保守岩盤層が形成されるなかで、野党共闘路線の膠着状態をいかに打開するか、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その121)

 今年1月22日から始まった第196回通常国会が7月22日、閉幕した。今国会では、モリカケ問題の引き続く疑惑隠蔽、財務省による公文書の改ざん、同省次官のセクハラ問題、防衛省の日報隠蔽など、どれ一つ取って見てもそれだけで内閣が吹っ飛ぶほどの大不祥事が続発したにもかかわらず、安倍政権は強引きわまる国会運営で野党をねじ伏せ、重要法案を悉く成立させた。安倍1強体制の下では、国会はもはや「言論の府」としての機能を失い、悪法といえども与党法案をトコロテン方式に成立させる〝自動マシーン〟と化したのである。

 7月23日に発表された共同通信社の最新の世論調査結果(7月21,22日実施)を見ても、自公与党らが強行採決した重要法案や政府の西日本豪雨への対応などに対しては、悉く国民から不支持が表明されており(京都新聞2018年7月23日)、民意の所在は余りにも明らかだ。にもかかわらず、なぜ安倍政権はかくも世論を無視した国会運営に走るのか、そこには国民世論への怖れはないのか、次の参院選での与党敗北に対する懸念はないのか―、など、通常の政治感覚では理解できない疑問が次から次へと湧いてくる。

 戦後最悪といわれる安倍政権の専制体質、衆参両院で3分の2の議席を占める数の驕り、野党共闘路線の分断など、安倍1強体制の継続に関するこれまでの解釈に加えて、ここではそこにどんな新しい政治構図を見出せるか、今回の共同通信調査を参考にしながら考えてみたい。まずは、調査結果を以下に示そう。

〇大きな被害を出した西日本豪雨について、警戒中だった5日夜に、安倍晋三首相ら自民党議員が飲み会に参加していましたが、首相は初動対応に問題はなかったとの認識を示しています。あなたは、安倍内閣の豪雨対策を評価しますか、しませんか。→「評価する」27.5%、「評価しない」62.5%
〇政府、与党は、カジノを含む統合型リゾート施設整備法を今国会で成立させました。カジノの解禁には、地域の活性化や経済効果への期待がある一方で、ギャンブル依存症や治安悪化への懸念が指摘されています。あなたは、カジノを解禁する今回の法律に賛成ですか、反対ですか。→「賛成」27.6%、「反対」64.8%
自民党などは、参院選の「1票の格差」是正に向け、選挙区で「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区を継承しつつ、定数を6つ増やす改正公選法を今国会で成立させました。野党は自民党の党利党略だと指摘し、定数を増やすことを批判しました。あなたは、この法改正は問題だと思いますか、思いませんか。→「問題だ」55.6%、「問題ではない」27.6%
〇今国会で「働き方改革関連法」が成立し、高収入の一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」が導入されることが決まりました。野党は「残業代ゼロ」法と批判しました。あなたは、働き方改革関連法を評価しますか、しませんか。→「評価する」27.8%、「評価しない」60.9%
〇今国会では、森友学園問題や加計学園問題など政権の不祥事や疑惑が注目を集めました。あなたは、次の国会でもこれらの問題について追及するべきだと思いますか。→「追及するべきだ」45.7%、「追及する必要はない」49.3%

この調査結果について私がとりわけ注目するのは、どの質問項目に対しても安倍内閣の方針を支持する回答が全体の4分の1強を占めていることだ。しかもその比率が、「豪雨対策、評価」27.5%、「統合型リゾート施設整備法、賛成」27.6%、「参院選定数増加、問題ではない」27.6%、「働き方改革関連法、評価」27.8%とコンマ以下までほぼ揃っており、驚くほど安定していることである。このことが意味することは、国民世論の中に安倍内閣の如何なる政策に対しても(無条件で)支持する「保守岩盤層=中核的保守層」の影響力がこれまでになく強まっているということだろう。

加えて、「モリカケ問題、追及する必要ない」が49.3%と4分の1強を20%も上回っているように、モリカケ問題の「幕引き」を容認する世論が保守岩盤層のみならず保守周辺層にも広がっている。自民党支持率が41.6%と驚くほど高いレベルに達しているのは、モリカケ問題の「風化」が保守周辺層の自民回帰に少なからず寄与しているからだ。

 安倍政権の強引な国会運営は、こうした強固な保守岩盤層の形成と無関係ではあるまい。小選挙区制の特質を利用して得票数の過半数を制すれば議席を確保できるし、野党候補が乱立すればそれ以下の得票数でも楽々と当選できる。投票率が全体として50%台に低迷する中で、28%近い保守岩盤層の存在は決定的とさえいえる。世論動向はどうあろうとも、保守岩盤層さえ固めておけば「当選確実」となる政治構造が既にでき上がっているというべきであろう。最近の自民党の選挙戦術が空中戦を避け、もっぱら既存組織の票固めに集中しているのはこのことを物語っている。

 一方、こうした世論調査ではなかなか把握しにくい国民の政治感情はいったいどうなっているのだろうか。安倍内閣の政策には反対だが、その声が国会での議論や議決に何ら反映しないとなると、国民の間には政治に対する深い失望感が引き起され、何をやっても無駄との諦めの感情を拡がってくることは避け難い。国会での論戦が封じられるにつれて、それが与党に対する怒りよりも野党の不甲斐なさに対する絶望感につながり、野党支持率低迷の原因になっていることは明らかなのだ。また、野党共闘路線がいっこうに具体化しないことが、野党への期待感を著しく削いでいることは言うまでもない。

 こうした政治情勢の中で野党共闘路線をいかに再構築していくのか。私は野党間の政策協定や選挙協定の成立に精力をすり減らすよりも、保守岩盤層との直接的対話が重要だと考える。「日本の政治はこれでよいのか」「安倍政権をこのまま継続させてよいのか」「モリカケ問題に象徴される統治機構の劣化をこのまま放置してよいのか」などなど、青臭くてもまともな議論を街角から提起していくことが先決だと思うのである。果たしてこんな素人っぽい提案が玄人筋に通じるかどうかわからないが、日本の政治構造の岩盤が大きく変容しつつある情勢の下では、小手先の解決案は通用しない。国民の間に広がる失望感と無力感に立ち向かうには、「足元を掘る」しかないのではないか。(つづく)