安倍政権の(連続)強行採決は野党共闘の不成立を見越してのことだ、このままだと安倍政権の軍国主義化は止められない、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その29)

 相次ぐ(連日の)自公維3党の強行採決で、国会はもはや「議決機関」ではなくて単なる「可決機関」に変質してしまったかのようだ。TPP承認案、年金カット法案、カジノ法案のいずれもが議論を尽くすことなく衆院(同委員会)で自公維3党の手で強行採決され、「国権の最高機関」たる国会は与党3党の「可決機関」になり下がってしまった。このままではどんな悪法でも国会をスイスイと通ることになり、国会は事実上の安倍政権「翼賛議会」に化しつつある。

 安倍政権の強硬姿勢は2つの要因から成り立っている。1つは日本維新の会を手中に収めることで、これまでの自公2党から自公維3党へ与党体制を強化したこと、もう1つは民進党の思惑で野党共闘が難航し、次期総選挙でも成立する見通しが薄いことの2点である。

 前者についてはもう説明の必要もないが、日本維新の会が要求する露骨な利益供与に首相官邸が臆面もなく応じ、大阪万博申請やカジノ誘致協力と引き換えに、同党を与党議案の「自動賛成ボタン」にする取引が成立したことだ。このことで、これまでは慎重ポーズを取りながら、結局は自民党に追随してきた公明党に対する面倒くさい「配慮」は不必要となり、「スピード強行採決」が可能になったのである。

 後者の野党共闘の方は、いっこうに見通しがつかないことが安倍政権の驕りを一段と高めている。自由党小沢共同代表は11月27日、「年内野党共闘構築を」と盛んにアドバルーンを上げ、「年末年始の衆院解散を前提に選挙準備を進めている。今後の1カ月で何としても野党の連帯の形をつくり上げたい」と述べ、共闘の在り方については「単に候補者を一本化しただけでは自公政権を倒せない。野党全体で支援態勢を構築し、力を合わせないといけない」と強調した。また会合終了後には「本当の野党共闘ができたら、自民党衆院選での獲得議席は100程度にまで減り、野党が圧勝する」と語ったという(共同通信毎日新聞2016年11月28日)。

 ところが、民進党野田幹事長の方は依然として真逆の発言を続けている。11月27日、地元の千葉県船橋市内で開いた会合で、共産党を含めた野党共闘について「私は自衛官のせがれで、(自衛隊解消を綱領に掲げる)共産党に対する意識は、どなたよりも強烈だ。魂は売らない」と述べ、この後、記者団の取材に対し、共産党が求める共通政策の策定や相互推薦に関しては「できる限りの協力の中で、判断していかなければならない」と述べるにとどめた(時事通信ドットコム、11月27日)。要するに、野党間の政策協議をするつもりもないし、候補者の相互推薦にも応じないが、「できる限り(範囲)の協力」で、民進党中心の候補者一本化を推進したいとの虫のいい話をしただけだ。

 いわば「安倍1強体制」がますます強化されるその一方で、「野党多弱体制」がこのまま続くといった情勢の下では、国民世論の出口(突破口)が見つからないのも当然だろう。私はトランプショックで安倍政権の政策が行き詰まり、内閣支持率が下降局面に傾くと考えていたが、その後の各紙の世論調査をみると、政策の行き詰まりは明白だが、内閣支持率は依然として高いという状態は変わっていない。

 たとえば、11月26、27両日に実施された共同通信社世論調査では、TPP承認案と関連法案を今国会で成立させることに、「成立させるべき」14%、「慎重審議すべき」69%、「成立させる必要なし」13%と、賛成意見は極めて少ない。また年金カット法案に対しては、「賛成」34%、「反対」58%と反対意見が過半数を占めている。ところが、内閣支持率の方は前回10月末に比べて何と54%から61%に7ポイントも上がっているのである。

 安倍政権にとってこれほどありがたい情勢はない。国民が反対する法案をいくら強行採決しても内閣支持率が下がらないのだから、「イケイケどんどん」の国会運営が可能となる。連続強行採決に走る所以だ。この間の情勢分析については、毎日新聞11月30日の記事が参考になる。
 ――民進党などが(年金法案衆院採決に対する)徹底抗戦を避けたのは、早期の衆院解散への警戒からだった。与党内では野党が徹底抗戦を貫いた場合、国会会期末の衆院解散をちらつかせながら会期を年末まで再延長する「2段階延長論」もくすぶるが、野党の次期衆院選準備は遅れている。民進党は約210人の擁立を決めたが、共産党も約180人の立候補予定者を決定。約140選挙区で両党が競合するが候補者調整も進んでいない。
 ――衆院解散を巡っては、安倍晋三首相が年末や年明けなど早期に踏み切るのではないかとの憶測が与党内でもくすぶる。(略)早期解散の憶測には、報道各社の世論調査内閣支持率が上昇傾向にあることが拍車をかけている。党内には、アベノミクスの成果が見通せないこともあり、議席の目減りが最小限にとどまるとの観測から、支持率が高いうちの早期解散に期待する声も大きい。

 安倍政権の早期解散を恐れて稀代の悪法にも徹底抗戦しない。それでいて野党共闘の方はのらりくらりと言を左右にして方向性を示さない――、こんな野田幹事長の態度は、結果として民進党が安倍政権の「側面支援部隊」の役割を果たしていることが明らかだろう。これは事実上の「自公維3党+民進党=翼賛体制」の成立であり、この事態は自衛隊南スーダン駆けつけ警護を機に、安倍政権の軍国主義化にさらなる拍車をかけることになる。「自衛隊のせがれ」を誇示する野田幹事長の面目躍如というところだ。(つづく)