市民の税金6億円を“ドブ”に捨てるのか、12名用の掲示板に「ポスターたった1枚」の選挙は何を物語るか、大阪出直し市長選をめぐって(その8)

 大阪出直し市長選がいよいよスタートした。告示前後の様子を伝える各紙の見出しは、およそ以下のようなものだ。

(1)産経新聞
 「異例ずくめ 選管ため息、「こんな選挙初めて」、相次ぐ出馬辞退/公選法抵触の判定は・・・」(2014年3月7日)
 「大阪市長選 4氏立候補、各党「対橋下氏」擁立せず」、「舌戦号砲 沸かぬ市民、「本当に風がふいていない」、4党静観に有権者疑問視」、「橋下氏 再選しても「壁」、大阪都 法定協どうなる、財界「熱気は氷点下」」(3月10日)

(2)毎日新聞
 「大阪市長選あす告示、橋下流シナリオに誤算、4党黙殺→「既得権益と対決」できず、維新 広がる厭戦感、選挙結果分かりにくく、結果 構想左右せず」(3月8日)
 「大阪市長選に4氏、辞職出直し 野党擁立せず、都構想 遠のく合意」、「主要政党 意義に疑義、民意問えるか批判も」、「橋下氏評価の市民も困惑、「街づくり」にマイナス、野党は投票率注視」(3月10日)

(3)読売新聞
 「大阪市長選あす告示、不戦敗の大義 伝わるか、維新以外の各党苦慮」(3月8日)
 「大阪市長選 4氏立候補、橋下氏と新人3人、自・民・公・共 擁立せず」、「大阪市長選告示、「選挙 実感なし」、異例の野党不在 静かな街、有権者 戸惑う声」、「都構想 見えぬ「選挙後」、維新内 辞職に疑問も、候補見送り野党 歯切れ悪く、「民意」見極め困難に」(3月10日)

(4)日経新聞
 「大阪出直し市長選 きょう告示、異例の展開 選挙戦へ、各党見送り/都構想が単一争点」(3月9日)
 「「投票の価値は」 市民戸惑い、「区割り案」一本化 引き金に」(3月10日)

(5)朝日新聞
 「出直し大阪市長選 告示、主要4政党 擁立見送り、4氏が立候補、異例の構図 惑う民意、都構想 法定協の壁」、「主要政党 避けた対決、高支持率に尻込み、「橋下氏の独り相撲」狙う、維新内部 深まる亀裂、大阪系以外は無関心」、「大阪は大阪のままでええけど・・・、市長選告示 100の声、市の廃止に賛成? 反対?、より民意反映 市長? 議会?、投票率どうなる」(3月10日)

(6)しんぶん赤旗
 「「出直し」大阪市長選、破綻「都」構想掲げ、橋下氏の“自作自演”、維新政治ノ―の運動 構成的に」(3月10日)

 この見出しを一瞥すればわかるように、今回の出直し市長選に対する大方のマスメディアのスタンスは、一方では選挙の無意味さを指摘しながらも他方では対立候補を立てない主要政党の「苦慮」をことさらに報じ、結果として投票の選択肢が奪われたとして「市民の戸惑い」を強調するものになっている。要するに「どっちもどっち」という高見見物の立場から正論を避け、「大義のない選挙」の本質を曖昧にする論調であることには変わりない。

 始末が悪いのは、(ここでは敢えて書かなかったが)このようなマスメディアの論調に性懲りもなく呼応する学者が多数いることだ。各紙からコメントを求められる際の条件なのか、若手政治学者のなかには「双方とも危うい戦術」「痛み分けの選挙」といった中途半端な論評をする人物がいるのだから恐れ入る。政治の劣化とともに政治学の劣化までも同時進行しているのであろうか、実に嘆かわしいことだ。

 しかし告示後の市内の様相を一目見れば、こんな曖昧な「どっちもどっち」といった記事やコメントがいかに空虚なものであるかが即座にわかるというものだ。私が告示後3日目に目にした大阪市内の光景は、選挙らしい雰囲気が全く見られず、いったいどこで選挙が行われているかを疑わせるものだった。それを象徴するのが、市内一円に立てられた選挙用掲示板に「たった1枚」のポスターしか貼られていないという寒々とした光景だろう。

 市民の選挙への関心や表情を見るには、新聞やテレビによく登場するターミナル駅前や都心区だけの観察では不十分だ。大阪でいえばJR環状線の外側に位置する周辺区を歩いてみれば、マスメディア報道との格差に驚かざるを得ない。私が観察調査の地域に選んだのは、北部の都島区、南部の阿倍野区、西部の此花区の対照的な3地域である。都島区は大阪の伝統的な中小企業の街、阿倍野区は文教的性格の濃い住宅地域、此花区は重化学工場が密集する有数の工業地域だ。

 「ところ変われば人変わる」と言うが、それぞれの地域を歩いてみると、大阪と言うまちがどれほど異なった表情を見せるかがよくわかる。街並みや商店街の様相はもとより、道行く人々の姿までが地域の空気を体現している。そんな人たちが今回の出直し市長選をどう思っているのだろうか、いろんな人に意見を聞いてみた。(つづく)