大山鳴動して鼠一匹出ず、安倍政権打倒へのマグマはさらに大きくなった、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その116)

 大山鳴動して鼠一匹出なかった。大阪地検特捜部は5月31日、安倍首相夫妻による森友学園への国有地売却を巡る一連の不正疑惑に関して、財務省国交省関係者らの国有地の大幅値引き売却に対する背任や決裁文書の改ざんなど全ての告発容疑について、財務省幹部ら38人全員を不起訴処分にすると発表した。驚くべきことに、公文書改ざんをめぐって告発された前財務省理財局長・佐川宣寿氏に対しては「嫌疑不十分」、その他の関係者は「嫌疑不十分」あるいは「嫌疑なし」として誰一人訴追されなかったのだ。

 1年以上にもわたって国政を揺るがし続けてきた森友疑惑について、大阪地検が佐川氏ら当時の関係者をいずれも不起訴処分にしたことは、不正を暴き正義を追求する司法の存在意義(責務)を自己否定し、三権分立の原則を踏みにじったことにほかならない。この不起訴処分は、検察が財務省と同じく安倍首相夫妻の私兵となり、不正疑惑に蓋をする「同じ穴の狢(むじな)」になり下がった歴史的事件として長く国民の記憶に留められるだろう。否、留めなければならない。

 それにしても、8億円に及ぶ国有地の巨額値引き、国会をだまし続けた悪質な文書改ざんと意図的な廃棄などの国家的犯罪のどれもが「罪にあたらない」とされるのだから、開いた口が塞がらないではないか。これでは「刑事訴追の恐れ」を口実に国会証言を拒否した佐川氏と、彼の一切を免罪した大阪地検は、共謀して安倍首相夫妻の不正疑惑隠しに加担し、国会と国民をだましたことになる。佐川氏は大阪地検が起訴しないことを見越したうえで証言を頑なに拒否し、大阪地検は佐川氏の期待に応えて不起訴処分にすることで、両者は一致団結して森友疑惑の解明に背を向けたのである。

 大阪地検は31日、不起訴理由を説明する異例の記者会見を開き、山本特捜部長は「本件は社会の耳目を引いている事案」であるがゆえに「本件についての検察のスタンス」を説明するとしたが、その内容は凡そ説明には遠いものだった。山本特捜部長は、具体的な質問には「捜査の具体的な内容に触れる」として口をつぐみ、さらなる質問には「お答えできません」「これ以上は差し控える」などの回答拒否を連発して(1時間半に25回以上も)、実質的には何も答えなかったという(朝日、2018年6月1日)。これでは検察も佐川氏も国民に対しては何も答えていないことになり、「全体の奉仕者」である国家公務員としての職責を放棄したことになる。彼らは国民の税金ではなく安倍首相夫妻から給料を貰い、安倍首相夫妻の「使用人」として職責を果たしているとでも言うのだろうか。

一方、森友疑惑に関しては、最高検法務省幹部らはこれまで一貫して「法解釈からいうと、佐川氏ら財務省職員の立件は困難」との見解を示してきた(朝日、同上)。司法上層部が初めから「不起訴ありき」との見解をあからさまに打ち出すことで大阪地検に圧力をかけ、財務省の家宅捜査すらしない(できない)ままの作業が続いていた。これでは立件作業に障害が出ることは火を見るよりも明らかではないか。いわば、国家権力が総ぐるみで安倍首相夫妻の不正疑惑の解明を妨げ、「森友疑惑と関係があれば総理も議員も辞める」と啖呵を切った安倍首相を守ったのだ。こんな人物にひれ伏すことは屈辱以外の何物でもないが、「独立した人格と権力」を保障されているはずの検察までが恥知らずの行為に走ったのだから何をか言わんやだろう。

安倍政権はこれで一連の問題に区切りをつけたい意向だという。だがこんなことで森友疑惑がお蔵入りになっては、社会正義も国家規範も死んでしまう。「安倍が通れば道理が引っ込む」ような事態が罷り通れば、世界に「国家の恥」「国民の恥」を曝すことになる。こんな(低劣で恥知らずの)人物に首相の座をいつまでも占められることなど大方の国民には耐えられないし、多くの心ある人々はどんなことがあっても彼を権力の座から引きずり降ろさなければならないと決意している。それが政治への信頼を回復させ、民主主義をまもる最低の一線なのだ。

当面は検察審査会への申し立てから国民の反撃が始まるだろうが、それ以外にも彼らの幕引きを許さない無数の抗議行動が立ち上がるだろう。すでに、森友疑惑と双璧の(それ以上の)加計疑惑に対する新たな証拠が次から次へと発覚している。なかでも安倍首相と加計学園理事長が獣医学部設置に関して面談したと記録されている愛媛県文書は、安倍首相が「初めて知った」と国会答弁した期日のはるか以前の出来事であるだけに、首相の虚偽答弁を暴く最重要資料として浮上するだろう。なにしろ、「なかったことをあったようにウソを言った」との加計学園側の証言まで出てきたのである。「ウソにウソを重ねる」行為がどのような終末を迎えるかは歴史の多くが教えるだけに、身内の加計学園側の虚偽証言が安倍首相の命取りになる可能性は限りなく高いと言わなければならない。

米朝首脳会談にともなう国際的緊張関係が、一時的に安倍内閣の支持率を下支えするかもしれない。日本を取り巻く安全保障体制が根本から動揺するような事態の下では、政権交代といった国内の波乱要因を避けたいとの国民心理が働くためだ。だが、米朝首脳会談が最初の障害を乗り越えた段階で国際情勢が大きく変動することも否定できない。その時は最大の圧力一辺倒の安倍政権の外交政策が「政界の孤児」になり、安倍外交の空虚な中身が暴露される時でもある。

総選挙の噂が絶えない。新潟県知事選挙の成り行き次第では安倍内閣が総選挙に打って出るという話もあるし、それでなくても国際情勢の変化如何で総選挙を迫られる局面も出て来る。その時、野党は依然としてバラバラで戦うのか、それとも何らかの野党共闘を組むのか、その戦略的選択に直面する。安倍内閣の支持率が30%を切らないのは、安倍政権に代わる政権構想が示されないことにあるのが定説になっている以上、野党は森友疑惑と加計疑惑の追及に止まらず、次の総選挙への準備を進めなければならない。その時はもう目前に迫っている。(つづく)