「べたなぎ国会」(与野党対決なし)は「きれいな空振り」(内閣不信任案否決)で終わった、立憲民主党の〝あいまい路線〟は墓穴を掘るにちがいない、岸田内閣と野党共闘(その19)

2022年6月15分、第208回通常国会が閉会した。各紙の見出しは驚くほど似通ったものだった。

〇日本経済新聞(6月15日)、「国会、異例の与党ベース、政府提出法案 26年ぶり全て成立へ」「会期中 内閣支持は上昇、決め手欠く野党、『対決型』控える」

〇朝日新聞(6月16日)、「政府提出法案 100%成立、通常国会閉会 26年ぶり」「視点、対決構図崩れ あぐらかく首相」「社説、国会閉幕、参院選へ、言論の府 再生の道は遠く、首相の危機感どこへ、信失う文書費先送り、問われる野党の意義」

〇毎日新聞(6月16日)、「べたなぎ国会 全法案成立、参院選前 与党対決避け、旧文書費先送り 『財布』温存」「社説、通常国会が閉会、ますます議場がかすんだ」

 

原因は2つある。1つは岸田首相の中身のない答弁、もう1つは野党の分断による追及力の不足だ。首相は看板政策の「新しい資本主義」の中身を何度聞かれても、「資本主義をバージョンアップする」と繰り返すばかりで、何をやろうとしているのかさっぱりわからない。おそらく当初は、「アベノミクス」をはじめ安倍政権の経済政策の修正を考えていたのだろうが、元首相の恫喝にあって早々に引っ込めてしまった。おまけに、「敵基地攻撃力」や「防衛費の大幅増額」にも同調する始末、これでは後部座席から行く先々を指示される「お抱え運転手」と変わらない。

 

野党の分断も際立っている。国民民主党は口先では「野党」を名乗りながら、本予算と補正予算の全てに賛成した。もちろん内閣不信任案決議にも反対だった。これなどはもう、立派な「与党そのもの」だ。日本維新の会も政権に加わっていないだけで、政策では自民党右派(タカ派)の安倍元首相の代弁者としての役割を積極的に買って出ている。元首相が言いたいことに尾ひれを付けて拡散する「拡声器」の役割だ。そして、立憲民主党が国会最終盤に単独で提出した内閣不信任案は「きれいな空振り」(立憲若手議員)に終わり、野党第1党の面目は丸つぶれとなった。要するに、野党が野党としての体をなしていないのである。

 

京都新聞は6月16日、「波立ち前―国会発」と題して連載を始めた。第1回は「深まる溝、立民孤立、野党共闘崩れ」というもので、次のような内容が掲載されている。

――150日間にわたる通常国会閉会の高揚感と安堵感が交錯する国会内。「聞く力」を掲げる首相と、「批判ばかり」からの脱却を試みる野党第1党党首の登場で、国民を巻き込む論戦は繰り広げられてこなかった。(略)選挙協力を深めた昨年の衆院選後、両党(立民、共産)の溝が顕在化した。衆院選の敗北を受け党再建を託された泉氏は、支持団体の連合の意向も踏まえ共産と距離を置き続けてきた。

――国会会期末が迫った8日朝、泉氏は立民単独で内閣不信任決議案を衆院に提出する異例の方針を急きょ表明した。立民は等距離の立場を演出するため、共産だけでなく野党各党に賛同を呼びかけた。(略)9日の衆院本会議で共産は不信任案に賛成こそしたものの、提案趣旨を熱弁する泉氏への拍車はまばら。維新に加え、政府の当初予算案に賛成した国民民主党が反対に回り、240票差で否決された。険しい表情で議場を出た泉氏は「立民の姿勢を示せた」と誇ってみせたが、かえって野党第1党の孤立を印象づけた。

 

京都新聞は同じく、「臨戦態勢2020、参院選京都」と題する連載も6月7日から10日まで4回にわたって掲載した。6月8日は「強まる逆風 問われる実績」と題して、「立民」の現状が報告された。だが、その内容は必ずしも芳しくない。

――「守り続けてきた大切な1議席、勝たせていただけないでしょうか」。4日夜、参院選京都選挙区で5選を目指す立憲民主党現職の福山哲郎氏(60)は、事実上の決起集会となった時局講演会で詰めかけた支持者約1千人に深々と頭を下げた。(略)改選数2の京都選挙区では安定した戦いを進めるとみられたが、昨年10月の衆院選で風向きが一変。立民は全国的に共産党を含む野党共闘に踏み込んだが、現有議席を減らす敗北を喫し、福山氏は幹事長を引責辞任した。自身の参院選を占う京都府内の党比例票は約15万9千票とふるわず、自民党、日本維新の会に次ぐ3番手に終わった。

――さらに追い打ちをかけるのが、共に京都の民主党を引っ張った国民民主党の前原誠司代表代行(衆院京都2区)の動きだ。「国民府連としては福山さんに一本化する義理や借りは全くない」。前原氏は立民が進めた共産党を含む野党共闘に批判的で、今年1月には早々に福山氏との決別を宣言。以前から距離を詰めていた維新の新人を推薦する結論を下した。(略)党支持率の低迷に悩む立民の泉健太代表(衆院京都3区)としても、お膝元・京都選挙区で敗れる事態になれば、自身の進退にも直結しかねない。

 

立憲民主党の選挙公約も分かりづらい。読売新聞(6月8日)は、「顔見えぬ立民の苦悩、泉氏 本音は中道志向」との見出しで、中道路線に向かってカジを切れない泉代表の右往左往ぶりを伝えている。

――「何をしたいか、どういう社会を作りたいのか分からない。このままでは参院選を戦えない」。5月17日、国会内で開かれた立憲民主党の常任幹事会で唯一の地方議員メンバーから、泉代表に対してこんな言葉が投げつけられた。

――「自立分散型の経済社会」「環境と成長は調和する定常社会」...。泉が5月20日に発表した社会像「ビジョン22」には、理念先行型の言葉が目立った。記者会見で披露されたイメージ動画では自然風景ばかりが流れ、執行部内からも「コメントのしようがない」とのため息が漏れた。

 

毎日新聞社説(6月10日)も、「『分配』のビジョンを明確に」と注文を付けている。結論的に言えば、「防衛や社会保障など国の重要政策で与党との違いはどこにあるのか。どのような社会を目指すのか。大きなビジョンが見えない」ということだ。理由は、公約に先立ち泉健太代表が主導してまとめた中長期目標は、「公平な税制と再配分で格差と貧困の少ない社会を目指す」と記していたが、公約には盛り込まれず、「分配」の言葉さえなくなったことだ。格差是正が大きな課題になっている中、「分配重視に転換するか、成長重視を続けるか」を明確にすべきだと指摘している。

 

要するに、このような立憲民主党の立ち位置や選挙公約の〝あいまいさ〟の原因は、全て泉代表による「批判型」から「政策提案型」への路線転換に行きつく。野党の本来の役割は、政権を監視するだけでなく、与党に代わる選択肢を示し、争点を明確にすることだ。それにもかかわらず、参院選の目前に控えながら立憲民主党が中途半端な印象から脱却できないことは、この路線転換が有権者の心に訴えるものがなかったことを示している。民主政治が機能するには「強い野党」の存在が欠かせないというが、その存在意義を失った野党は消えるしかない。悲しいことに、立憲民主党はいま、その道を着実に歩んでいる。(つづく)