安倍政権を直撃するブログ「保育所落ちた日本死ね!!!」、安保法制反対だけでないもうひとつの世論が日本を揺るがし始めた、政治行動の「見える化」が進んでいる、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その13)

いま話題の「保育所落ちた、日本死ね!!!」のブログを原文で初めて読んだ。その前に2月29日の国会中継でこのブログをめぐる安倍首相と民主党女性議員との激しい論戦を見たのが切っ掛けだ。原文を知りたくてインターネットで検索したら、もうネット上では炎上に近い状態になっていて、新聞人間の私などが知らない情報空間がネット上で大きく広がっていた。「時代遅れ」もいいところだ。

「時代遅れ」のついでに、原文をもう一度読んでみた。激しい怒りに包まれた文章だ。私などには絶対に書けないストレートな文章だが、そこに流れている感情には強い共感を覚えた(数十年前に必死で保育所探しをした頃のことを思い出した)。高齢者の私でさえそう思うのだから、子育て中の現役世代の怒りの感情はもっと激しいのだろう。 

「保育園落ちた日本死ね!!! 何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ? 何が少子化だよクソ。子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのほぼ無理だからって言ってて子供産むやつなんかいねーよ。不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。エンブレムとかどうでもいいから保育園作れよ。有名なデザイナーに払う金あるなら保育園作れよ。どうすんだよ会社やめなくちゃならねーだろ。ふざけんな。日本保育園増やせないなら児童手当20万にしろよ。保育園も増やせないし児童手当も数千円しか払えないけど少子化なんとかしたいんだよねーってそんなムシのいい話あるかよボケ。国が子供産ませないでどうすんだよ。金があれば子供産むってやつがゴマンといるんだから取り敢えず金出すか子供にかかる費用全てを無償にしろよ。不倫したり賄賂受け取ったりウチワ作ってるやつ見繕って国会議員を半分位クビにすりゃ財源作れるだろ。まじいい加減にしろ日本」

 ところが2月29日の衆議院予算委員会でのこのブログに関する民主党議員の質問に対して、安倍首相は「匿名である以上、ブログが本物かどうか確かめようがない」などと述べ、まともに議論に応じようとはしなかった。また与党議員席からは「誰が書いたんだ」「名前を言え」などの大きなヤジが飛んだ。国民の最も切実な子育て問題に対する政府・自民党の無責任な姿勢が露呈した一瞬だ。

 従来ならここまでで終わったのではないか。だが、これに反応した当事者たちが「私だ」と声を上げ始めたところに、私は新しい世論の胎動を感じる。ツイッターで「#保育園落ちたの私だ」というハッシュタグを付けた書き込みが急速に広がり、保育制度の充実を訴えた署名サイトには3月5日現在で2万件以上の署名が集まっているという。また認可保育園などから子供の入所を断られた当事者らが3月5日、「保育園落ちたの私だ」と書かれたプラカードを手に集まり、国会前で政府に対する抗議集会を開いた。参加者の一人は「ここ2カ月、収入がなく、どうすればいいのか分からない。ブログの内容にはすごく共感した。ここに来ることで少しでも何かが変われば」と話したという(毎日新聞、2016年3月6日)。

京都3区の宮崎自民党衆院議員の不倫辞職問題の時でも感じたことだが、政府・自民党の驕りと劣化は想像以上で、国民の怒りはもはや臨界点に達しているのではないか。宮崎氏を公募選考した伊吹衆院議員(元衆院議長)がいまだ彼を「同志」と呼んでいるように、また自民党京都府連が補欠選挙での候補者擁立をいまだ諦めていないように、要するに自民党は何も反省していないのであり、何をやっても国民は黙って自民党についてくると思っているのだろう。

だが、安倍政権を取り巻く世論状況はそれほど甘くなくて着実に変化しつつある。ひとつは今回のブログのように国民が直接怒りの声を上げ、公然と街頭行動を始めたことだ。安保法反対の時もそうだったが、街頭行動で民意をあらわす行動様式が国民各層に浸透し、それが天下国家の一大事だけではなく、日常生活の切実な要求の分野にまでダイナミックに広がってきたのである。そしてこのような声に耳を傾けない政権に対しては「死ね!!!」との激しい言葉を投げつけるほど国民の政治意識が明確になり、政治行動の「見える化」が進んできたのである。

もうひとつは、マスメディアの世論調査に表れ始めた「静かな変化」だ。日本経済新聞世論調査(2月26〜28日実施)では、アベノミクスを「評価しない」が50%に達し、「評価する」の31%を大きく上回った。「評価しない」が5割に届くのは初めてで「評価する」も最低だった。内閣支持率は47%で1月の前回調査から横ばい。不支持率は5ポイント上昇し39%だった。日経紙は、この結果を次のように分析している。
―現在の安倍政権は「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「規制緩和などの成長戦略」で脱デフレを目指してきたが、実現に至っていない。政権発足以降の金融緩和による円安で、大企業を中心に企業業績は過去最高の水準にあるが、地方の中小・零細企業には恩恵が行き届いていない。会社員らが受け取る賃金も物価変動の影響を除いた実質で15年まで4年連続のマイナス。景気回復を実感できない人の中には不満もたまっている。年明けから続く株価の乱高下や中国経済の失速、原油安による世界経済への懸念もアベノミクスの評価に影を落とす。16日に日銀の「マイナス金利政策」が始まったが、円高・株安が続いていたさなかで、効果がまだ見えていない。

 また読売新聞の世論調査(3月4〜6日実施)では、安倍内閣の支持率は49%で、前回調査(2月12〜14日)の52%をやや下回り、2か月連続で低下した。不支持率は40%(前回36%)に上昇した。この結果を読売紙も同様に、支持率低下は経済政策への不満などを反映したとみられると分析している。
安倍内閣の経済政策を「評価しない」は47%で前回より3ポイント上昇し、この質問を始めた2013年6月以降で、昨年12月17〜18日調査と並んで最も高かった。「評価する」は39%で、最低だった前回と並んだ。景気の回復を「実感していない」とした人は78%に上った。

来る参院選(あるいは衆参ダブル選)での野党選挙協力野党共闘)に関しては、マスメディアは全体として肯定的な評価を下していない。また野党共闘が実現したとしても、その効果は一部にとどまるとの観測だ。たしかに表向きはそうも見えるが、上記のような国民の政治行動の「見える化」が進行し、それがネット空間やマスメディアで拡散するようになると情勢が一気に変化することも考えられる。現に日経調査では、参院選で登用したいと思う政党が今年1月から2月にかけて有為の変化を示しており、自民党(36%→33%)とおおさか維新(6%→4%)が低下し、民維新党(9%+1%→13%)と共産党(3%→5%)へ上昇している。

ネット空間や路上に表れた新しい政治行動の胎動と、水面下で進んでいる国民世論の静かな変化がいつコラボするか、来る参院選(衆参ダブル選)への興味は尽きない。(つづく)