立憲民主党が今なすべきことは「あいまいな候補者調整」ではなく、「まともな野党共闘」を担える党代表に代えることだ、岸田内閣と野党共闘(59)

 立憲泉代表の〝迷走〟が止まらない。羅針盤が狂っているのか、もともと持っていないのか、とにかく言うこと為すこと全てが思いつき程度のことばかりなのである。ついこの間まで言っていたことが1週間もしないうちにガラリと変わるので、政党関係者はもとより国民の誰もが信用しなくなった。こんな人物が「野党第1党」の党首だというのだから、日本政治の劣化もここに極まれりというべきだろう。

 

 国民民主の流れを汲む泉氏の政権構想は、もともと維新との国会共闘を通して自公政権に代わる〝保守新党〟を立ち上げ、政権交代を図るというものだった。この政権構想からすれば、これまで立憲が進めてきた共産を含む野党共闘は邪魔になることはあっても助けになることはない。泉氏にとっての「野党」は「与党」でないということだけで、中身は政策も体質も基本的に「与党」と同じなのである。だから泉氏が立憲代表に就任すると、共産など政策の異なる野党との共闘関係を破棄し、維新との共闘にのめり込んだのは当然のことだった。

 

 ところが、与党の政策を真正面から批判しない(できない)泉代表の国会運営は、国民の「野党第1党」に対する期待を裏切るものとなり、政党支持率でも維新に大きく差を付けられることになった。立憲はまた、統一地方選挙でも「野党第1党」としての勢いを示せず、その存在感は薄れるばかり。こうした情勢を見越した維新は、泉代表のリーダーシップに見切りをつけて立憲との共闘関係をチャラにし、維新単独で次期総選挙に臨む方針に一気に転換したのである。

 

 維新から袖にされた泉氏は、これで行き場を失ったと言える。そこで「選挙が独自でやるもの。選挙協力や候補者調整は維新とも共産ともやらない」(5月17日BSフジ番組)と一応強がりを言ったものの、党内の批判を受けて、今度は「解散が少し遠のいたので、さまざま選択肢を幅広に考えねばならない」(6月21日記者会見)、「市民連合を介した候補者調整など各県の事情を踏まえて考えていきたい。各党に選挙区調整を行う意思があるのか確認したい」(6月30日同)と少しは軌道修正する気配を見せた。しかし結局のところ、それは「共産などとの選挙協力については街頭活動を共にせず、やるのは候補者調整だけ」(7月7日同)というもので、共産が主張する本格的な野党共闘とは程遠いものだった。

 

 一方、「反共」を基本方針とする連合の芳野会長は、7月21日の記者会見で共産党を含む枠組みでの候補者調整については「連合としては『ありえない』ということは一貫している」と強調し、次期衆院選で立憲、国民民主両党による擁立が見込まれる選挙区について候補の一本化を要請する考えを重ねて示した。連合は次期衆院選の基本方針素案に、共産を念頭に置いた「連合と異なる社会の実現を目的に掲げる政党から支援を受ける候補者は推薦できない」との記述を盛り込んでいる。国民民主の榛葉幹事長も7月14日の会見で、「共産とは相いれないのは連合発足の原点だ。共産との関係を明確にしてほしい」と立憲に注文を付け、「明確にならない限りテーブルにつきようがない」と突き放した(産経新聞7月22日)。

 

 迷走する立憲を尻目に、維新は最近ますますボルテージを上げている。注目されるのは、維新が今年7月の米国訪問、8月の台湾訪問などを通して、国際社会に「自民党に代わりえる保守政党」をアピールしようとしていることだ。馬場維新代表は7月20日の記者会見において、トランプ政権幹部との会談模様を次のように説明している(産経新聞7月21日)。

 ――維新という政党の存在感を高めていく。(米国の)要人とのパイプをつくっていく。政策能力を向上させていくという狙いを持って出張してきた。日本の政治は保革の対立軸が続いてきたが、いよいよ保守的な政党が二つに分かれていくという認識をかなり深く持ってもらったのではないか。経済成長を図る上では消費拡大と規制緩和の二本柱しかない。方向性としてはトランプ氏の政策が維新の考え方に近いのではないか。自由や民主主義、法による支配といった価値観でほぼ共通している国々と友好を深めていく。わが国の安全保障にとっても非常に重要な位置にある台湾と緊密な連携をとっていくのは当たり前の話だ。

 

 ここには、維新がもはや「野党」といった立場を離れ、「保守2大政党」の一翼を占めようとする新たな戦略が打ち出されている。民主・共和両党が支配するアメリカの保守2大政党制のように、日本においても自民・維新両党が支配する専制的政治体制を構築しようとする戦略である。しかも、維新の基本政策はバイデン政権よりもトランプ政権に近いというのだから、その新自由主義的立場は際立っていると言わなければならない。朝日新聞も馬場維新代表の発言を次のように伝えている(朝日新聞デジタル、7月20日)。

 ――日本維新の会・馬場伸幸代表(発言録)。(次期米大統領選でバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つのがいいかと問われ)米国も日本もこれから抜本的な構造改革をやる時期が来ている。トランプ前大統領は、既存の規制や政策をスクラップ(破棄)しなければ、新しいものは認めないという方針だ。日本が経済成長を図るうえでは、国民一人ひとりの消費の拡大と規制緩和、この2本柱しかない。政策の方向性としては、トランプ前大統領の方が維新の考え方には近い。

 

 このような動きに対して、市民連合や革新陣営の対応は極めて鈍い。野党共闘の展望についてインタビューを受けた山口二郎市民連合代表の発言も現状を前提にしたものに止まっていて、維新の保守2大政党制への動きなどを視野に入れたものになっていない(東京新聞WEB、7月14日)。

 ――政権交代なしに政治と政策の転換は期待できない。政権交代を起こすには、核となる政党が右と左に一つずつ必要だ。さもなければ、自民党永久政権だ。現状では、塊の中心になるべき野党第1党の立民と、かつて候補者調整をした共産党の間にあつれきが生じており、見通しが明るいとは言えない。また、候補の一本化が効果を発揮する地域もあれば、個別に戦った方がいい地域もある。党首間で全国統一の枠組みを決めるより、各地域レベルで判断するのが適切だ。安全保障を含む全ての政策で完全に一致できなくても、暮らしや経済、エネルギー、子育てなど有権者に身近な公約で食い違いがなければ、立民、共産などの地方組織や候補者、市民で政策協定を結び、一本化することは可能だろう。

 

 また7月21日夜には、立憲・小沢一郎氏と志位和夫共産党委員長が会食し、次期衆院選に向け野党間の候補者一本化の方策について協議したという。小沢氏は6月、党内に一本化を求める「有志の会」を設立して泉路線の批判を強めており、今回の会食もその一環とみられるが、詳しい内容はわからない(朝日新聞デジタル、7月22日)。いずれにしても、立憲民主党が今なすべきことは「あいまいな候補者調整」ではなく、「まともな野党共闘」を担える党代表に代えることだと思うが、情勢は急展開しており、当分はその動向から目を離せない。(つづく)