス6.8%となり、その落ち込み幅は東日本大震災が発生した2011年1〜3月期のマイナス6.9%にほぼ匹敵するものとなった。甘利経済・財政担当相は、「全体としては緩やかな回復基調にある。4〜6月の増税後の落ち込みは反動減の範囲内だ」と強弁したが、前回、消費増税があった1997年4〜6月期のGDPは前期比年率マイナス3.5%で、今回の落ち込みのほうがはるかに大きい(日経新聞、8月13日)。

 前回もそうだったが、今回の個人消費の落ち込みは大都市圏と地方圏、高所得層と中低所得層の格差が一段と大きいのが特徴だ。8月22日の日経新聞は、「増税後の消費、地方苦戦」との大見出しを掲げ、スーパーや百貨店の売り上げは関東圏では回復してきているものの、中国四国など地方圏では増税後の消費は回復せず低迷していると指摘している。地方や中低所得層では物価上昇に賃金が追いつかず、実質的な生活水準の切り下げが始まっており、「消費税の特徴として低所得者層ほど重税感が大きい。そのため賃金が伸び悩む地方で日々消費を切り詰める動きが強まっている」のである。

 このことは、内閣府が8月23日に発表した「国民生活に関する世論調査」でもくっきりと出ている。結果は、昨年と比べて現在の生活が「向上している」6%(前年比1.1%増)、「同じようなもの」73%(同4.9%減)、「低下している」21%(同4.1%増)となり、一部の階層(高所得層)では生活の向上が見られるものの、中間層の一部では生活水準の維持が難しくなり、低所得層では生活の低下が顕著になっていることが明らかになった。つまり消費の二極化、生活の階層格差が一段と強まってきているのである(毎日新聞、8月24日)。

 前回の拙ブログでも指摘したように、集団的自衛権の問題は公明党のアイデンティにかかわる「理念」問題であるが、消費税引き上げ問題は学会会員や党員の日々の胃袋にかかわる「現実」問題だ。「現世利益」を何よりも重視する学会会員にとって、消費税引き上げを推進する「庶民の党」などありえないと思うだろうし、もしそれが「予定通り」実施されるとすれば、そこに激しい軋轢が生じることは目に見えている。

 端的に言えば、集団的自衛権の問題は学会・公明党にとっては「一部幹部」の問題だった。学会・公明党の幹部や議員が今まで言ってきたことと、今回の閣議決定の内容との間の矛盾をどう取り繕うかについて散々苦心したのであるが(今もしている)、一般の学会会員・党員はそれを聞いていればよかった。ところが、今回の消費税引き上げの問題はそうはいかない。学会会員・党員のすべてが自ら向き合わなければならない日々の生活上の問題であり、毎日の家計簿の数字に否応なくあらわれる矛盾となって、買い物をする度に「だれがこんなことをしたのか」と自問自答しなければならない切実な問題なのである。

 創価学会に関する各種の研究によって、学会会員の中間層化にともなう「フツー意識」への変化が指摘されている。しかし「フツー」の学会会員であろうと公明党員であろうと、消費税引き上げにともなう生活困難に直面することには変わりない。まして学会会員の多数を占める低所得層にとっては日々の暮らしをどうやり繰りするかの大問題であり、これが単なる信心や座談会で片がつくとは思えない。

 結党50年、集団的自衛権の行使容認で「平和の党」を捨て、消費税の引き上げで「庶民の党」を捨てる公明党は一体どこへ行くのであろうか。そして山口代表の「前のめり発言」はいつまで続くのだろうか。(つづく)