麻生迷走・橋下暴走の二重奏、(麻生辞任解散劇、その3)

 「麻生機」が散々ダッチロール(迷走飛行)を続けた挙句、もはや推進力を失っているにもかかわらず、なお不時着しようとしない。いや、「不時着できない」と言った方が正確だろう。不時着をすれば、機長が迷走飛行の責任を問われて、「降ろされる」ことが確実だからだ。なにしろ、乗客の生命や安全よりも「機長のポスト」の方が大事だと考えているような人物が操縦桿を握っているのである。

 といって、もうこれ以上飛行中の機長交代もできない。すでにライセンスのない機長が3人も無断で交代して、国民には多大のヒンシュクをかっているからだ。「仏の顔も三度まで」という言葉があるが、さすがの辛抱強い日本の仏教徒ももはやその大半(8割)が匙を投げているのである。

 その「渦中の人物」(「うずちゅう」と読まない!)が、かっては「さもしい」という侮蔑的な言葉で否定したバラマキ定額給付金の受給を、今度は「もらう」と2度も繰り返し言明した。「天に唾する」とはまさにこのことだ。巨額の資産と豪邸を持つ国内切っての高額所得者が、「景気浮揚」と「消費刺激」を口実にして、彼にとっては「雀の涙」(いや蟻の涙ほどか)ほどのお金を受け取るというのだから「さもしい」こと限りない。

 一方、大阪府橋下知事の方は、2月府議会にWTC(世界貿易センター)への府庁移転のための補正予算案を提出して審議が始まった。府職員から聞くと、議場はかってないほどの怒号と興奮の渦に包まれているのだという。反対しているのはまた野党だけかと思われそうだが、実はそうではない。与党の自民党議員までが猛烈な野次を飛ばしている有様なのである。

 大阪府庁のWTC移転は、徹頭徹尾、関西財界(正確にいえば大阪財界)の意向を受けたものだ。3月3日の日経新聞には、関西広域機構会長の秋山喜久氏が「アジアの玄関をめざせ」とその狙いを明け透けに語っている。秋山氏といえば、関西電力会長や関西経済連合会会長を歴任した関西財界きっての大物で、現在は「関西州」の準備組織である「関西広域機構」のトップとして、その推進の旗振り役を務めている人物だ。

 秋山会長いわく、「府庁のWTC移転案は、大阪湾岸部を関西の戦略拠点に育成していくうえで望ましい。大阪市中之島の市庁本舎を(WTC近くの)アジア太平洋トレードセンター(ATC)のビルに移すべきだ。活性化にはそれくらいの意気込みがいる。市民サービスの場は区役所があり、問題ない。地域開発は府と市が一緒に取り組む必要がある。(略)その意味で、WTC移転と府市連携は大きな一歩といえる」。この際何でも言おうということなのか、府庁どころか大阪市役所の移転までを要求する厚顔ぶりである。

 しかし秋山氏の構想はそれだけではない。「アジアのゲートウェイ(玄関口)」を掲げる都市づくりの構想として、「国際会議や見本市などコンベンション機能もぜひ強化してほしい」、「問題は五輪会場にするはずだった夢洲(ゆめしま)。ここをロジスティック・ハブ(物流拠点)にすべきだ。関税をかけずに貨物の保管・加工などができる保税倉庫を集積する。上海・釜山などにもあるが、200ヘクタール規模で整備すればアジアの拠点になる」、「道路では『ミッシング・リング』といわれている部分を開通させ、高速道路網を完成させることが大切だ。接続すれば大阪空港(伊丹)と関空が行き来しやすくなる」とまるで言いたい放題なのだ。

 この発言を聞いていると、高度成長期の近畿圏整備計画の大開発プロジェクト構想を半世紀後の現在にそのまま持ってきたような錯覚にとらわれる。50年前の土木公共事業中心の地域開発構想が、いまだもって大手を振って歩いているのである。白砂青松の大阪湾を埋め立てて公害まみれの臨海コンビナートを造成し、阪神都市高速道路を河川の上に張り巡らせて「水の都」の景観をすっかり破壊したことなど、まるでどこ吹く風だ。

 秋山氏はこの開発構想の目的を、「もう一つは市民にとって住みやすく、外からも訪れたくなる市民本位の街づくりだ」と述べているが、肝心の中身については一言も語っていない。実際、インタビュー記事に添付されているWTC、大阪市役所、大阪府庁の位置関係を記した地図をみると、WTC一帯は市街地から遠く離れたまるで「陸の孤島」でしかない。工場や倉庫ならともかく、こんな吹きさらしの埋め立て地に府民・市民が集まる「拠点」を構想するなど狂気の沙汰だ。要するに、バブル期の土木開発事業の売れ残った埋立地と空き室ばかりの巨大ビルを府民と市民の税金で買い取らせようとするのが、この「構想」の中身なのである。

 工場群と倉庫群そして高速道路しかイメージできないような人物が、21世紀の時点で時代錯誤の開発構想を語ることは、世界の都市づくりについて相当無知でなければならない。ヨーロッパの首都や地方都市がどれほど都市の歴史を大切にし、市役所や都市広場を中心拠点にして都市を育ててきたという歴史的事実についてもかなり鈍感でなければならない。そしてこのような「無知で鈍感」な財界人が多かったからこそ、大阪の街はさびれ、廃れてきたのである。

 これに二重三重の輪をかけた存在が橋下知事であることはまず間違いないだろう。都市づくりに無知と鈍感であることに加えて、知事という政治権力を振りかざして「暴走」するのだから性質(たち)が悪いのである。こんな知事と財界人に大阪の運命を託すことは、大阪の衰退と破綻を加速させること以外の何物でもない。都市づくりの根幹としての歴史と文化を重視し、市民生活を支える住まいとアメニティの確保を都市政治の基礎に据えることなくして、都市の生命や持続性を維持することはできないからだ。

 私は「WTC移転問題が橋下知事の命取りになる」と以前書いたが、目下、大阪府議会では移転構想そのものの是非に加えて、大阪市との移転費用の押し付け合いについても議論が紛糾している。国政では「麻生迷走」、大阪府政では「橋下暴走」の二重奏が不協和音を生み出し、近くは「小沢逆走」まで加わる模様となって事態の行方はますます混沌の様相を深めている。はやく「この国のかたち」を取り戻して、「平和で美しい日本」を復元させたい。