菅政権の〝1億総動員計画〟は成功しなかった、やり場のない苦痛と徒労感にさいなまれた東京五輪の17日間、菅内閣と野党共闘の行方(38)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その263)

 

東京五輪がようやく終わった。日本が史上最多のメダルを獲得したとかで、多くの国民は勇気と感動を与えられたとメディアは伝えている。テレビに登場するメダリストたちの顔は誰もが輝いていた。この日のために懸命の努力を傾けてきたアスリートにとっては、東京五輪が最高の「晴れの舞台」だったことは間違いない。学生時代にはアスリートの端くれだった私からも心からの祝福を送りたい。

 

彼・彼女らへの気持ちはいささかも変わらない。といって、東京五輪そのものを賛美する気にはさらさらなれない。むしろ東京五輪の17日間は、私にとってはやり場のない苦痛と徒労感にさいなまれた17日間だったといってよい。新型コロナをめぐる国内外の感染状況が刻々と悪化し、それにともなう医療問題や社会問題が噴出しているにもかかわらず、ありとあらゆるメディア空間が「五輪一色」に染められ、それ以外の情報は全く得られない「報道管制」状態が続いていたからだ。これでは「本土決戦」「1億玉砕」のスローガンとともに、連日軍艦マーチが鳴り響いていた終戦時のラジオ放送と同じでないか(私は終戦当時、国民学校1年生だった)。

 

菅政権が政権浮揚のために、東京五輪の開催強行という「賭け」に出たことは誰もが知っている。国民の命と健康を守ることが大前提だと言いながら、実際やったことは「安心安全東京五輪」を百回念仏のように繰り返しただけ。東京を中心に首都圏一帯に感染爆発が広がっても、緊急事態宣言がもはや「お題目」化して見向きされなくなっても、安心安全一本やりの「菅念仏」はいっこうに変わらない。この状態は、もはや「ボキャ貧」というレベルをはるかに超えて「ボキャ欠」の域に達している。「見ていられない!」というのが、われわれシニア層の感想だ。

 

それにしても、漢字も満足に読めない麻生元首相の登場以来(彼は、未曽有を「ミゾユー」と読んだ)、森友問題や桜を見る会疑惑に絡んで118回もの国会虚偽答弁を重ねた恥知らずの安倍前首相、そして官僚が用意した原稿をまともに読めず、読み飛ばしてもそれに気づかない程度の低学力の菅首相など、とにかく最近のわが国の首相は「粒」がそろっている。こんな連中が東京五輪の誘致に血道を上げ、海千山千のIOC幹部を相手にするのだから、手玉に取られても仕方がない。費用対効果分析からいえば、「利益はすべてIOC」「費用はすべて日本国民」ということになり、東京五輪を強行すればするほど、日本国民の負担は級数的に膨らむことになる。

 

東京五輪は日本の恥部をすべてさらけ出した。数々の不祥事は挙げればきりがないが、そんなことは些末なことだ。最大の問題は、日本の首相や東京都知事が国際的イベントを開催するだけの資質も力量もなく、それが国際的に広く知れ渡ったということだ。1国のガバナンスも満足にできないような人物が、その失点を挽回しようとして東京五輪の開催に固執したことがことの始まりだった。足元を見たIOCに徹底的に付け込まれ、時にはおだてられ、そして、骨までしゃぶられた。そのツケは、すべて日本国民が背負うことになるのである。

 

IOCに体よく利用された(だけの)ことは、東京五輪の熱気が冷めるにつれて日に日に明らかになるだろう。「宴」の後の現実を目の当たりにして、日本国民は今更のごとく事態の深刻さに慄然とするのではないか。そして、誰がこんな事態を引き起こしたのか、誰が「五輪囃子」を打ち鳴らしたのか、結果の責任を誰が取るのかなどなど――、そんな怒りと批判が燎原の火のごとく日に日に広がっていくだろう。

 

菅政権は、東京五輪という〝1億総動員計画〟を実行に移した。だが、この計画は成功しなかった。菅首相は「未曽有の困難のなかで成功を収めた」と自画自賛しているが、東京五輪終盤時に実施された各種の世論調査結果は「ノー」を突き付けている。朝日新聞(8月7、8日実施)、読売新聞(8月7~9日実施)、NHK(同)の結果を要約すると、国民世論の所在がクリアーに浮かび上がる。

結論から言えば、(1)国民の3分の1は東京五輪の開催に反対であり、(2)3分の2が「安心安全な大会」になったとは思わず、(3)その原因がこれまでの政府の対応の不備にあると考え、(4)結果として、菅内閣に不支持を突き付けたのである(それも「危険水域」と言われる20%台にまで)。以下はその数字である。(つづく)

 

【東京五輪が開催されてよかったか】

 朝日:よかった56%、よくなかった32%

 読売:よかったと思う64%、思わない28%

 NHK:よかった26%、まあよかった36%、あまりよくなかった18%、

よくなかった16%

 

【東京五輪は菅首相の掲げた「安心安全な大会」にできたか、なったか】

 朝日:できた32%、できなかった54%

 読売:そう思う38%、思わない55%

 NHK:なった31%、ならなかった57%

 

【新型コロナウイルスを巡るこれまでの政府対応を評価できるか】

 朝日:評価する23%、評価しない66%

 読売:評価する38%、評価しない58%

 NHK:大いに評価する3%、ある程度評価する32%、あまり評価しない40%、

まったく評価しない21%

 

【菅内閣を支持するか】

 朝日:支持する28%(前回31%)、支持しない53%(同49%)

 読売:支持する35%(同37%)、支持しない54%(同53%)

 NHK:支持する29%(同33%)、支持しない52%(同46%)