遅遅として進まない「地方創生」を尻目に「東京一極集中」はますます加速する、安倍政権における目玉政策と経済動向の乖離、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その7)

「地方創生国会」と銘打ち9月29日から始まった鳴り物入り臨時国会が、二枚看板の「地方創生」と「女性活躍」の具体化・政策化において難航している。もともとさしたる準備もないままに思いつきで作った即席の看板だから、中身も裏打ちもないのは当然だが、それにしてもよくもこんな粗雑な看板を掲げたものだと驚きを禁じ得ない。国民と国会を侮辱するものだと言っていい。

臨時国会の開会以来、私は各紙に目を通して「地方創生」関連のニュースを丹念に追っている。しかし、どれもこれも似たりよったりの紙面で具体的な中身がいっこうに浮かび上がってこない。担当記者やデスクも書く材料がないので、仕方なく同じような記事になるのだろう。「地方創生国会」などと安倍政権が大げさな名前を付けたので、政府が開会前に関連法案や施策について万全の準備をしているものと思っていたら、その実態は「国会を開けてから政策を考える」程度のものだったのである。

たとえば10月11日の日経新聞は、「地方創生 5分野重点」と題して7段の大型記事を組んでいる。だが、その内容は「政府は10日、地方創生の司令塔『まち・ひと・しごと創生本部』(本部長・安倍晋三首相)の会合を首相官営で開き、2020年までの『総合戦略』の重点分野として、地方移住や雇用、子育てなど5分野を示した。公共施設や行政サービスの集約も掲げ、人口減少下でも存続できる地域づくりを促す」といった単なる会議の経過報告に過ぎない。

この記事は首相官邸からの記者発表資料をそのまま忠実にコピーしたのであろうが、それにしてもこの担当記者は「地方創生国会」と銘打った国会開会から2週間近く経った現在、政府が今頃になって重点分野の議論を始めたという事態の異常さに気付かないのであろうか。敏腕の政治記者ならこの有様を見て、「地方創生国会」は集団的自衛権行使容認の関連立法や消費税再増税など重要議案をスルーするための「時間稼ぎ国会」あるいは「目くらまし国会」と書くところだ。

そんなことだから「地方創生総合戦略」の5分野といっても、「移住・雇用・子育て・行政集約・地域連携」の5項目を並べただけで、各省庁の既存政策や関連事業とどう違うのか、違うとすれば既存政策とどう整合性を取るのか、「目玉政策」にするのであればどのようにメリハリをつけるのかなどなど、政策イメージが全く湧いてこない。創生本部の幹部が「短期間で各省の似たような事業をまとめるのは難しい」(日経、同上)と漏らしていることがそのことを証明している。

私は最初から、「地方創生」は「アベノミクス」(グローバル企業・大都市・富裕層中心の経済政策)の正体をカモフラージュするための「目くらまし政策」だと考えているのでそれほど驚かないが、「国会を開けてから政策を考える」といったこの事態は、新たな地方対策を期待している人たちにとっては失望以外の何物でもないのではないか。消費税再増税とともに「地方創生」が今後の安倍政権の命取りになる可能性は否定できない。

こうして「地方創生国会」が低迷を極める一方、「東京一極集中」関連のニュースには事欠かない。昨年9月に2020年東京オリンピック開催がIОCで決定されて以降、各紙では連日「東京が沸いている!」と言っていいぐらいのお祭り騒ぎが続いている。前宣伝の口上をつとめるのは、主として財界系シンクタンクエコノミスト(あるいはシンクタンク出身の大学教授)であり、これに不動産開発企業の幹部やゼネコン幹部がその大合唱に加わり、続いて「東京開発ブーム」のニュースが流されるという順序で紙面が増幅されていく。以下、その代表的な事例を少し紹介しよう。

最初は、「東京研究の第一人者」と称される市川宏雄氏(富士総研出身の大学教授)の「日本が生き残るには東京への一極集中しかない」という勇ましい発言だ(朝日新聞オピニオン欄、2013年12月12日)。少し長くなるが、この種の主張としては「これ以上言えない」と思えるほど明快(露骨)なのでできる限り抜粋しよう。
「日本では戦後、ずっと『東京への一極集中は悪』という論調が支配的でした。(略)しかし現実には、60年代は人やカネの三大都市圏への集中だけが進展。(略)80年代は三大都市圏どころか東京への集中が加速しました。(略)バブルが崩壊した90年代も、東京はいち早く回復。日本が人口減少に転じた2000年代も、東京圏だけは人口が増える。東京が引っ張らないと日本はもたないと、考えを改める時期に来ています」
「大都市が国を引っ張るのは、先進国に共通の現象です。第3次産業を軸に大都市が頑張らないと、国は失速する。(略)東京圏は3500万人の人口を擁しながら、治安や環境の悪化、人心の荒廃など大都市特有の負の問題がない。自治体の政策が優れているうえ、東京人が大都市での行動規範を身につけているからです」
「7年後の五輪は東京が次のステップに進む好機です。東京の強みである民間の力を生かすために、規制緩和を大胆に進める。(略)『一票の格差』で地方の国会議員の力が強いことや、1ヶ所だけが潤うのは望ましくないいう心理から、『地域の均衡ある発展』を捨てられなかった日本人ですが、こだわり過ぎは危険です。東京が都市力を高めて世界のトップの一角を占め続けなければ、グローバル経済のなか、我々の生活も脅かされかねません」
「21世紀半ば、日本は人口が8千万人台になり、半分以上が東京圏に住むといいます。東京圏への集積とともに、各地にコンパクトに人々が住む地方都市が存在する巨大な都市国家になる可能性は高い。東京が稼いで国を支え、地方は独自文化と自然を維持し、人々が互いに非日常を求めて交流する――。それが私のハッピーシナリオです」

読者の方々がこの発言をどう感じるか、また私がどう評価するかについては次回に譲りたい。(つづく)