トランプ氏の私宅に真っ先に駆け付けた甲斐もなく、安倍政権は袖にされて漂流し始めた、TPP破綻、北方領土交渉の難航、南スーダン駆けつけ警護の危険など、相次ぐ不安材料が安倍政権を取り巻いている、次回世論調査が安倍内閣の支持率の転換点になるだろう、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その28)

 トランプ氏の私宅訪問が安倍政権の外交政策の一環だとするなら、これほど惨めな結果はないだろう。なにしろトランプ氏を「信頼できる指導者だと確信した」と天まで持ち上げたにもかかわらず、直後にトランプ氏がビデオメッセージで「TPPから正式離脱する」と正式に表明したのだから、面目丸つぶれというか、土足で踏みつけられたというか、言葉もないくらいだ。満面に笑みを浮かべたトランプ氏との会見が一転して見る影もなくなったのだから、さすがの能天気な安倍首相といえども深手を負ったことは間違いない。

 それに輪をかけたのがプーチン露大統領との北方領土問題に関する会談の難航だ。今年5月の会談では「停滞を打破すべく、突破口を開く手応えを得ることができた」と語り、9月の会談後は「新しいアプローチに基づく交渉を今後進めて聞く道筋が見えてきた」と自信満々だった。それが今回のペルーで行われた日露首脳会談後は、「解決に向けて道筋は見えてはきているが、そう簡単ではない。着実に一歩一歩前進していきたい」と一転して慎重姿勢に変わった。毎日新聞(2016年11月21日)は、この模様を「『領土』首相勢い鈍る」「日露首脳会談、政府・与党 難航予測し予防線」と伝えている。

 TPPといい北方領土交渉といい、安倍政権が最重要政策として取り組んできた外交課題であるだけに、今回相次いで米露から「挟み撃ち」に遭ったのは、安倍政権にとって手痛い打撃だった。これまで「12月解散」が喧伝されてきたのはひとえにこれら2つの外交案件の前進を前提としたものであり、その前提が消滅すれば「解散の御旗」もなくなる。解散必至とみて走り出していた陣営の間に混迷が広がっているのも無理はない。

 おまけに、南スーダンでは首都ジュバの治安状態が悪化している。「ジュバ 非常に不安定」「南スーダンPKО 軍統括が認識」との伝えた朝日新聞(11月26日)は、国連南スーダン派遣団の軍司令官代理が大統領派と前副大統領派の対立について「和平合意が維持されているとは言えない」、ジュバの治安状況は「予測不可能で非常に不安定」と語ったという。現地に7時間滞在しただけの稲田防衛相が「現地情勢は落ち着いている」とする認識とは大違いだ。

 各紙の見出しにはいま盛んに「TPP漂流」との活字が躍っているが、私は近く「安倍政権漂流」の見出しがそろそろ出始める頃だと考えている。なぜなら先に挙げたTPP、北方領土交渉、自衛隊南スーダン駆けつけ警護のどれ一つをとってみても、安倍政権がこの難題・難局を乗り切るカードを持っているとは到底思えないからだ。ならば、内政上の課題でこれを埋め合わせるだけのヒット政策があるかと言えば、「1億総活躍社会」も「地方創生」ももうとっくの昔にお蔵入りしている。代わって打ち出した「働き方改革」も、電通女性社員の過労自殺で一挙に吹っ飛んでしまった。加えて「年金カット法案」がまたもや衆院委員会で強行採決されるのだから、これでは幾ら辛抱強い国民といえども安倍政権の先行きに期待が持てるはずがない。

 おそらく次回の世論調査安倍内閣支持率の転換点になるだろう。アメリカ大統領選直後の読売・産経調査では、「トランプショック」もあって一時的に内閣支持率がアップしたが、いつまでも「オオカミ少年」の脅かしが利くはずがない。日が経つにつれて国民は周辺を冷静に見渡すようになり、「安倍政権って何をしたの?」「何をしてくれたの?」と気づくようになる。安倍政権の「終わりの始まり」が漸く現実のものになるときがやって来たのである。

 問題は、安倍政権に取って代わる政権構想がいっこうにはっきりしないことだ。共産党は11月16日に採択した大会決議案のなかで「野党連合政権」の基本路線として、(1)共通公約、(2)相互推薦・支援、(3)政権問題での前向きの合意を盛り込み、「本気の共闘」を目指すというが、肝心の民進党の態度がいっこうに煮え切らない。というよりは、野田幹事長の11月21日の記者会見にもあるように、「基本的な政策が一致しない、理念が違う政党と政権をともにすることはできない。何度も言ってきている」と明言し、蓮舫代表も共産党の野党による連立政権構想について「共産党の片思いの話」と語り、応じない考えをはっきり示している(毎日新聞11月22日)。
 
 このままでは「安倍政権漂流」と「野党共闘漂流」が同時進行することになり、国民の政治不信と混迷感だけが深刻化することにもなりかねない。どこかでこのような「あいまいな流れ」を断ち切り、すっきりとした野党政権構想を示すべき時に来ているのではないか。そのためにはいつまでも蓮舫代表や野田幹事長に望みをかけるようなことは止めて、この際「民進党抜き」の共同路線を市民側から提起してはどうだろうか。こうすることによって野党共闘の問題点が国民の前に明らかになり、「本気の野党共闘」と「あいまいな野党共闘」との違いが鮮明になるのではないか。
 「実務者協議」などと称して野党間の密室協議をだらだらと続けることは、「本気の野党共闘」に期待する国民に失望を与える。問題点を明らかにして事態を打開することが求められているのである。安倍政権の「票流」をいつまでも放置しないためにも。(つづく)