もういい加減に「2大政党キャンペーン」は止めませんか、(麻生辞任解散劇、その4)

 民主党小沢代表の公設秘書の逮捕以来、政界は連日蜂の巣を突いたような大騒ぎになっている。「ハチが刺した程度」といったのは、サブプライムローン問題の日本経済への影響を聞かれたときの与謝野大臣の発言だったが、今回の小沢騒動は、まさに政界の「ハチの巣」を突くものとなったから、いたるところでハチに刺された政治家が続々と出てくる始末である。自民党民主党も「総なめ」といったところだろう。

 こちらが苦々しい想いで見ているからそうなのかも知れないが、このところテレビに映る疑惑政治家たちの顔は醜悪そのものだ。なかにはまるで「ドブネズミ」さながらの薄汚い感じのする人物さえが連日登場する。こんな連中が国会議員や大臣を務めているのだから、日本の政治がいっこうによくならないのも無理はない。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で韓国チームに敗れたイチローが「敗れたという事実に腹が立つ」といっていたが、「こんな政治家がいるという事実に腹が立つ」というのが、現在の国民の率直な気持ちだろう。

 1990年代半ばから財界がグローバル国家を目指して構造改革を進めようとしたとき、「国民の痛み」を逸らすための大掛かりな政治的仕掛けが必要だった。それが小選挙区制導入による自民党民主党の2大政党制の成立である。自民党に国民の批判が向けば民主党に交代させ、民主党が国民に飽きられれば自民党を復活させる。こんな「政権のタライ回し」を可能にするような、財界の利益を維持する政治システムが構想されていたのである。

 2大政党制をつくり上げるには、自民党以外の「健全野党」を育てなければならない。本来ならば「健全野党」の育成には時間がかかる。しかし即席で作らなければ、グローバル経済の急激な展開には対応できない。その手っ取り早い選択肢が民主党と小沢自由党の合併だったのである。そこで京都の財界人あたりがスポンサーになって、小沢氏と民主党幹部のお見合いの席を取り持ち、名前が「民主党」で中身が「自民+諸派」という「健全野党」が出来上がった。そしてマスメディア挙げての2大政党制キャンペーンの追い風を受けて、2003年秋の総選挙では外形的に2大政党制が姿を現したのである。

 だがその後の民主党の動きは、なかなか自民党と一線を画すようにならなかった。なにしろ党内の「諸派」の力が弱くで「自民」の影響力が強いものだから、表向きにせよ「反自民」の政策を打ち出せないのである。民主党が「半自民党」であるとか「第2自民党」だとか言われても、それを否定できるだけの政策もなければ行動も示せない。そして、いつもその中心にいたのが小沢氏だった。

 だが小泉構造改革の痛みが国民の受忍限度をはるかに超えて、貧困と格差が都市・農村を問わず覆うようになったたとき、小沢代表は2007年夏の参院選挙で表向き野党的マニフェストを掲げる政策転換を行った。そして比較第1党の議席数を握るや否や、福田氏との間で裏の閣僚名簿までを作って大連立政権を樹立する手立てを整えた。直前の国政選挙で「反自民」「政権交代」を掲げて選挙戦を戦いながら、選挙が終わるや否や「敵」と手を組んで連立政権をつくるという「大離れ業」をやってのけようとしたのである。

 「権力のためには手段を選ばない」という小沢氏の権謀術数的本質が、このときほど露わになったことはない。ところが驚くべきことに、民主党は小沢氏をなお代表の位置に留め、その後はまたもや「反自民」の旗振りをやらせるという国民を馬鹿にした態度を取り続けてきた。そして今度は贈収賄まがいの政治献金疑惑の発覚である。自民党田中派の重鎮として金権政治の表も裏も知り尽くした小沢氏が「骨の髄」まで土建屋の政治献金に毒されていて、それが民主党にいようといまいと何ら変わっていないことがいよいよ暴かれようとしているのである。

 この事態に困ったのはマスメディアだろう。来る総選挙で民主党政権交代をさせて、国民に小泉構造改革の痛みを忘れさせるための「麻酔注射」を施すはずだったのが、どうやら当てが狂ったのである。そして「どっちもどっちだ」となると、国民の目が第3極の革新政党の方に向けられる可能性が出てくる。しかしこれだけは絶対に避けなければならないので、2大政党制を堅持しながら両党の「表紙」だけを取り換えるという芸当をしなければならなくなったのである。

 だが、国民世論にはなかなか厳しいものがある。次の政権を担う首相として「麻生と小沢のどちらもふさわしくない」とする比率がすでに7割に達している以上、もはや「麻生が駄目なら小沢があるさ」というカードは切れなくなった。そこで麻生と小沢に代わる「新しい表紙」を2枚も差し替えなければならないが、それだけの「イメチェン」を果たせるキャラクターが見当たらない。即席でつくった2大政党制が機能不全を起こしているのである。

 おそらく自民党民主党も党内ではもはや自浄能力が働かなくなっているのだろう。自民党では「麻生降ろし」のエネルギーが枯渇しているし、民主党では「小沢氏を支える決議」までが行われる始末だ。2大政党制を前提とした危機管理体制が働かなくなっているのである。となると、次の選択肢のシナリオはどのように描かれることになるのであろうか。(続く)