大阪都構想説明会は橋下劇場さながら、大阪市の名を借りた維新のタウンミーティングだった、反対派の不参加作戦がこの事態をもたらした、大阪府議選・市議選から都構想住民投票へ(3)、橋下維新の策略と手法を考える(その21)

 知人の話に触発されて大阪都構想説明会に出かけた。1日のうちに天王寺区(午前)、東成区(午後)の2つの説明会をハシゴしたのである。天王寺区と東成区は隣接しているもののかなり性格が異なる。前者は転入人口のマンション族が比較的多い街、後者は伝統的な下町とでも言えばいいだろうか。また、都構想との関係では天王寺区は「中央区」、東成区は「東区」となっているので、その反応の違いも見たかったのである。

 しかし、ヤジや怒号が飛び交った他区の説明会と違って、会場の雰囲気は意外に静かだった。参加者が熱心に都構想の説明を聞こうとする空気に満ちていたのである。問題はその説明会の次第だろう。全体の時間枠は2時間、時間配分は事務局から配布された「大阪都構想パンフ」の形式的な説明が30分、次に橋下市長のパワーポイントを使った大演説が1時間10分、残された20分が質疑応答というものだ。

 この時間配分が示すように、連日行われている大阪市主催の説明会の実態は、「大阪都構想に関する説明会」という名を借りた橋下市長の大演説会であり、実質的には維新の「タウンミーティング」なのである。異なるのは、維新のタウンミーティングはその大半が「橋下フアン」で占められているのに対して、都構想説明会は「一般市民」が多数参加しているので、それだけ橋下氏の影響力が広がるということだ(そこにこそ橋下氏の狙いがある)。

維新の街頭演説やタウンミーティングでは、冷静な市民なら橋下氏の演説をナナメに聞いている。批判的に聞くことのできる空間条件がそこに存在しているからだ。だが大阪市主催の公的な説明会となると、聞く側の市民の姿勢も違ってくる。そこに橋下氏が「市長」の肩書きで登壇し、都構想の「公式説明」をすると言うのだから、参加した市民も自ずと真剣に聞く雰囲気になるというものだ。

だが、橋下氏の「公式説明」は実は彼の持論の展開に他ならず、用いるパワーポイントの資料もときどき「大阪都構想パンフ」にも触れるものの、その大半は橋下氏の主張を裏付けるために編集された資料にすぎない。参加者はいわば都構想説明会と言う「囲われた空間」のなかで、橋下氏手作りの「限られた資料」をもとに「立て板に水を流す」例の調子で演説を聞かされるのだから、内容的にも時間的にも反論しようがない。これが都構想「説明会」の仕組みである。

 自民党をはじめとする都構想反対派は、「市長とは冷静な議論できない」という理由でこの説明会への参加を拒否したと言うが、この作戦は大きな誤りだった。橋下氏は、巧妙にも反対派の「不参加」という事態を自分の正当性を主張する材料として徹底的に利用している。説明会の冒頭に「反対派にも登場してもらって議論したかったが断られた」と必ず発言するのはそのためだ。もうそれだけで説明会に参加した市民は、「反対派は議論から逃げている」と思うだろう。

 反対派が説明会の時間的制約からして「冷静な議論は無理」と思うのであれば、橋下市長の演説と等しい時間を要求して「反論」の機会を設ければよかったのである。たとえ「議論」をすることが難しいとしても、橋下氏の一方的な主張が正しいかどうか参加した市民に反対側の主張を述べ、議論しなくとも判断材料を提供するだけでよかったのである(会場では半紙の裏表に都構想賛成・反対の理由を書いた資料が用意されていたが誰も読んでいない)。それもしないで「市長発言は誘導発言だ」などと言うのは、何とかの「遠吠え」にすぎない。

 都構想説明会を橋下氏の思うようにデザインさせたのが反対派のそもそもの誤りだった。反対派は説明会に臨む方法をもっと考えるべきだったのである。たとえば、裁判所の法廷のようなケースもある。原告側、被告側ともに検事や弁護士が傍聴人の前で口頭弁論を行うが、そこで「議論」などしない。裁判官や裁判員が熟慮して判断し、国民に納得できる判決を下すのである。都構想説明会の場合は参加市民が傍聴人であり、かつ裁判官(員)である。そこで橋下氏の一方的な主張だけを聞かされて、反対意見を言うものが誰一人いないのでは適切な判断を下すことができない。反対派は、議論しなくとも反対材料を説明会の席上で参加者に示すべきだったのである。

 とはいえ説明会はもうすぐ終わり、いよいよ4月27日には住民投票の告示日を迎える。大阪都構想との関連で言えば、統一地方選は前哨戦、都構想説明会が緒戦、そして告示日から投票までの20日間が決戦に当たる。その際、反対派が緒戦(説明会)の出遅れをどれだけ取り戻せるか、そして説明会では提示できなかった「都構想反対理由」をどれだけ説得的に展開できるかが勝敗の行方を決めるだろう。

 この点でひとつ明るい材料があるといえば、それは大阪都構想選挙公報で反対4会派が「都構想について反対する意見を共同で作り、公報に載せることを決めた」(各紙、4月21日)というニュースだ。公報は約160万部を発行し、5月上旬にも市内で全戸配布される。掲載する意見の面積は2人以上が共同で表明する場合人数に応じたスペースが割り当てられるので。賛成側に対して反対側は約2倍の紙面を確保できる。反対派はこの公報をフルに使ってどれだけ市民に訴えることができるか、大阪市大阪市民の命運はこの「最後の踏ん張り」にかかっている。(つづく)