大統領就任前のトランプ氏の私宅にゴルフクラブを手土産に馳せ参じ、家族同席で会談することなど、これが一国の首相がすることか、「世界で自分が一番早く会った」と得意顔で語る安倍首相の幼さと浅はかさ、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その27)

11月18日のテレビニュースは、安倍首相のトランプタワー訪問一色で染まった。安倍首相は会談後、記者団に対し「胸襟を開いて率直に話ができた」と述べ、トランプ氏については「信頼できる指導者だと確信した」と語った。会談の中身については、まだ次期大統領であり、今回は非公式会談ということで「お話しすることは差し控えたい」と明らかにしなかった。

日経新聞(11月19日)はこの会談を「異例、異例、異例」と3連打する「異例」の見出しをつけて報じたが、小見出しが「米政府の関与見えず」「家族同席」「発言要領の紙なし」「会うこと自体が成果」とあるように、安倍首相はとにかくトランプ氏と直接会うことでパイプをつくり、「個人的信頼」を築くために焦りに焦った結果がこの異例の私宅訪問になったのだろう。安倍首相はなぜそんなに焦るのか。

 前々回の拙ブログで、安倍政権はいま崖っ縁に立たされている。TPP挫折、黒田金融政策の破綻、南スーダン駆けつけ警護にともなう犠牲者発生の可能性という「3大危機」が今後、安倍政権を容赦なく襲うだろう―と書いた。「3大危機」の中でも、とりわけTPP問題が当面する焦眉の課題であることは言うまでもない。当該議案の審議が目下参院で進行中であり、安倍首相はアメリカが離脱表明しているのに、なぜ日本だけが突出して批准しなければならないのか、連日批判に曝されているからだ。

 この批判をかわすためには、トランプ氏と一刻も早く会って真意を確かめ、まだTPPにも可能性が残っているとの「ゼスチャー」を示す必要があったのだろう。そこで私邸訪問でも何でもいいから会うことに執着し、中身は無くても「会うこと自体が成果」であり、「個人的信頼関係」が築けたとテレビの前で「ポーズ」をとることで、この危機を何とか乗り切ろうと考えたのだ。

幼稚で浅はかな考えだ。海千山千のトランプ氏が初めて会った安倍首相に真意を漏らすはずもなく、まして選挙公約であるTPP離脱を翻すはずもない。家族を同席させてこれは「私的な会合」にすぎず、国家間の「公的な会合」でないことをわざわざ写真で示すことで、アメリカの基本政策に何ら変更がないことを見せつけただけなのだ。

とはいえ、トランプ氏が政権移行チームの仕事に忙殺されているときに、敢えて安倍首相の「個人的要請」に応えた政治的意図は検討に値する。昨夜、京都市内で開かれた研究会でもこのことが話題になり、トランプ氏が安倍首相に「貸し」をつくった意図と背景について議論が盛り上がった。有力な意見は、トランプ氏が在日駐留米軍の経費全面負担に日本が同意しないときは米軍を引き上げるなどと脅していることと関連して、安倍政権がアメリカの「外圧」を利用して今後軍備増強に乗り出すことを見越し、アメリカの武器産業の有力な輸出先である日本にツバをつけておくために会った―というものだ。

トランプ氏が「世界の警察官から手を引く」ということと、アメリカの武器輸出をエスカレートすることの間には何の矛盾もない。要するに、アメリカの負担を減らして各国に肩代わりさせるが、そこで使われる武器はすべてアメリカ製を買わせるということだ。こうなるとアメリカ国内の武器産業や関連作業は潤い、「アメリカン・ファースト」(アメリカ第1主義)のトランプ氏の公約を実現できる。日本は最大の武器市場であり、安倍首相はその有力な「金づる」になると見込んだので会ったまでのことだ。およそ、政治家間の「信頼関係」とはこのような政治的取引と利害関係に絡んだものであり、それ以上でもそれ以下でもないのである。(つづく)