安倍政権の「地方創生」キャンペーンは、日本創生会議の「人口減少・自治体消滅」プロパンダと連動している、日本創生会議の「人口急減社会=地方消滅論」を批判する(その1)

 前回のブログから暫く時間が経過した。お盆休みに始めた本や資料の整理に手間取って収拾がつかなくなり、その後始末に追われていたからだ。でもなんとか格好がついて、家中に本が散乱するカオス状態だけは避けることができた。これからは平常心を取り戻して、いつもの生活に復帰したい。

 この間、日本の政治社会は安倍内閣の改造人事の話題で持ちきりだった。石破幹事長の処遇や女性閣僚の数合わせなど取るに足らない記事で紙面が独占され、アベノミクスの破綻や辺野古基地移設工事の強行など、安倍政権の命運を決するニュースは影が薄かった。その結果が安倍内閣支持率の向上という形になって表われたのであろうが、理由が「女性閣僚の人数が増えたから」というのでは如何にも危うい。「男性もいろいろ」、「女性もいろいろ」だから、化けの皮が剥げる日は案外早いというべきだろう。

今回、ブログのテーマを少し変えたのは、野党再編や公明党の動きを追ってみてもさしたる意味がなく(相変わらず1強多弱の政治構造が続く)、沖縄知事選や福島知事選が終わるまでは安倍政権の動きに変化が見られそうにないからだ。最大の変化要因は「アベノミクスの失速」という経済要因であり、政府は消費税引き上げの反動によるものと強弁しているが、専門家の間では「もはやその域を超えている」との観測がもっぱらだ。

景気動向は政治の手がなかなか及ばない領域であり、なによりも国民の個人消費が本格的に冷え込んでくると工事事業というカンフル注射もあまり効かなくなる。安倍政権の一枚看板だったアベノミクスの化けの皮が剥がれる影響はすこぶる大きく、命取りになるとすればこの要因を置いてほかにない。年内の景気動向がどう推移するかが、これからの政権動向を占う最大のポイントだろう。

ところで、最近になって「地方創生」という言葉がやたらに出てくることに読者諸氏も気付いておられるだろう。地方創生担当の大臣ポストがつくられ、いま話題の石破氏が就任したのである。復興担当大臣ポストと同じく、事務局は各省庁から出向する寄せ集めの官僚集団(しかも少数)であることから、実質的には何もできないことは石破氏自身が一番よく知っているはずだ。なのに、石破氏はこのポストを引き受けたのはなぜか。

多数説は、幹事長続投や安保問題担当相への就任を安倍首相に拒否された結果、やむなく引き受けた(押し込められた)というもの。確かにそういう面は否定できない。しかし、私の見方は少し違う。それは「アベノミクス」という一枚看板に陰りが生じてきた現在、その事態にいかに対処するかという安倍政権の次の政策キャンペーンに深く関係していると思うのである。そして既にその前段作業として、日本創生会議(座長、増田元総務相)の「人口急減社会=地方消滅」プロパガンダが展開されていると考えている。つまり、このままで行けば日本は「人口急減社会」になり、「地方消滅」という国家存亡の危機を迎える。この事態を回避するには、「地方創生」に向かって政府も自治体も(そして国民も)努力しなければならないというわけだ。

「地方創生」という言葉を聞くと、私は1980年代末期に行われた竹下内閣の「ふるさと創生事業」を思い出す。当時はバブル経済の真っ只中、事業内容は地方交付税から交付団体の市町村に1億円を一律に交付し、その使い道について国は関与しないとした政策事業だ。このカネを使って地方自治体の自主的な地域づくりを促進するというのが主旨だから、それはそれで結構なことかもしれないが、僅か1億円の掴み金で一体何ができるのかといった反論や1億円の金塊をつくって住民に見せた(触らせた)だけという首長までが出るに及んで、事業は1回きりで打ち切られた。「ふるさと創生」は掴み金ではできないという見本だろう。

だが、今回の「地方創生」はおそらく「ふるさと創生」とは違った文脈で展開されるのではないか。それは「お金を只で上げます」といった田中角栄の血を引く竹下流の政策ではなく、このままで行けば地方は大変なことになる、だから地方は決死の覚悟で地方創生に取り組まなければならないという「フェア・アピール」(地方の恐怖感を煽り、それを回避しようとする心理を利用して政府の思う方向に誘導する宣伝手法)を大々的に採用すると思うのである。

これは大阪ダブル選挙や堺市長選で橋下氏が最も重視した政策宣伝手法だ。このままで行けば大阪や堺は駄目になる、だからカジノやリニア新幹線うめきたグランフロンやあべのハルカスなどの大規模開発をやらないと大阪は助からない。こうして大阪府民・市民の恐怖感・危機感を散々煽り、その危機を救うのが大阪維新だと主張して有権者の支持を得ようとしたのである。

安倍政権の「地方創生」も基本的には同じシナリオで展開されるだろう。国民の恐怖感・危機感を煽るのは「人口急減社会の進行」とそれにともなう「地方の消滅」であり、その危機回避の方法は、地方における「選択と集中」すなわち地方中枢都市への資源集中と小規模自治体の淘汰、そしてその集大成としての都道府県制の廃止と道州制の導入というわけだ。語り手に相応しいかどうかは別にして地方に人気があるとされる石破氏が起用されたのも、その宣伝効果を狙ってのことだろう。

この9月3日に発行された京都のローカル誌、『ねっとわーく京都』(2014年10月号)で、私は「すべての町は救えない?〜『人口急減社会』・増田提言をどうみる〜」という論説を書いた。詳しくは当誌を見て欲しいが、次回から日本創生会議の意図と思惑を分析してみたい。(つづく)