バッハIOC会長はオリンピック・マフィアなのか、日本国民の支持が得られない東京五輪は開催できない、菅内閣と野党共闘の行方(30)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その255)

 

 政府は4月22日、新型コロナウイルスの感染再拡大が続く東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象に、特別措置法に基づく緊急事態宣言を出す方針を決めた。4都府県では酒類やカラオケを提供する飲食店に休業要請するほか、床面積が1千平方メートルを超える商業施設や遊興施設に休業を要請する方向で検討しているという。

 

 注目されるのは、緊急事態宣言の期間が4月25日から5月11日までの17日間ときわめて短いことだ。4月22日に開催された東京都モニタリング会議では、新型コロナウイルス(第4波)の感染予測が行われ、都内のウイルスが全て変異株に置き換わったと仮定した場合、1日の新規陽性者が700人で増加比が1.7倍となり、2週間後の感染者数は2000人を超え、入院患者数は6000人を超えるという結果が出た。こんな状況下で緊急事態宣言を予定通り解除することになれば、事態はさらに「火に油を注ぐ」ことになりかねない。政府はいったい何を考えているのだろうか。

 

 各紙が伝えるところによると、バッハ会長が5月17、18両日に日本を訪れ、17日には被爆地・広島市で聖火リレーの関連式典に出席し、18日には都内で菅首相らと会談する予定になっているそうである。そうなると、緊急事態宣言下でのIOCトップの訪日は世論の反発を招きかねないので、バッハ訪日の前に緊急事態宣言をなんとか終わらなければならない。そこで、緊急事態宣言の期間を5月11日までにすることが決まったというのである。

 

果たせるかな、菅首相は4月20日夜、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を東京都に発令した場合、東京オリンピックの開催判断に影響するかどうかを問われ、「オリンピック(への影響)はないと思っている。安全・安心な大会になるように政府として全力を挙げていきたい」と、首相官邸で記者団に答えた(毎日4月20日電子版)。バッハIOC会長もまた4月21日、菅首相と口裏を合わせるかのように理事会後のオンライン会見の冒頭で、日本政府が東京都内などに再び緊急事態宣言を発出する方向であることについて、「ゴールデンウィークを控え、感染の拡大を防ぐために日本政府が講じる予防的措置と理解している」「五輪とは関係ない」と述べ、東京五輪開催への影響はないとの認識を示した(朝日4月22日)。

 

   この発言に対して、朝日新聞(4月23日)は、「緊急事態 五輪と関係ない」「IOCバッハ会長発言 波紋」「都民『影響ないわけけない』」との見出しで次のように報じた(要約)。

―「緊急事態宣言は五輪と関係ない」「選手には毎日検査」。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、東京五輪開催を推し進める大会幹部の発言に波紋が広がった。医師は異論を唱え、都民からは批判の声も上がった。大会組織委員会のある幹部は「都民や国民が不自由な生活を強いられる中で、『五輪は特別なのか』という不満が高まる」とため息をつく。大会期間中、競技場周辺の救護体制を担う東京都医師会の尾崎治夫会長は、「人と人との接触を減らして感染を抑えられるかどうかが、五輪だけでなく、日本にとっての正念場。もし本当に五輪を開きたいのなら、『このままでは開催が厳しい。感染の拡大を徹底的に抑えて』と訴えるべきだった」と指摘した―

 

 毎日新聞(同)も「バッハ会長『緊急事態 五輪と無関係』」「IOC 世論軽視、開催懐疑論との溝拡大」との見出しで批判する(要約)。

  ―バッハ氏は「関係がない」とする理由について「ゴールデンウイークに向けて感染者を増やさないための限定的な対策だ」と説明したが、「五輪は関係ない」とする姿勢に大会関係者は頭を抱えた。「大事なのは国内世論で、発言は逆効果でしかない。緊急事態宣言を軽く受け止めているように映る」と声をひそめる。IOCと国内世論のずれは、会見の冒頭発言にも見てとれる。東京は変わらず開催都市の優等生であり、今夏の五輪開催に影響がないことを強調するのが狙いだった。IOCと歩調を合わせる菅首相も20日、五輪への影響について「ないと思っている」と否定したばかりだ。だが、日本のワクチン接種率は先進国どころか、世界平均を大きく下回る。バッハ氏の発言がインターネット上を駆け巡ると、ワクチン接種の遅れにいらだつ国民からは批判的な意見が相次いだ―

 

そうでなくとも、バッハ会長は〝商業五輪〟を遮二無二推し進めようとする「オリンピック・マフィア」だと見られている。アメリカのマスメディアからの巨額の放映権料を受け取り、NBCとは5千億円近い契約を結んでいる。もし、東京五輪が開催中止になればIOCは致命的な打撃を受け、商業五輪を今後続けることは不可能になるかもしれない。バッハ会長自らも責任を問われ、再任されたばかりの会長職を失う可能性もある。菅首相も同様だ。今年9月までの総選挙を控えて、東京五輪の開催中止は「菅降ろし」の狼煙となり、号砲となる。バッハ会長と菅首相は一蓮托生の間柄なのだ。

 

 今から思い返してみると、自民党の二階幹事長が4月15日、菅首相の訪米直前に新型コロナウイルスの感染状況次第で東京五輪の開催中止が選択肢になるとの考えを示したことは、重要な意味を持つ。海外の主要メディアも、「オリンピック中止は選択肢だと日本の与党幹部が発言」などと報道。二階氏による「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」との発言を共同通信を引用して報じた。二階氏については「直接的な物言いで知られ、多くの与党議員が激論を招きかねない中止の可能性への言及を避ける中でコメントした」と伝えた(ロイター通信4月15日)。

 

 フランスのAFP通信や米ブルームバーグ通信なども、二階氏の発言を報道している。AFPは「日本国内で新型コロナの感染者急増に対する懸念が高まる最中のことだ」と伝え、大阪では聖火リレーが公道で中止になったことにも触れた。米ワシントンポスト電子版は東京発の記事を掲載した。日本について「(感染拡大の)第4波を抑え込もうと苦闘している」と指摘し、特に大阪と東京で伝染性の高い変異種の感染が広がっていることも伝えた。二階氏の発言に関する報道は、中国やロシア、ドイツ、オーストラリア、南アジア、中東など世界各地のメディアが行っており、東京五輪が予定通り開催されるのか、国際的な関心が異常に高まってきている(毎日4月15日)。

 

 私は、二階幹事長が菅首相の訪米直前にこのような発言をしたことは、自民党からのバイデン大統領への事実上のメッセージだと考えている。菅首相のアメリカに対する五輪開催への要請に対して、「そのまま支持することは危険だ」と伝えるメッセージである。菅首相は、日本時間4月17日に開かれた日米首脳会談後の共同会見で、「バイデン氏から五輪開催の支持を得た」と述べたが、バイデン氏は今年2月のインタビューで大会開催については「科学に基づいて判断すべき」と発言しており、慎重姿勢を崩していない。今回の会談の共同声明でも「努力を支持」の文言はあったものの「開催支持」との文言はない。会見でも、バイデン氏は五輪開催に触れていない。米国の政府高官は現状について「判断するには少し早すぎる」と説明しており、むしろ両国の温度差が増している。

 

4月23日の朝日新聞社説は、「五輪とコロナ、これで開催できるか」との主張を掲げた(要約)。

―東京都に3度目の緊急事態宣言が発出されることになった。2度目の宣言の解除からわずか1カ月余。新型コロナの猛威は収まる気配がない。こんな状態で五輪を開催できるのか。強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになるのではないか。それが多くの人が抱く率直な思いだろう。朝日新聞の社説は繰り返し、その説明と国民が判断するための必要な情報の開示、現実を踏まえたオープンな議論を求めてきた。しかし聞こえてくるのは「安全で安心できる大会を実現する」「宣言の影響はない」といった根拠不明の強気の発言ばかりだ。菅首相以下、リーダーに期待される使命を果たしているとは到底いえない。開催の可否や開く場合の態様を、誰が、いつまでに、どんな権限と責任をもって決定するのかも判然としない。速やかに明らかにすべきだ。中ぶらりんでは不信が高まるだけだ―

  菅首相は国民世論にいかに応えるのか。東京五輪があと3カ月に迫ったいま、菅政権に残された時間はそれほど長くない。(つづく)