安倍首相による国政私物化の3つの大罪、究極の公私混同(お友達への利益供与、官僚機構の私物化)、国民の知る権利否定(徹底した情報隠し、御用メディアの活用)、議会政治の破壊(議論封じ、国会調査権の放棄、政党モラルの崩壊)の3点だ、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(30)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その61)

 「森友疑惑」と「加計疑惑」に共通する特徴は、第1に、公私混同といったレベルを遥かに超えて、安倍首相・安倍政権による国政の私物化(お友達への利益供与、官僚機構の私物化)が進んでいることだ。第2は、安倍政権による国政私物化の事実が明らかになることを恐れて、国民主権の基礎である「知る権利」を乱暴に踏みにじり、公文書廃棄による情報隠しや御用新聞の活用による世論操作が組織的に行われていることだ、第3は、安倍首相の地位(個人的利益)を守るため、国権の最高機関である国会の審議を無視して野党の議論を封じ、翼賛与党による数の力で議会政治を崩壊に導いていることだ。

 「森友疑惑」は、昭恵首相夫人による籠池氏への異常とも言える肩入れ、すなわち籠池氏が推進する小学校(別名、安倍晋三記念小学校)設置に向けての個人的(私的)協力から始まった。昭恵夫人の名誉校長就任、首相夫人付職員による財務省など関係省庁への根回し、近畿財務局からのタダ同然の国有地売却など、事態は水面下で粛々と進められてきたのである。ところが地元豊中市議の奮闘によって疑惑が発覚し、動揺した安倍首相が、自身が関与した事実が明らかになれば「総理を辞める、議員を辞める」と広言したことから、事態は一大政局事件に発展した。

 こうなると、安倍首相は自らの地位を守るためには事件の疑惑を一切否定しなければならなくなる。ここから安倍政権による一連の策動が本格化し、財務省による籠池氏交渉記録など関係資料の「廃棄」、国会での野党質問に対する首相、財務省局長らの「知らぬ存ぜぬ」の一点張りの答弁、野党の国会調査権行使の妨害など、議会政治を崩壊に導く一連の「国政私物化プロセス」が始まったのである。

 だが、「加計疑惑」はもっとスケールが大きい。こちらの方は、安倍首相の「長年の友人」「腹心の友」である加計氏に対して国家戦略特区という国家プロジェクトまで動員し、官邸総ぐるみで加計学園獣医学部新設を推進してきたという一大疑獄事件が発覚したのである。加計学園獣医学部新設を実現するためには、地方創生担当相を指揮してこれまで周到に準備を進めてきた京都産業大学を蹴落とし(私は、同大学が鳥インフルエンザ研究の世界的権威を招聘した段階からこの経緯を知っている)、関係する農水省文科省を強引にねじ伏せ、赤信号を青信号に変えなければならない。そこで首相補佐官内閣府参与までを総動員して文科省に繰り返し圧力をかけ、加計学園のための「総理のご意向」を実現することに奔走したのである。

 ところが、「森友疑惑」は外部からの情報公開請求が事件発覚の切っ掛けだったが、「加計疑惑」の方は文科省内部から『総理のご意向』文書がリークされて発覚したところに大きな違いがある。いわば、安倍政権を支える官僚機構の中から、しかも事務方トップの文科省事務次官が『総理のご意向』文書を本物と認定したのだからその影響は計り知れないほど大きい。安倍政権による国政の私物化が行政を歪め、「官僚の忖度」が歯止めの利かないところまで来ていることに危機感を覚えた1次官が、意を決して立ち上がったというのが真相だろう。わが国にも「官僚の矜持」を忘れていなかった人物が幸いにも存在していたのである。

 「森友疑惑」がまだ記憶に残っている時点で「加計疑惑」が発覚したことは、安倍政権にとっては一大打撃だった。慌てた首相官邸御用新聞やラジオを総動員して前次官を総攻撃したことも、国民の反感に火を油を注いだ。国会では動かぬ証拠を突き付けられても「確認できない」「再調査しない」と白を切る一方、喋り放題の御用新聞やラジオには「単独出演」して、意の内を思いのままに報道させる。こんな公私混同を繰り返す首相に世論が我慢ならなくなり、国政を正常化しなければならない、国政を安倍政権から取り戻さなければならない、という声が次第に高まってきているのである。

 問題は、安倍首相に屈服する与党議員の凄まじいばかりの政治的退廃だろう。自民内部にはもはや正論(産経の『正論』ではない)を述べるまともな議員は誰一人残っていないし、自民にコバンザメの様に引っ付き、食い残しの餌をもらう公明の姿は醜悪そのものだ。国会討論でもテレビニュースでも歯の浮いたような自民追随の言葉を繰り返す公明幹部には、正直って反吐が出る思いすら覚えるのは独り私だけではあるまい。維新の会に至っては「大阪万博」の匂いを嗅がされただけで土下座してすり寄る有様は、まさに「浅ましい」の一言に尽きる。

 世論はまだ本格的に動いているとはいえない。しかし、最近の床屋話や飲み屋での会話など、私の周辺でも少なくない変化が感じられる。北海道新聞が5月26〜28日の3日間に実施した調査結果によると、安倍内閣を「支持する」は4月の前回調査から12ポイント減の41%、「支持しない」は12ポイント増の57%だったという。北海道はもともと民主党の地盤でTPPなどアベノミクスに批判的な地域だからその結果にも頷けるが、6月1日に発表された日経新聞電子版「クイックVote」の調査結果には正直言って驚いた。内閣支持率は、なんと前回調査の52.1%から25.4ポイントもダウンして26.7%に急低下したのである。

「クイックVote」は週1回、電子版の有料・無料の読者を対象に行っている世論調査で、その時々のトピックスが中心テーマになる。投票者の多くは大都市のビジネスマンだとされており、実は今度の投票には私自身も1票を投じた。おそらく同様な感じで投票した人が多かったので、そんな結果になったのだろう。日刊ゲンダイ(6月5日)は、有権者の投票動向に詳しい井田明大教授(計量政治学)のコメントを次のように紹介している。

―まず「クイックVote」の支持率が極端に落ちたのは、加計問題などに関心が高い人が投票したからでしょう。通常の世論調査はかかってきた電話に答える“受動的”なものですが、「クイックVote」は自分から動く“能動的”なものです。直近のニュースに反応しやすい。「北海道新聞」の調査の方は、これまで“消極的”に支持していた人が離れた結果でしょう。“消極的な支持”は崩れやすい。もともと北海道は、民進党金城湯池だったこともあり、安倍内閣を消極的に支持していた人が多かった可能性があります―

この先、大手紙の世論調査でどのような変化が起こるのか今のところは予測がつかない。しかし「安倍1強」の歪が民主国家の統治機構を破壊させるまでに達していることを鮮明に浮かび上がらせたのが、今回の「森友疑惑」「加計疑惑」の両疑惑コラボだった。遅まきながら、国民世論は着実に変化しつつあるのではないかと感じる。安倍政権による「1億総馬鹿社会」化に対抗するためにも、日本国民はもう一度自分の足元を見つめ直してほしい。(つづく)