党勢拡大運動の変遷から見た日本共産党史(2000年代~現在)、志位委員長はこの危機を打開できるか(その6)、岸田内閣と野党共闘(65)

志位書記局長が委員長に就任した第22回党大会(2000年11月)は、2005年までに「五十万の党」を実現するため5カ年計画が立てられたが、党員数は40万人余にとどまり目標を達成できなかった。しかし、それ以上に深刻なのは、党員の年齢構成が急速に高齢化しつつあることだ。これまで党員の年齢構成が公表されたのは五十年史だけで(筆者の知る限り)その後は一切公表されていない。民青の実質的崩壊で若者世代の入党が激減した結果、党員の高齢化が急速に進み、それが党組織の最大の弱点になっているからだろう。

 

党組織の高齢化は活動力を低下させるばかりか、死亡者が増えることで党勢拡大の勢いを弱める。多少の入党者があったとしても、それを上回る死亡者が発生すれば、党勢は差引マイナスになって前進しない。これに未公表の離党者が加われば、「党勢=入党者-死亡者-離党者」となってさらに後退側にシフトする。赤旗では毎月の入党者数を公表しているが、死亡者数は党大会でしか公表していない。まして離党者数は完全に伏せられているので、正確な党勢はリアルタイムで把握できないのである。

 

そもそも党勢拡大方針や拡大計画は、正確な現状把握に基づかなければ策定できないはずだ。それも党員数だけでなく年齢構成も明らかにしなければ、どの年齢層を重点的に拡大対象とするかも決められない。ところが、共産党は指導部だけが正確な情報を握っていて、下部組織には知らされない。それでいて「130%拡大!」といった大号令が連日出されるのだから、その目標がどれほどのリアリティ(実現可能性)があるかもわからないまま、下部組織は一方的に拡大行動に駆り立てられることになるのである。

 

こんな偏った情報では党勢分析もままならないが、とりあえずは入手できる情報をもとに最近の動向を分析してみたい。まずは死亡者数である。2000年代に入って党大会ごとに死亡者数が「開会のあいさつ」で公表されるようになった。それによると、第22回党大会(2000年11月)から第25回党大会(2010年1月)までの9年2カ月間の死亡者数は3万3532人、第25回党大会から第28回党大会(2020年1月)までの10年間は4万5539人である。ここから年平均死亡者数を割り出すと、2000年代は3657人、2010年代は4554人となって、確実に増加していることがわかる。党員の減少にもかかわらず死亡者数が増えているのは、高齢者比率の上昇によるものであろうが、2020年代の年平均死亡者数が5000人を超えることはまず間違いない。

 

死亡者数に関する情報には、赤旗に毎日掲載される党員訃報欄がある。訃報欄には死亡者氏名、死亡年齢、入党年、在住地などが記されているが、故人や遺族が掲載を望まない場合は掲載されないので、その数は実態よりかなり少ない。第28回党大会で公表された3年間(2017年1月~2019年12月)の死亡者数は1万3828人、うち赤旗掲載の死亡者数は5257人(筆者算出)で掲載率38%である。これをもとに2023年8月までの3年8ヶ月間の死亡者数を推計すると、赤旗掲載数は6770人、年平均1845人なので、死亡者数は2万4846人、年平均4855人となる。

 

第28回党大会(2020年1月、党員27万人余、機関紙読者100万人)以降の党勢の推移をみよう。これまで公表されている主だった情報は、2020年1月から2022年7月までの2年7ヶ月間は「入党9300人、党員現勢1万4千人余後退、日刊紙読者1万2千人・日曜版読者5万2千人余後退、電子版2千人余前進」(志位委員長幹部会報告、赤旗2022年8月2日)、2022年8月から12月までの5ケ月間は「入党2064人、30~50代の入党者比率34.2%、党勢現勢は1万7千の党支部、約26万の党員、約90万の赤旗読者(増減数不詳)、2500人の地方議員。約26万人の党員の約3分の1、約9万人は1960年代、70年代に入党」(志位委員長幹部会報告、赤旗2023年1月6日)というものである。

 

つまり、2020年1月~2022年12月の3年間の入党は1万1364人(9300人+2064人)だったが、2023年1月現在の党勢は26万人なので、計算式は「27万人余+1万1364人-死亡者(年平均4855人×3年=1万4565人)-離党者=26万人」ということになり、離党者はおよそ6800人(年平均2270人)に上ると推計される。機関紙読者は、2023年1月現在90万人なので、2020年1月の100万人から3年間で10万人後退したことになる。

 

次に、2023年1月以降の党勢の推移は以下の通りである。

1月、入党391人、日刊紙339人減、日曜版208人減、電子版86人増(赤旗2月4日)

2月、入党470人、日刊紙203人増、日曜版2369人増、電子版2人減(3月4日)

3月、入党342人、日刊紙1197人減、日曜版8206人減、電子版26人増(4月4日)

4月、入党146人、日刊紙4548人減、日曜版2万3104人減、電子版8人減(5月3日)

5月、入党230人、日刊紙945人減、日曜版7048人減、電子版11人増(6月3日)

6月、入党234人、日刊紙628人減、日曜版3930人減、電子版60人増(7月4日)

7月、入党641人、日刊紙60人増(含む電子版)、日曜版247人増(8月3日)

8月、入党621人、日刊紙247人減、日曜版488人減、電子版18人増(9月3日)

合計、入党3075人、日刊紙(含む電子版)7450人減、日曜版4万368人減

 

この結果、2023年9月現在の党員は、27万人余+1万1364人+3075人-死亡者(年平均4855人×3年8カ月=1万7818人)-離党者(年平均2270人×3年8カ月=8330人)=25万8千人余、機関紙読者は100万人-7450人-4万368人=95万2千人となる。そしてこのまま後退傾向が続くと、第29回党大会(2024年1月)の党勢は、党員25万5千人(前党大会比5%減)、機関紙読者92万人(同9%減)となって、拡大目標130%(党員35万人、機関紙読者130万人)を大きく下回ることになる。これまでも党大会近くなると、「特別拡大月間」を設けて目標達成のための全党運動が行われてきたが、今回も中央委員会常任幹部会は「9月こそ『大運動』を全党運動に発展させる月に」(赤旗2023年9月3日)と呼びかけている。だが、党内にはもはやそれだけの余力が残っているとは思えない。

 

一方、赤旗の紙面は「130%の党づくり」を掲げた旧態依然とした主張を連日繰り返しているだけで、何の変化も見られない。そこには高齢化して疲弊した党組織の実態を顧みることもなければ、死亡者数と離党者数が入党者数を大幅に上回っている党組織の危機的状況を直視することもない。また、離党者の最大の原因となっている党勢拡大一本やりの方針を反省することもなければ、過大な拡大計画が(完全に)破綻してもその原因を具体的に究明しようとすることもしない。全てを党員の「やる気」の問題にすり替え、叱咤激励して拡大行動に駆り立てることしか考えていないのである。要するに、党勢後退の原因をすべて「支配勢力の反共攻撃」に還元し、「政治対決の弁証法」といった大仰な表現で「革命政党」の意義を説き、党員を鼓舞して拡大行動に駆り立てるという古臭いやり方を踏襲しているだけのことである。

 

 赤旗には、前回紹介した福岡西部地区の若い女性地区委員長の「鬼気迫る提起」(8月3日)に引き続いて、今度は「胸にすとんと落ちた8中総」「一にも二にも拡大だ」という見出しで、鳥取県岩見支部の高齢の女性支部長(75歳)の奮闘ぶりが紹介されている(8月31日)。

――8中総で志位委員長がマルクスの言葉を紹介していました。革命は反革命を生み出し、それとたたかって党を強く大きくすると。現実に感じていることです。支部会議でも遠慮しないで自分の気持ち、心に感じたことを話しました。日本の政治を変えるためには、革命勢力の党が大きくなることが肝心。そのためには拡大、拡大が必要だと思う。

 

この老支部長の話は感動的だが、今の若者世代に果たしてこの話が通じるかどうかというと、なかなか「胸にすとんと落ちる」ようなことにはならないだろう。たとえ社会に役立ちたいと思っても、組織に縛られることは嫌で、自己主張を大切にして自発的に行動することを信条としている若者世代にとっては、「革命勢力の共産党が大きくなることが肝心」と訴えても、そう簡単には心に届かないと思われるからである。戦後世代ならともかく(岩見支部は多分その集まりなのだろう)、今の若者世代に対して「時代離れ」の話をしても始まらないし、また受け付けてももらえない。赤旗記者の取材センスがこんな〝一昔前〟のレベルでは、共産党の未来が開けないことは確実だ。

 

 志位委員長は、9月15日の党創立101周年講演会で「百年史」の真髄を語るのだという。志位氏はおそらく〝政治対決の弁証法〟と称して「いま支配勢力によって行われている党の組織のあり方――民主集中制、党指導部のあり方に対する批判・非難は、まごうことなき反共攻撃だ」「わが党がかくも攻撃されるのは、日本共産党が革命政党であるからだ」「現在の反共攻撃の特徴は党の心臓部(綱領と規約、指導部)への攻撃であり、攻撃に対する反撃は党勢拡大しかない」など、これまでの主張を繰り返すのだろう。

 

 だが、志位委員長は自らがもはや「一昔前の存在」になっていることに気付くべきだ。共産党の存在意義を「革命政党」であることでしか話せないようなリーダーは、今の時代に合わない。時代は新しい政治リーダーを求めている。共産党もその例外ではない。保守政党も含めて共産党が一番「保守的」だと思われているのは、決して「悪い冗談」ではない。志位委員長は自らがその「シンボル」になっていることを自覚して、然るべき決断をしてほしい。(つづく)