安倍内閣支持率急落の根本原因は「首相の信頼」が失われたことにある、政権の土台である「信なくば立たず」が喪失した安倍政権への打撃は大きい、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(36)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その67)

 読売新聞が、内閣の支持・不支持の理由として6つの回答を用意している。これをグルーピングすると、およそ3つのグループに分かれるように思う。
〇第1グループ、支持政党やそれらに対する相対的評価を基準にして内閣の支持・不支持を決める回答。「自民党中心の政権だから(支持する、支持しない)」「これまでの内閣よりよい、これまでの内閣の方がよい」がこれに該当する。
〇第2グループ、内閣の政策やそれを担う閣僚に対する評価を基準にして支持・不支持を決める回答。「政策に期待できる、できない」「閣僚の顔ぶれがよい、よくない」である。
〇第3グループ、首相個人の人格・能力に対する評価を基準にして支持・不支持を決める回答。「首相が信頼できる、できない」「首相に指導力がある、ない」である。

前回の拙ブログで述べた支持率40%台、不支持率40%台(以上)になった過去10回の世論調査のうち、(1)支持・不支持の理由を尋ねている7回分(支持・不支持が拮抗した2014年7月〜12月の2回分、2015年7月〜2016年3月の5回分)、(2)内閣支持率がほぼ60%台を維持した絶頂期の2017年1月〜5月までの6回分、(3)今回の2017年6月の回答を比較してみる。以下の数字は、回答全体を母数(100%)にして支持・不支持別の理由が回答全体に占める割合を算出し、その分布範囲(最低%〜最高%)を示したものである。たとえば、支持率60%、不支持率30%の世論調査の場合は、支持理由の「政策に期待できる」の全体に占める割合は〈支持率60%×支持理由16%=9.6%〉となり、不支持理由の「政策に期待できない」の割合は〈不支持率30%×不支持理由26%=7.8%〉になる。

【支持理由の変遷、拮抗期→絶頂期→急落期】
〇「自民党中心の政権だから」3.8〜6.4%→4.3〜7.2%→5.9%
〇「これまでの内閣よりよい」18.1〜22.1%→23.2〜27.5%→22.5%
 〇「政策に期待できる」6.9〜9.3%→7.3〜9.8%→5.4%
 〇「閣僚の顔ぶれがよい」0.4〜1.8%→0〜0.7%→0.5%
 〇「首相が信頼できる」3.4〜4.7%→6.2〜8.5%→7.3%
 〇「首相に指導力がある」7.7〜9.3%→8.5〜13.4%→6.4%

【不支持理由の変遷、拮抗期→絶頂期→急落期】
〇「自民党中心の政権だから」7.6〜14.4%→5.3〜6.9%→8.6%
〇「これまでの内閣の方がよい」0.4〜2.3%→0.6〜1.3%→1.2%
 〇「政策に期待できない」10.4〜14.7%→5.8〜9.6%→6.6%
 〇「閣僚の顔ぶれがよくない」1.4〜2.4%→2.2〜4.3%→2.9%
 〇「首相が信頼できない」8.2〜17.6%→5.3〜10.7%→20.0%
 〇「首相に指導力がない」1.2〜2.3%→0.8〜1.6%→0.4%

ここから言えることは、安倍内閣は支持率が低下した拮抗期においても、支持理由からすると、「これまでの内閣よりよい(まし)=ソフトな保守支持層」(20%前後)と「自民党中心の政権だから=ハードな保守支持層」(5%前後)に支えられ、安定した支持基盤を維持してきたということである。これに「政策に期待できる」(8%前後)、「首相に指導力がある」(8%前後)、「首相が信頼できる」(4%前後)とする「保守系無党派層」(20%前後)が加わり、拮抗期においても過半数近い支持を獲得して強固な政治基盤を築いてきた。「ソフトな保守支持層」が占める割合が全体の2割と大きいことが、何よりも安倍政権の安定した支持基盤の土台になっている。

これが絶頂期になると、「ソフトな保守支持層」(25%前後)がさらに膨らみ、「ハードな保守支持層」(6%前後)を加えて3割を優に超える支持基盤が形成される。これに「首相の指導力」(11%前後)、「首相への信頼」(7%前後)に関する理由が伸長して「保守系無党派層」(26%前後)も拡大し、安定した過半数支持が実現する。ただ、支持率が急落した今回の2017年6月調査においては、「ソフトな保守支持層」(23%)がやや減り、「首相の指導力」(6%)が半減したことの影響で「保守系無党派層」(20%)が縮小したことが注目される。ただし、いずれの支持理由をとって見ても、支持理由は拮抗期とほぼ同じレベルにあって、安倍内閣の支持構造に大きな変調は見られない。

一方、不支持理由に関しては、時期によって変動幅が大きいのが特徴である。これは保守の支持基盤が安定しているのに対して、革新の支持基盤が薄いことを反映している。「自民党中心の政権だから(支持しない)=ハードな革新支持層」は拮抗期においても7%から14%まで2倍近い開きがあり、絶頂期では数%台に落ち込み、今回においても9%弱と1割にも達していない。

不支持理由は、政策や閣僚、首相の人格や能力についても敏感に反応するのが特徴だ。これは、いわゆる「革新系無党派」「リベラル系無党派」の意向を示す指標であり、不支持理由の中では「首相が信頼できない」と「政策に期待できない」が2大理由となっている。拮抗期では両者を合わせると20数%に達し、不支持率が支持率を上回った2015年7月には32%に達した。また、絶頂期においても両者を合わせて10数%の水準を維持しており、これに「ハードな革新支持層」数%を加えた20%前後が「アンチ保守層」と言える。

問題は、今回支持率が急落した段階で不支持理由がどう変化したかである。2大不支持理由の「首相が信頼できない」「政策に期待できない」は、これまでの調査では常に1位、2位を占める位置にあったが、今回は「首相が信頼できない」がダントツ1位で20%に達し(2位は「自民党中心の政権だから」9%)、「政策に期待できない」(7%)は大きく後退した。これは内閣支持・不支持のメルクマールが政策を勘案した基準から、「首相の人格」に1点集中とも言える劇的なシフトを示すものだ。

この背景には、これまで安倍内閣を支持してきた「ソフトな保守層」や「保守系無党派層」の一部が不支持に転じ、その受け皿になったのが「首相が信頼できない」という不支持理由であったことを窺わせる。先程の支持理由の分析と併せて言えば、安倍内閣支持層の本体はまだ崩れていないが、その表層部分である「ソフトな保守層」や「保守系無党派層」の一部が首相の人格に見切りをつけて離反しつつあることをあらわしているのである。

東京都議選に関する世論調査を6月26日に発表した読売新聞は、小池知事率いる「都民ファーストの会」の優勢を伝えると同時に、安倍内閣の支持率の行方に関しても次のような結果を記している。
自民党は、加計学園問題などで世論の批判にさらされるなかでの選挙になった。都内有権者を対象とした今回の調査では、安倍内閣を『支持する』と答えて人は前回調査から9ポイント下落して39%、『支持しない』と答えた人は50%だった。『支持する』と答えた人の投票先でも自民党候補は46%にとどまっており、浸透し切れていない」

全国世論調査安倍内閣の支持率が30%台になったことはこれまでないが、その予兆が都議選であらわれたというわけだ。また、安倍内閣の支持者が自民党候補に投票するかどうかも危ぶまれている。「明日の国政選挙」の前哨戦となる都議選の選挙結果が待たれる。(つづく)