〝小池新党〟の可能性を否定できない、首相官邸では都議会自民党に向けられた都民の怒りの「受け皿」にするべく、小池新党を仕立てようとしている、東京都知事選余聞(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その7)

 都知事選直後から「小池新党」をめぐる噂が絶えない。過半数という圧倒的な自公与党会派を前にして徒手空拳で戦いを挑むことなど、小池知事は毛頭も考えていないからだ。彼女には粘り強い水面下の交渉で与党会派を手なずける気持ちもなければ、ボス連中と妥協する意思もない。「急いで検証を進める」「緊急の課題」「時間がない」など、ことある度に聞こえてくる小池知事の発言は、「強行突破路線」を示唆するものばかりだ。

 彼女の強行突破路線を支えているのは、言うまでもなく都知事選で示された300万近い「小池票」だ。政党の支持を受けずに無党派層を標的にした戦略がまんまと当たり、大量の棄権票を掘り起こして圧勝を修めた自信がその土台になっている。ちょうど大阪で「橋下ブーム」が起った時のような政党不信(自公与党不信)の空気が東京に充満しており、それを利用しない手はないということだろう。

 信頼できるジャーナリストから教えてもらった情報によれば、安倍首相は小池新党に結構入れ込んでいるのだそうである。選挙中は「おおさか維新」の連中が都知事選に手を突っ込まないように厳しく管理していたが、蓋を開けてみると予想外の「小池風」が吹いたことに気をよくして、「これはいける」との確信を深めたらしい。東京の自民党が多少目減りしても構わない。次期総選挙で「小池新党」の風が吹き、おおさか維新改め「日本維新の会」とコラボすれば、勝利の美酒を3度味わうことができると踏んでいるのだそうである。

 私が「小池新党」の可能性が高いと考える理由は、小池知事の次期都議選(2017年6月)対策というよりは、それより以前の今年12月に予定されている安倍首相の次期総選挙対策という側面の方が大きいと思うからだ。今回の参院選では安倍首相が徹底的に改憲論議を回避し、争点隠しを図った。それが功を奏して改憲勢力が「両院3分の2」の宿願を果たしたまではよかったが、その後はいっこうに改憲論議が盛り上がらない。

 マスメディアの世界でも、産経新聞を除いては「慎重な取り扱い」がキーワードになっており、憲法審査会そのものが容易にスタートする気配がない。このままでいくと安倍自民党総裁の任期切れで、折角の「3分の2」勢力が宝の持ち腐れになりかねないことにもなる。そこで何とか格好はつけながら、結局は安倍首相の言いなりになる谷垣幹事長を(病気を口実に)やむなく代え、総裁任期延長のために恥も外聞もなく起用したのが二階幹事長である。

二階氏は和歌山県選出の名だたる土建派議員であり、公共工事に絡む利権獲得のために常に情勢を読み、そのためには政治信条も何もかも投げ捨てて(もともとそれらしきものがないが)、時の権力にすり寄る独特の臭覚を備えている土着の政治家(屋)だ。アベノミクス予算で大盤振る舞いとなった「リニア中央新幹線」への予算投入も、関西財界とゼネコンを応援部隊にした二階氏の「尽力」の成果だと言われており、その論功行賞もあって幹事長に起用されたのだろう。

だが問題は、安倍首相が何を旗印に掲げて次期総選挙を戦うかということにある。もはや改憲勢力「3分の2」を達成した以上、改憲隠しは許されない情勢に突入している。改憲隠しをすれば、「ウソをつく首相」との烙印を押されて政治的に失脚することにもなりかねない。と云って、憲法審査会の政治日程や具体的な改憲項目を掲げるとなると、今度は一気に国民の警戒心が高まり、自民党が大敗する恐れがある(公明党が離反するかもしれない)。世論は依然として「憲法改正反対」の世論が根強く、とくに安倍首相の下での「9条改憲」に対する警戒心が強いからだ。

となると、選挙争点から改憲項目を外しながら、それでいて衆院改憲勢力「3分の2」を維持するという高等戦術が必要になる。私は、それが2020年東京オリンピック開催を口実にした「東京大作戦」であり、具体的にはオリンピック招致委員会の刷新であり、オリンピック関連施設の整理であり、それに便乗したお台場のカジノ誘致など一連の東京プロジェクトの立ち上げだと考える。このような「東京大作戦」はもちろん既成勢力では不可能なので、それを担うのが「小池新党+安倍政権」だとのシナリオを首相官邸が描いているのではないかと推量するのである。

2020年東京オリンピックはすでに手垢にまみれている。まるで「化石」のような森元首相のような人物が依然として実権を握り、政府と東京都を想う様に動かしている醜悪極まりない構図は、舛添前知事の退場で都民の前の周知の事実になった。この事態を放置したままで東京オリンピックを強行することは、都民はもとより国民世論としてももはや許されない情勢になってきている。だからこそ、あれほどの大量票で小池知事が選出されたのである。

首相官邸は、「小池新党」の立ち上げを契機に森元首相を頂点とするオリンピック招致員会の刷新に踏み切り、国民の目を憲法改正から逸らして東京オリンピックに集中させる選挙戦略を描いているのではないか。そう思えば、二階幹事長を森体制刷新のための「汚れ役」として起用した理由も頷ける。「毒を以て毒を治める」のは、古来からの鉄則だからである。(つづく)