自公政権崩壊は一気にくる、(麻生辞任解散劇、その2)

 このところ、マスメディアでは「麻生政権はいつ倒れるか」という話題で持ち切りだ。これほど世論の方向が一致しているときに、自分もその尻馬に乗って同じようなことを書くのは何となく気が引ける。ひょっとすると、怒涛のような「麻生退陣コール」の裏にもっと重要なことが隠されているのではないか、むしろそのために「麻生退陣コール」が声高に起されているのではないか、とさえ思ってしまう。

 こんな天の邪鬼的な眼で政局の行方を見ていると、最近になって自民党議員の政治献金疑惑や粉飾決算疑惑などがにわかにスクープされ出したことが気になる。「上」は総理大臣から「下」は陣笠議員まで、もはや自民党という政権政党が「総崩れ」になっているような印象が強いのだ。そんな世論が形成されつつあるように思えて仕方がないのが、昨今の政治情勢なのである。

 実際、中川前財務相の醜態ぶりは酷かった。もともと「アル中」だといわれていた中川氏だから、それを知っていて任命した麻生首相政治責任は免れないが、今回の「酔っ払い会見事件」は、むしろ財務官僚や外務官僚たちが、この際、中川氏を「生け贄」にして一気に麻生政権を潰そうと仕組んだ「やらせ事件」ではなかったのか、との疑いが消えない。

 赤城元農相の「絆創膏会見事件」のときもそうだった。秘書官をはじめ周りには官僚が沢山いるのだから、あの姿でテレビの前に出ればどんな反響が起こるかは誰でもわかっていたはずだ。分らなかったのは本人だけだったというのは余りにも悲しいが、周りが止めようと思えば出来たはずなのに、それをしなかったのである。赤城氏の場合はどんな裏の事情があったのかは知らないが、これなどは明々白々な「やらせ事件」だったとしか思えない。

 官僚が首相を見限るときは政権は潰れる。これは政界の鉄則だ。官僚は政治家の裏の世界を知り尽くしているので、潰そうと思えばいくらでもその材料はあるのである。政府審議会や委員会などで重用されている学者も例外ではない。政府税制調査会会長に起用された本間正明元阪大副学長の場合もそうだ。大蔵官僚の許容範囲内で動いているうちはよかったが、調子に乗って大蔵権益を侵すような発言を重ねるなかで、東京の幹部用官舎に大阪の北新地のママと同棲している事実を週刊誌にリークされて一気に潰された。(その本間氏を橋下大阪府知事が特別顧問として重用しているのだから驚く)

 聞くところによれば、官僚たちはもはや麻生首相を馬鹿にしきっているのだという。ごく普通の国民でさえが「馬鹿殿」だと思っているのだから、官僚たちはもうとっくの昔からさじを投げているのである。しかし問題は辞めさせるだけの決定打がない。「麻生首相を支える」という派閥の領袖や大臣がまだ残っているからだ。となると、政権崩壊の引き金になる材料を小出しにしながら、本人に「命運が尽きた」と気付かせるほかはない。

 「かんぽの宿」払下げ事件が発覚したのも、おそらくは「麻生降ろし」の一環であり、自公政権に終止符を打つための布石だろう。疑惑解明の先頭に立っている鳩山総務相が、民主党鳩山幹事長実弟であることは意味深長だ。ひょっとすると大連立政権のお膳立てを鳩山兄弟がつくろうとしているのかもしれない。小沢代表はいずれにしても短命だから、次期大連立政権の本命は鳩山兄弟になる可能性が大きいのである。

 問題は「麻生辞任解散劇」がクライマックスを迎えるなかで、財界の腐敗や責任がまったく追及されていないことだ。御手洗会長の盟友であるキャノンの下請け業者が、ゼネコンに裏金をつくらせてポケットに入れた収賄事件で関係者が逮捕されているというのに、大元のキャノン幹部や御手洗会長はいっこうに表に出てこない。「かんぽの宿」事件でも、オリックス宮内会長は完全に隠れたままだし、莫大な仲介手数料を掠め取ろうとした外資系のメルリリンチなどについても誰も書こうとしない。どうして利権の黒幕である財界関係者があぶりだされないのか。

 私の観測は、次期大連立政権のスポンサーになる財界は「きれいな手」の持主でなければ、大連立政権が国民の信任を得られないからだろうと思う。自民党はこの際「汚い政党」として徹底的にたたくが、そのなかで比較的「きれいな手」を持った部分と民主党のなかで利権に関係の薄い部分が連携して新しい政権をつくるというシナリオがすでに出来ているのだと思う。

 財界でも、近く民営化や規制緩和の利権にかかわった幹部はそれとなく外されることになるだろう。そして「きれいな経営者」のイメージを持った次期首脳部が選出され、大連立政権の後ろ盾として国民の支持を得ようとするだろう。そのためにもスキャンダルは政治家の範囲で収拾しなければならないし、間違っても経団連の幹部企業や経営者に司直の手が延びるようなことは避けなければならないのである。またマスメディアにもそのような記事や番組は作らせてはならないので、新聞広告やテレビ番組スポンサーを「人質」にして圧力をかけ続けているのである。

 自公政権の崩壊はほどなく一気にやってくる。問題はそのあとにどんな政権がつくられるのかである。現下の政治情勢はそんな方向に動いているのではないかと、私は思う。