八尾・吹田・寝屋川の3市長選で維新派候補が「三タテ」(3連敗)を食う、大阪都構想住民投票の「潮目」が変わった、大阪府議選・市議選から都構想住民投票へ(4)、橋下維新の策略と手法を考える(その22)

 大阪都構想住民投票の告示日4月27日は、前日26日投開票の統一地方選(後半戦)の結果が発表される日でもある。今日の朝刊各紙は、統一地方選後半戦のなかでも特に大阪衛星3都市(八尾・吹田・寝屋川)の市長選に焦点を当て、「3市長選 維新全敗、吹田・寝屋川・八尾、都構想 民意問う、住民投票 きょう告示」(朝日新聞)、「大阪維新 対決3市長全敗」(毎日新聞)、「大阪維新 3市長選敗北、吹田・八尾・寝屋川 反維新系候補に、都構想住民投票きょう告示」(読売新聞)、「維新系 大阪3市長選敗北、『都構想』周辺自治体 巻き込めず、大阪市住民投票きょう告示」(産経新聞)、「大阪3市長選 維新系が敗北、都構想住民投票きょう告示」(日経新聞)と大きく報じた。

 これら衛星3都市のうち八尾・吹田市は、当初、堺市とともに大阪都構想を構成する周辺10市の中に含まれており、住民投票で都構想が実現すれば、その次の段階で都構想に参加する手はずが進められることになっていた。このことは橋下維新代表(大阪市長)が都構想説明会で言明しており、また松井幹事長(大阪府知事)が府議選の応援演説でしばしば言及している。したがって、両市の市長選は都構想の第2幕を開ける重要な選挙であり、統一地方選後半戦の中でもひときわその帰趨が注目されていたのである。
 
 しかし、選挙結果は人びとを驚かせるに十分だった。松井幹事長のお膝元であり「維新の牙城」といわれる八尾市では維新と反維新との一騎打ちとなったが、反維新候補(現職市長)が得票の6割強を獲得して維新候補を圧倒した。また維新が現職市長を擁する吹田市では現職を含めて4人が立候補したが、維新候補(現職市長)は4人中3番手に沈み、3割弱しか得票できなかった。寝屋川市では新人3人の争いとなったが、維新候補は最下位となってこれも3割弱の得票しか獲得出来なかった。前半戦の大阪府議選、大阪市議選で維新が4割前後の得票を占めて第1党になったことを思えば、この数字は一見意外な結果に見えるかもしれない。

しかし、首長選挙と議員選挙は必ずしも同じものではない。党派選挙である議員選挙は各党の力関係を比較的忠実に反映するが、1人しか当選できない首長選挙は政党間の思惑による駆け引き(選挙戦術)が大きな影響を及ぼす。今回注目されるのは、維新候補が前半戦の府議選で得た得票率を八尾市では府議選30.0%、市長選38.9%と上回ったものの、吹田市では府議選31.1%、市長選29.3%、寝屋川市では府議選30.3%、市長選29.2%と府議選の得票率をいずれも超えることが出来なった。このことは「反維新」で各党が一定協力すれば、維新打倒が可能であることを示すものだ。

この点で、共産党の採った選挙戦術が興味深い。共産党は表向き反維新候補を推薦していないが、自前候補を降ろすことによって事実上、反維新候補の当選に協力した。この選挙戦術は「敵(維新)の敵(自民など)は味方」との兵法を地で行くもので、その政治的成長ぶりが目立つ。共産は前半戦の府議選で3市のいずれにおいても十数パーセント前後の得票を確保しているのだから、もしどこかの政党のように「独自候補」の擁立に固執していれば、「3市長選 維新全敗」という結果にはならなかったにちがいない。

選挙結果を解説する各紙の選挙記事が面白い。朝日は、吹田市長選で維新現職を破った後藤氏が、選挙戦で「行政レベルが下がる危険性がある」と都構想批判を展開したことを紹介し、当選後には「(反対派の)堺市長、八尾市長とともに都構想の防波堤になる」と語った点に注目している。また3人の新人が争った寝屋川市長選についても、「都構想と連携した市政を推進する」と訴えた維新候補が敗れたことを紹介している。いずれも都構想が選挙争点になり、それが勝敗に結びついたとの分析だ(4月27日)。

毎日はもっと端的に「大阪維新の会対反維新の構図になった八尾、吹田、寝屋川の3市長選で、いずれも維新推薦候補が敗れた。大阪市を廃止・再編する大阪都構想についての住民投票(5月17日投開票)に向け、維新は勢いをそがれた」(同)と断定し、反都構想を掲げる政治団体府民の力」の呼びかけ人でもある田中八尾市長の「(都構想は)分かりにくいし(賛成多数になれば)元に戻れないので、大阪市民は判断を間違えないようにしてほしい」との声を駄目押しに載せている(同)。

読売も各党や候補者の反応を具体的に紹介している。大阪市民が有権者になる住民投票への影響については、「対立を生む維新政治ではアカンと(八尾市の)有権者は判断した。少なからずある」(田中八尾市長)、「対維新でまとまれば勝てるという成功体験は大きい」(公明党府本部の1人)、「三つ負けて士気に影響が出る恐れがある。他党に連携されると厳しいな」(維新関係者)などである(同)。

産経も「大阪維新の会は自民などと対立する形で候補者を推薦した3市長選すべてで敗れた。27日に告示される『大阪都構想』の住民投票に向けて、大阪市の周辺自治体を巻き込んだ『グレーター大阪』を目指す思惑は不調に終わった』と断定し、その証拠として吹田市長選で敗れた現職が「結果として大阪市の周辺自治体に住民が当面、都構想への参加に否定的な意思を示した」との感想をもらしたことを紹介している(同)。

私は前回のブログで、「統一地方選は前哨戦、都構想説明会が緒戦、そして告示日から投票までの20日間が決戦」に当たると述べた。だが恥ずかしいことに、統一地方選には前半戦と後半戦があり、それぞれが住民投票に及ぼす影響が異なることに思いが至らなかった。その意味では、「統一地方選前半戦は前哨戦、都構想説明会が緒戦、統一地方選後半戦が中盤戦、そして告示日から投票までの20日間が決戦」と訂正したほうがよいと思う。そして反維新派は前哨戦・緒戦においては劣勢だったものの中盤戦で勢いを取り戻し、決戦に臨む態勢を立て直したと言える。

八尾・吹田・寝屋川3市長選は、反維新派にとっては「起死回生」の局面を切り開いたのであり、都構想住民投票の「潮目」がかわる契機になった。都構想反対派がこれを機に一斉に決起して住民投票で都構想を葬り、維新を敗北させることを願わずにいられない。(つづく)