「政治には節目必要」「体力があるうちにバトンタッチするのが常道」、穀田恵二共産党衆院議員(比例近畿・当選10回)が引退表明、共産党党首公選問題を考える(その15)、岸田内閣と野党共闘(56)

 共産党の穀田恵二衆院議員(76歳)は6月23日、次期衆院選に立候補せず、引退すると表明した。その理由は「政治には節目が必要」「体力があるうちにバトンタッチするのが常道」というものだ(朝日新聞6月24日)。これまでも穀田氏は(高齢を理由に)過去幾度か引退が噂されていたが、1997年から党の国対委員長を四半世紀にわたって務めてきたこともあり、「余人を以て代えがたい」ということでズルズルと引き延ばされてきたのである。

 

 京都1区で連続トップ当選を続けてきた伊吹文明氏(自民、元衆院議長)が引退した前回衆院選(2021年)では、共産が小選挙区(京都1区)で勝利する「千載一遇のチャンス」として、京都3区(現職泉健太氏)での党候補者擁立を見送り、立憲との(票の)バーター取引を期待した。しかし立憲の協力は得られず、自民新人候補に大きく票を開けられて当選は叶わなかった(比例では復活)。それでも穀田氏は、泉氏は自分と同じく「立命館大学の同窓生」であり、その勝利を「野党共闘の成果」と祝福して今後の活躍に大きな期待を寄せていたのである。

 

 今回の引退表明記者会見においても、穀田氏は「政権交代、市民と野党の共闘に何らかの形で参加できたことにも意味があった」(朝日、同上)と振り返り、泉氏を「野党統一候補」として支援したことの誤りを認めていない(正当化している)。だがその後、立憲代表に選ばれた泉氏は、一転して「非自民・非共産」の〝中道リベラル路線〟に舵を切り、維新との国会共闘は推進したが、共産との選挙協力は一貫して拒否し、野党共闘を崩壊させた。次期衆院選においても「選挙は独自でやるもの」との姿勢は変えていない。泉氏の政治評価を(決定的に)誤った穀田氏の政治生命は、この時点ですでに終わっていたのである。

 

 穀田氏の引退表明にはもう一つ、抜き差しならぬ京都の選挙環境の変化がある。それは、維新の若手候補の擁立に伴う〝世代交代〟の波が、京都にも恐ろしいほどの勢いで押し寄せているからだ。もはや「長老」「重鎮」「ベテラン」といったブランドはまったく通用しない。穀田氏に象徴されるような高齢の現職議員は、もうそれだけで忌避されるような空気が広がっている。長期にわたる自公連立政権に倦んだ有権者が新しい政治を求め、それが「若い候補者」を感覚的に支持する背景になっているのである。

 

こんな空気を察知したのか、この間立憲と国会共闘を組んでいたはずの維新が5月24日、藤田幹事長の記者会見で次期衆院選の京都3区に新人の会社社長(44歳)を擁立すると突如発表した(京都新聞5月25日)。まるで「昨日の友は今日の敵」を地で行くような出来事だったので、維新との国会共闘に政治生命をかけていた泉氏はさぞかし驚いたことだろう。まさか自分の選挙区に維新が対立候補を擁立するとは、夢にも考えていなかったからだ。

 

 この様子を見ていた自民にも衝撃が走った。京都の小選挙区6区のうち自民は僅か2議席しか占めていない。残りは立憲2議席、国民1議席、無所属1議席。ここに維新が割り込んでくるとなると、大阪と同じく京都でも自民が「維新に弾き飛ばされる」ことになりかねない。維新は、京都3区に引き続いて京都4区でも25歳の若手弁護士を擁立すると発表した(朝日、6月27日)。直近の芦屋市長選挙では「灘高・東大・ハーヴァード大」出身の25歳市長が当選したばかり、それにあやかったわけではないだろうが、「地元公立高校・東大法学部卒・在学中司法試験合格」といった輝かしいブランドを背負った若手弁護士の擁立だ。芦屋市長選と同じく、次期衆院選でも「若手ブーム」が巻き起こることは間違いない。

 

 危機感を抱いた自民党京都府連は6月17日、次期衆院選で京都2区、3区、6区の3選挙区の公認候補予定者を発表した。いずれも公募で選ばれた20~40代の東大院や大阪市大院出身などの若手候補者で、西田府連会長の西田参議院議員が「若い力で『ニュー自民』を訴えていく」と強調した(毎日、6月18日)。広島や山口ではまだ「世襲候補」が通用していると聞くが、大都市選挙区では(古都京都でも)もはや「世襲候補」はとっくに賞味期限が終わっているのである。

 

 共産党もまた穀田氏が引退表明にした当日、次期衆院選2~6区の立候補予定者5人(1区は未定)を発表した。年齢は30代3人、40代1人、50代1人で若手候補中心の陣容となっている(毎日、6月24日)。うち3人は除名された鈴木元氏の立命館大学の後輩で、鈴木氏の除名が影響していないことを後輩の擁立で示したかったのかもしれない。いずれにしても、これで京都3区は立憲現職の泉氏に対して自民、維新、共産の3人が挑むことになり、全国的にみても屈指の激戦区になる。大阪・兵庫の公明現職6区で維新が全面対決することになったので、関西では今後の政局に行方に重大な影響を与える国政選挙が相次ぐことになる。

 

 共産党は当初の予定を変更し、延期していた第8回中央委員会総会(8中総)を6月24,25両日に開催した。延期の理由は明らかにされていないのでわからないが、これまでにはなかったことなので重大な方針転換があるのではないかと思われていた。直前に穀田国対委員長が「政治には節目必要」「体力があるうちにバトンタッチするのが常道」と引退表明したので、志位委員長もそれに倣うのかと思っていたら、結果は従来方針の繰り返しで何も変わらなかった。

 

詳しい分析は次回に回したいと思うが、「志位氏が2000年の委員長就任以来、在任期間が20年を超えていることへの批判に対して、『私個人が政治的に重大な誤りを犯したとか、品性の上で重大な問題点があるという批判ではない。反共攻撃の中で意図的に持ち込まれた議論だ』とし、引き続き職責を果たす考えを強調した。党首公選制を訴えた党員の除名処分に『閉鎖的』との批判が相次いだことについても、『元党員を利用した一大反共キャンペーンだ』とし、党の対応に問題はなかったとの認識を示した」(毎日、6月25日)との記事を読んで、ただがっかりしたことだけを付け加えておきたい。(つづく)