ピタリと止んだ共産党機関紙「赤旗」の〝松竹除名問題キャンペーン〟「撃ち方止め!」との号令が天から下ったからか、共産党党首公選問題を考える(その2)、岸田内閣と野党共闘(37)

 松竹伸幸氏の『シン・日本共産党宣言、ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文春新書)が1月19日に刊行されて以来、共産党が機関紙「赤旗」で(機関銃のように)連日繰り広げてきた〝松竹除名問題キャンペーン“がこのところピタリと止んでいる。2月18日の「おはようニュース問答、大手メディアの共産党バッシングをどうみる?」「松竹氏をめぐる問題Q&A、志位委員長会見から」(日曜版)を最後に、それ以降は同種の記事や主張がどこを探しても見つからなくなった。「赤旗」が総力挙げて反撃体制を構え、編集局次長や政治部長などを動員して論陣を張っていたにもかかわらず、2月19日以降、ピタリと反撃を止めたのはなぜか。

 

 大手メディアの間では朝日・毎日両紙の社説以降、まだ詳しい解説記事が出ていない。だが、産経新聞(2月20日デジタル版)が小池書記局長の記者会見を次のように報じたのが目を引いた。

 ――ジャーナリストの松竹伸幸氏が「分派活動」を理由に共産党から除名された問題で、小池晃書記局長は20日の記者会見で、松竹氏の同調者と認定された党員や処分の有無に関して「それは今、検討中だ」と述べた...。

 

 松竹氏の同調者と認定された党員は、おそらく『志位和夫委員長への手紙、日本共産党の新生を願って』(かもがわ出版)を刊行した鈴木元氏(京都府委員会元常任委員)だと思われる。しかし、松竹氏が2週間余りで「スピード除名」されたことを思えば、鈴木氏の場合は如何にも時間がかかりすぎている。単なる手続き上の問題ではなく、何か別の問題が生じているのではないか。

 

 この件に関して、京都ではさまざまな風聞が流れているが、確かなことは分からない。ただ、以前から志位委員長に対して辞任を求める声が各層から上がっていたが、今回の松竹除名問題によってそれが一気に広がったような気がする。口さがない京都人の間では、それが右であれ左であれ「反権力」「反権威」の気風が強く、批判を厭わない空気が形成されている。そもそも〝民主集中制〟なる共産党の組織原則が絶対的に正しいとは誰も思っていないからだ。

 

 志位委員長に対する不信感が一挙に高まったのは、2021年10月の第49回総選挙のときからのことだ。志位委員長は、この総選挙を「日本の命運がかかった歴史的選挙」「党の歴史で初めて、政権交代、新しい政権の実現に挑戦する選挙」と位置付け、「日本共産党は、総選挙で何としても本気の共闘の態勢をつくりあげ、政権交代を実現し、新しい政権――野党連合政権をつくるために、あらゆる知恵と力をつくす決意であります」と大号令をかけた(赤旗2021年9月9日)。

 

 しかし、京都での「野党共闘」の実態といえば、野党間の政策合意もなければ相互支援協定も結ばれず、野党統一候補も実現しなかった。共産党の野党共闘への呼びかけに対して、前原氏などの国民民主党はもとより、福山氏や泉氏が率いる立憲民主党も応じることはなかった。にもかかわらず、共産党は京都1区で「穀田氏を当選させるため」と称して京都3区での候補者擁立を見送り、これを事実上の「野党共闘」だとみなしたのである。

 

 結果は悲惨極まりないものだった。当選9回で党国対委員長の要職にある穀田候補6万5201票は、自民新人候補8万6238票に2万票を超える大差をつけられ、あまつさえ維新新人候補6万2007票に3000票差にまで詰め寄られた。これを2017年10月の第48回総選挙と比較すると、自民候補8万8106票、穀田候補6万1938票、希望の党新人候補3万6134票だから、その政治構図はほとんど変わっていない。変わったのは、維新新人候補が国民民主や立憲民主の支持票を得て穀田候補に肉薄したことだけであり、野党共闘は影も形もなかったのである。志位委員長のいう「党の歴史で初めての政権交代、新しい政権の実現に挑戦する選挙」は全くの幻想にすぎず、それをまざまざと示したのが京都での選挙結果だったのである。

 

 しかし、京都3区の方はもっと影響が大きかった。共産党が京都1区での「見返り」を期待して3区での候補擁立を見送った結果、立憲民主党の泉氏が楽々と当選し、泉氏はこの高得票を材料にして立憲民主党代表に首尾よく就任したからである。泉氏は「提案する野党」を掲げて野党共闘路線を崩壊させ、岸田内閣が国会運営をほしいままにする状況を意図的に作り出した(現在では維新と国会共闘を組むまでになっている)。この泉路線を事実上後押ししたのが共産党であり、それが志位委員長の指示に基づくものであったことは否定しようがない。京都では(老いたる京童を含めて)かくなる戦略上の誤りを犯した志位委員長は「A級戦犯」であり、一刻も早く退陣すべきだと考えている人が多い。

 

 話を元に戻そう。赤旗があれだけ声高に叫んでいた〝松竹除名問題キャンペーン〟を突如止めたのはなぜか。「週刊現代ストーリー」(現代ビジネス2月22日版)には、共産党関係者の話として興味深い話題が紹介されている。これを「ガセネタ」だと決めつけて一蹴するのもよいが、ここでは一種の「世間話」として紹介しておこう。なお、「 」内は共産党関係者の言葉である。

 ――「共産党の委員長を天皇にたとえるのは皮肉が過ぎるかもしれませんが、志位氏が天皇だとしたら、上皇としてまさに院政を敷くのが不破哲三前議長(93)です。不破氏の考えに志位氏が反対することはなかなか難しい。そんな不破氏がついに志位氏の交代を視野に動き始めたようです」

 コトの発端は、1月19日に同党の党員でジャーナリスト・松竹伸幸氏による『シン・日本共産党宣言、ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文春新書)が刊行されたことだった。「松竹氏は会見で志位氏の在任期間が22年にわたっている点について“国民の常識からかけ離れていると言わざるを得ない”と指摘しました。そう言われると政治に詳しくない人も“確かにそうだよなぁ”と感じるところもあり、共産党は時代錯誤的だと思った人も少なくないのかもしれません」。共産党の動きは速く、松竹氏の除名が2月6日に確定した。

 これに対して朝日新聞は同月8日の社説で「共産党員の除名、国民遠ざける異論封じ」、毎日新聞も同様に10日、「共産の党員除名、時代にそぐわぬ異論封じ」との社説を展開した。志位氏は会見で「あまりに不見識。朝日に指図されるいわれはないんです」と訴え、毎日に対しては田村智子政策委員長(57)も会見で、「憲法上の結社の自由という立場に立った時に、この社説はあまりにも見識を欠いたものではないか」「党に対する攻撃と攪乱以外のなにものでもない」と主張した。

 「共産党側の過剰なリアクションを見るにつけ、松竹氏が引き金を引いた一連の批判が共産党にとって痛かったのは間違いないでしょう。良くも悪くも共産党は世間の耳目を集めることがほとんどないため、危機管理に対する感覚も鈍くなっていたのかもしれません。少なくとも松竹氏をスピード除名したのは失策だと指摘されていますね」

 同様に失策だと感じているのは、他ならぬ不破氏だ。「執行部の対応ぶりを注視する中、『委員長もそろそろ……』という判断になったようです。顔となる人物が旧態依然としていては停滞するばかりの党勢の拡大など望めない。それを思い知らされた一件だったのでしょう」。「今や党の危急存亡のときで、とりわけ若い層にどれだけアピールできるかがテーマ。最終的には最高幹部である小池晃書記局長(62)か田村副委員長が昇格する可能性ももちろんありますが、『30代の劇薬』を投入しなければ立ち行かないほど追い詰められていることも事実。最速で来年の党大会で交代があり得ると噂されています」。

 

 この世間話は、図らずも現在の共産党の体質を象徴しているかのようだ。国民や社会の批判、メディアの主張などに対しては、これを「攻撃」とみなして激しく反撃するが、上御一人の言葉にはひれ伏すかのように従う――といった上意下達の体質である。またこの世間話は、〝松竹除名問題キャンペーン〟がピタリと止んだ現在の状況も的確に説明している。赤旗はあれほど激しく反撃していたにもかかわらず、その後はまるで何事もなかったかのように沈黙を続けている。一貫して問題の解明に取り組むことがジャーナリズムの使命だとするなら、赤旗はこの問題について「ある日突然」沈黙した理由を明らかにしなければならないのではないか。

 

 仮に不破議長が志位委員長に引導を渡して退陣させる――といったシナリオが実現したとしよう。しかし、またしても志位氏(68歳)が不破氏の年齢(93歳)まで議長を続けることになれば、これからも四半世紀にわたって共産党の体質はなお変わらないことになる。これは悪夢としか言いようのない事態であり、国民や社会が愛想を尽かすこと疑いなしだ。繰り返して言うが、いま共産党は存続の正念場に立っている。(つづく)