子供関連予算を放置しながら、防衛費予算を倍増する〝亡国政権〟の正体、日本を破滅させる岸田内閣、岸田内閣と野党共闘(その31)

政府の「全世代型社会保障構築本部」(本部長・岸田首相)は12月16日、有識者会議がまとめた報告書を了承したという。同報告書は、少子化の進行は「国の存続に関わる問題」と指摘し、子育て・若者世代への支援を強力に整備するよう求めたとされる。岸田首相は、2023年4月に子供政策を一元的に担う「こども家庭庁」の新設を踏まえ、2020年1月の衆院予算委員会で子供関連予算「倍増」の方針を示した。来年度に創設されるこども家庭庁の概算要求は約4.7兆円、「倍増」するには少なくとも同程度の予算が必要となる。報告書は、首相が予算倍増の方針を示していることも踏まえて、「恒久的な施策には恒久的な財源が必要」と言及したが、新たに負担を求める対象や方策には触れず、「支援策の具体化と合わせて検討」と記すにとどまった(日経12月16日)(産経12月17日)。

 

岸田首相は子供関連予算の「倍増」方針を示したものの、その具体的内容に関しては来夏に閣議決定する政府の経済財政運営指針(骨太の方針)で「当面の道筋を示す」というだけで、巨額の予算をどう捻出するかについては一切言及を避けている(それ以上のことは言わない)。「当面」とは「さしあたり」「暫定」ということであって、基本的な方針が決まっていないことを意味する。また「道筋」とは方向性を示す言葉であって、到達点の中身を示すものではない。要するに、子供関連予算についての具体的なことは、「何一つ決まっていない!」ということなのである。

 

日本の少子化問題は「国の存亡=国難」にかかわる一大事だ。我が国の年間出生数は戦後の第1次ベビーブームの270万人、1970年代初頭の第2次ベビーブームの210万人をそれぞれピークにして、それ以降は毎年減少を続けている。1975年には200万人、1984年には150万人を割り込み、2016年には(1899年の統計開始以来)初めて100万人を割った。2022年の今年は、早くも80万人を割る見通しとなっている。「国の存亡」にかかわる少子化が、恐るべきスピードで進んでいるのである(内閣府「少子化対策白書」2022年版)。

 

日本の少子化問題の根本原因は、言うまでもなく若者が非正規雇用化して低賃金で生活ができなくなり、結婚が出来なくなって子供が生まれなくなったことにある。財界が「日本型雇用」を破棄して労働力の流動化を図り、政府がそれに追随して「労働者派遣法」を制定したのは1986年のことだ。それ以降、非正規雇用労働者が激増し、低賃金労働者が巷に溢れるようになった。総務省統計局の労働力調査に非正規雇用労働者統計が登場したのは1984年、同年の非正規化率は15.3%だった。それが1990年20%、1995年25%、2003年30%、2011年35%とほぼ5年ごとに5%ずつ増え、2019年には38.3%に達している。実に日本の雇用労働者の4割近くが非正規化し、低賃金で不安定な就労状態の下に置かれるようになったのだ。先進諸国(OECD)統計によれば、実質賃金指数を1997年=100とした場合、この20年間でEU28ヵ国は平均115、アメリカは114に上昇しているのに対して、日本だけが逆に90に低下している。国民の多くは20年間にわたって実質賃金を減らされ、食うや食わずの生活に喘いでいるのである。

 

 現行の人口規模を保つためには、1人の女性が生涯に産む子供数(合計特殊出生率)を2.07人前後に維持しなければならない。ところが、日本の2021年合計特殊出生率は1.30(人)であり、その3分の2の水準にすぎない。これでは1世代ごとに人口の3分の1が減少していく計算になり、亡国の道を歩むしかなくなる。当たり前のことだが、1家族に平均2人の子どもがいないような国では将来の希望もなければ、未来への展望も開けない。2015年10月発足の第3次安倍内閣は「希望出生率1.80」を政策目標に掲げたが、これは全くの「見せかけの数字」だった。安倍元首相は、後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題で、2019年11月~20年3月の間、国会で計118回の虚偽答弁をしていたことで知られている(衆院調査局2020年12月21日発表)。しかし、安倍氏の最大のウソは「希望出生率1.80」を掲げながら何の財源も用意せず、そのための具体策を何一つ取らなかったことだ。岸田内閣は安倍後継政権を自負しているのか、同じ道を歩もうとしているとしか思えない。

 

もともと、子供関連予算の基礎となる児童手当、出産扶助、就学援助など日本の「家族関係社会支出」の対GDP比は、先進諸国に比べてきわめて低い水準にある。国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障費用統計」(2015年度版)によると、対GDP比はイギリスの3.8%、スウェーデンの3.6%、フランスの2.9%、ドイツの2.2%などに比べて僅か1.3%にすぎない。そのことが日本の少子化問題の最大原因になっていることは、人口問題や社会保障の研究者たちが繰り返し指摘してきたことだ。にもかかわらず、歴代の政府は安倍内閣をはじめ口先だけの公約を掲げるだけで、誰一人具体的な改善策の措置を取ってこなかった。

 

 家族関係社会支出が最低水準にあることの弊害は、いまや保育や教育の現場で日々刻々と深刻化しつつある。保育分野における人材不足の現状は、指定保育士養成施設卒業者のうち、約半数が保育所に就職していないことにもあらわれている。保育士の有効求人倍率は全国平均で2倍近くに達しており、いっこうに改善される兆しが見えない。原因は仕事の重さに対して賃金が著しく低いことだ。厚労省賃金構造基本統計調査(2015年)によれば、全職種雇用労働者の現金給与月額平均30万7000円に対して、保育士は平均21万2000円(69%)にすぎない。こんな低賃金でいったい誰が働くと言うのか。

 

 教育現場でも教員不足が一段と加速している。文科省の「教員不足に関する実態調査」(2022年1月)によれば、2021年度当初、全国小中学校1797校(全体の5.8%)で2558人の欠員が発生している。原因は、教員不足による長時間労働の常習化が学生たちの「教員離れ」を引き起こし、先生の成り手が激減しているためだ。2021年度の公立小学校教員の採用試験倍率は2.5倍にまで低下し、過去最低を更新した。18県市では2倍を切り、採用者の質の維持が著しく困難になっている(日経12月20日)。

 

岸田内閣は12月16日、安全保障関連3文書(国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画)を閣議決定し、これまでの「専守防衛」をこともなげに投げ捨てて「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を認めたのだ。また、2027年度の防衛予算をGDPの2%(約11兆円)とすること、そのため2023~27年度の防衛費を過去最高であった2019~23年度実績の27兆4700億円の1.5倍以上の総額約43兆円とすることも決定した。公約に掲げていない安保政策の大転換を突然打ち出し、しかも国会でまったく議論しないで次々と閣議決定して既成事実を積み上げていく乱暴極まりないやり方は、国民世論や議会制民主主義を無視した専制主義そのものではないか。

 

問題は、日本維新の会と国会共闘を組んだ立憲民主党の態度がきわめてあいまいなことだ。毎日新聞(12月20日)は、「反撃能力、立場定まらず」「保有で立憲内賛否、時間切れ」との見出しで、次のような記事を書いている。

――政府が相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を含む安全保障関連3文書を閣議決定した16日、立憲民主党は「政府3文書の『反撃能力』には賛成できない」とする声明を発表した。「国会での議論も、国民的合意もない」ままの決定は容認できないとの内容だ。ただしこの声明には、そもそも立憲は反撃能力の保有に賛成なのか、反対なのかという基本的認識は記されていない。

――この日までに日本維新の会や国民民主党は反撃能力の保有に賛成、共産党やれいわ新選組は反対する姿勢を打ち出していた。「立憲はいつ賛否を決めるのか」との質問に対して、泉代表は「取りまとめは順調に行っている」と答えたが、泉氏の言葉を額面通りに受け止めた立憲関係者はほぼいない。立憲執行部は反撃能力の一部容認を閣議決定までに表明することを目指したが、議論が煮詰まらず断念したことは党内周知の事実だったためだ。

――2021年に代表に就任した泉氏は、政権担当能力のある「責任政党」への変革を目指し、今年7月の参院選では防衛力強化の方針を公約に盛り込んだ。反撃能力についても、東アジアの安全保障環境を踏まえれば保有は必要だとの持論があるとされ、9月には党内論議の取りまとめ役に保守派の玄葉光一郎・元外相を起用。現場氏は10月のテレビ番組で「私としては真の抑止力たり得る反撃能力については排除しないで議論していきたい」と表明し、反撃能力容認の方向で党内調整を試みた。

――しかし立憲には、専守防衛を厳格に守ってこそ平和が保たれると考えるリベラル派議員が多い。(略)結局、執行部は閣議決定までの意見集約を断念。代わりに泉氏の名前で政府の対応を批判する「声明」を発表した。(略)今回は「時間切れ」で終わったとはいえ、執行部は党内議論を続け、20日にも党としての公式見解「外交安全保障戦略の方向性」(仮称)をまとめたい考えだ。

 

私は泉氏の選挙地盤(衆院京都3区)の有権者なので、彼のことは比較的よく知っている。泉氏はもともと小池東京都知事や前原元外相などとともに「希望の党」の中核メンバーとして行動し、「保守2大政党」の成立を目指してきた人物だ。希望の党と民進党が合流して国民民主党が結成された際もその一員として行動し、枝野氏が率いる立憲民主党には加わらなかった。それが一転して立憲民主党に合流したのだから、「なぜこの人が...」と首をかしげる人が多い。泉氏は政治信条からして前原氏や玉木氏らときわめて近く、てっきり合流しないと見られていたからだ。真偽のほどはよく分からないが、その差は玉木氏らが早い時期に自民党との合流を目指していたのに対して、泉氏らは立憲民主党を「保守2大政党」の一角に転換させることを考えていたからだとされる。その後の泉氏の「責任政党」発言から見ても、この観測があながち的外れだったとは思われない。

 

今後の政局は、安全保障関連3文書への各党の接近度合いをめぐって激動することになるだろう。日本維新の会や国民民主党がすでに「基本的賛成」の立場を表明しているので、立憲民主党がどのような公式見解を示すかが政局の分岐点になる。泉執行部が「反撃能力容認」の立場を打ち出せば、立憲民主党の分裂が起こる可能性が大きい。その時、泉氏らは挙って日本維新の会などとともに〝保守大連立政権〟に参加するのではないか。またそうでないときは、泉氏らは執行部としての求心力を失い、立憲民主党内での主導権争いが激化するだろう。どちらにしても、立憲民主党がこのまま「あいまいな態度」を続けることは不可能だ。

 

 12月17,18の両日、毎日新聞、朝日新聞、共同通信の3社が全国世論調査を実施した。毎日、朝日の世論調査に共通する傾向は以下の通りである。

 (1)岸田内閣の支持率が、毎日25%(6ポイント減)、朝日31%(6ポイント減)となり「発足後最低」を更新した。内閣不支持率は毎日69%(7ポイント増)、朝日57%(6ポイント増)だった。いずれの結果も、岸田内閣が国民の支持を完全に失い、不支持率が過半数を大きく超える状況が顕著に示されている。

 (2)「反撃能力」の保有については、毎日「賛成」59%、「反対」27%、朝日「賛成」56%、「反対」38%で、賛成が反対を大きく上回った。防衛費を大幅に増やす政府の方針については、毎日「賛成」48%、「反対」41%、朝日「賛成」46%、「反対」48%と賛否が拮抗した。このことは、ロシアのウクライナ軍事侵攻や北朝鮮の相次ぐミサイル発射などによって国民の恐怖感が高まり、何らかの防衛措置を取らなければならないと考えているものの、そのための防衛費増額については判断に迷っている状態がよくあらわれている。

 (3)防衛費を増やす財源として増税することは、毎日「賛成」23%、「反対」69%、朝日「賛成」29%、「反対」66%で、反対が賛成を大きく上回った。国債を発行することについては、毎日「賛成」20%、「反対」73%、朝日「賛成」27%、「反対」67%と、これも反対が賛成を大きく上回った。また、財源として社会保障費など他の政策経費を削ることについては、毎日「賛成」20%、「反対」73%と同様の結果だった。ここでは、防衛費増額のために国民負担を強いることへの拒否感が強くあらわれている。

 

 これらの結果を総じて言えば、国民は緊張する国際関係の下で何らかの「抑止力」を求めており、それが目下「反撃能力容認」の世論としてあらわれているということだろう。しかし、そのための国民負担については明確に拒否しており、莫大なアメリカの軍事兵器購入などの「反撃能力」の実態が今後明らかになっていけば、世論が劇的に変化することは間違いない。低賃金のもとでの毎日の苦しい生活の中で、社会保障経費を削り、子育て予算を放置する政策が支持されるわけがないからだ。甘利氏などは「賢明な国民は税負担を理解する」などと荒唐無稽な暴言を吐いているが、賢明な国民は防衛費倍増を拒否し、〝亡国政権〟の岸田内閣を打倒することでその存在感を示すだろう。2023年の新年の到来が待たれる。(つづく)