出直し市長選に「反対」しながら、維新以外の政党も候補者を「立てるべきだ」とする大阪市民の“矛盾した世論”をどうみるか、大阪出直し市長選をめぐって(その5)

 前回紹介したマスメディアの世論調査結果は、橋下氏が強行した出直し市長選に対して大阪市民の過半数(6割前後)が「反対」であることを明らかにした。なのにその一方、維新以外の政党も「候補者を立てるべきだ」(読売57%、朝日59%、共同通信57%、毎日52%)とする矛盾した意見がこれほど多いのはなぜか。

 私はその基本的な原因が調査項目自体の不十分さにあると考えている。キチンとした調査項目と質問内容を設計すれば、もっと別な形の結果になっていたと思うからだ。調査項目の原文が掲載されていない読売を除いて、朝日、共同通信、毎日3社の調査項目を検討しよう。候補者擁立の是非を問う質問は以下のようなものである。

 朝日:「維新以外の政党の中には、大義名分のない選挙はする必要がないとして候補者を立てないところがあります。維新以外の政党も候補者を立てるべきだと思いますか。そうは思いませんか」(候補者を立てるべきだ、そうは思わない)
 共同通信:「自民党民主党公明党共産党は、出直し市長選で橋下市長の対立候補を立てないことを確認しました。こうした各党の対応をどう考えますか」(候補者を立てるべきだ、候補者を立てる必要はない)
 毎日:「出直し市長選に、大阪維新の会以外の政党は候補者を立てない方針です。どう思いますか」(候補者を立てるべきだ、候補者を立てる必要はない)

 これらの質問に共通しているのは、維新以外の政党がなぜ対立候補を立てないのかという理由をキチンと説明しないで、ただ単に候補者を立てないという方針に対する是非を問うているだけだ、ということである。わずかに朝日は「大義名分のない選挙はする必要がない」という理由を挙げているが、「大義名分」の中身は何ら説明していない。だから調査に協力した大阪市民は、維新以外の各政党がどのような理由で対立候補を立てないのかについて十分な理解を得ないまま、「反対なら候補者を立てるべき」との単純な意見に流れたのではないか。

 もし私が調査担当者だとしたら、このような上辺だけの質問は決してしないだろう。今回の出直し市長選に対する最も重要な判断の分かれ目は、憲法に規定された“地方自治の本旨”すなわち“地方自治体の二元代表制”の原則に立脚したとき、橋下市長が強行した出直し市長選に果たして正統性があるかないかということであって、各政党が候補者を立てるか立てないかは二の次の問題だからである。そういう観点からすれば、維新以外の政党が候補者を立てるか立てないかを理由抜きに質問することがどれだけ的外れかということがわかるというものである。

 たとえば、「地方自治体においては市長と議会がそれぞれ権限を分かち合い、両者の合意にもとづいて方針が決定され執行されることになっています。維新以外の各政党は、この地方自治の原則にもとづき大阪都構想の審議を尽くすべきだとして、審議途中の出直し市長選に反対し、候補者を立てないことを決めました。あなたはこの方針に賛成ですか、反対ですか」という質問がされたとき、大阪市民は果たして「候補者を立てるべきだ」と回答するだろうか。おそらく候補者擁立論は少数意見となり、出直し市長選に対する世論の所在が余すところなく明らかになったことであろう。

 その後、対立候補擁立の是非に関する世論調査は独り歩きを始め、各紙とも維新以外の政党が候補者を擁立できないのは、橋下氏に勝利できる見通しがないからであり、選挙から「逃げている」からだと勝手な分析をしている。対抗馬見送りを決めた各党が支持者や有権者から「なぜ立てないのか」との批判を浴び、言い訳に窮しているとの報道しきりなのだ。しかしこんな論調をいつまでも続ければ、橋下氏のいう「反対なら選挙で僕を倒せ!」という主張と同じことになる。また、これまで各紙が展開してきた出直し市長選に対する批判的な論調からも逸れることになる。こんな支離滅裂な報道姿勢は「社会の木鐸」とは到底言えないだろう。

 だが、2月27日の橋下市長の自動失職を境に世論も報道もガラリと変わり始めたような気がする。27、28両日の各紙の見出しだけを取り出してみても、もはやその論調は橋下維新への「逆風」以外の何物でもない。

 「「大阪都」展望なく選挙、橋下市長辞職、「劇場」に各党冷淡」(読売新聞、2014年2月27日)
 「議会と対立、橋下流の是非」(朝日新聞、2月27日)
 「「戦略ミス」苛立つ橋下氏、都構想選挙後も苦境か」(産経新聞、2月27日)
 「橋下市長辞職、大阪都構想展望見えず、維新公約発表、距離とる中央政界」(毎日新聞、2月28日)
 「維新、投票率アップ躍起」(産経新聞、2月28日)

 このような世論の変化が今後にどのような軌跡を描くか、次回からは大阪各界の状況を報告しよう。(つづく)