大阪府知事選は〝自公維国保守大連立〟の先行モデルとなる、「岸田降ろし」が起こらない理由(1)、岸田内閣と野党共闘(その32)

 2023年の新年を迎えてからもう10日も過ぎてしまった。何か書かなければと思いながら何も書けなかったのは、拙ブログの主題である野党共闘の行方がますます不透明になってきているからだ。最近の共産党機関紙「しんぶん赤旗」には、ここ数年間あれほど喧伝してきた野党共闘の「や」の字も出てこない。とにもかくも統一地方選挙を控えての「130%の党づくり」一色なのである。一方、立憲民主党の方は、泉代表を先頭に維新の会との連携を日々深めている。幹部同士が会食して密談したり、テレビ番組ではお互いにエール交換するなど、その蜜月ぶりは際立っている。もはや共産党などには目もくれない――というところだろうか。

 

 そんな中で注目したのが、辰巳孝太郎氏(共産党元参院議員)が「明るい民主大阪府政をつくる会」の推薦で、無所属で大阪府知事選に立候補するという記事だった。赤旗(1月10日)の見出しは、「コロナ死者、東京の1.6倍でもカジノ突き進む維新政治を終わらせる」というもの。政策のトップには「大阪カジノではなく、命と暮らし、福祉・医療を最優先にする大阪をめざします」とある。共産は「カジノ」と「コロナ」を大阪府知事選の2大争点に据える戦略だ。この知事選は、これまでの「維新圧勝」の予測を覆すような面白い展開になるかもしれない。ひょっとすると、1月23日から始まる第211通常国会の「安保3文書」をめぐる与野党討論よりも国民の眼を引くようにならないとも限らないからである。

 

 大阪自民は、いまだ府知事選の候補擁立の目途が立っていない。というよりは、候補擁立を模索するふりをしながら「断念」する可能性が大きい。自民が通常国会で維新と立憲の連携を分断し、維新を「安保3文書」に同調させ、保守大連立を軌道に乗せるためには、大阪府知事選でこれ以上維新と対立することは得策でないからである。自民が国会運営と府知事選を天秤にかけ、最終的には「自主投票」という名の事実上の支援に回る公算が大きい。

 

大阪では公明党が「常勝軍団」と言われ、衆院4小選挙区で常に当選を果たしてきた。これは、自民と維新が4小選挙区に対立候補を立てなかったためであり、公明が「自力」で当選してきたわけではない。自民は自公与党体制を維持するため、維新は大阪都構想住民投票に公明を同調させるため、いずれも候補擁立を見送ってきたにすぎない。維新は、これまでも総選挙があるたびに候補擁立をちらつかせて公明を恫喝し、公明は議席確保のため悉く維新の要求を呑んできた。〝風見鳥政党〟といわれる公明が独自判断できるはずがなく、いずれは自民の指示に従って「自主投票」に回ることは100%間違いない。

 

立憲はどうか。大阪ではさしたる勢力をもたない立憲(「泡沫政党」とまで言われている)が、国会では維新と連携していることもあって、どのような形であれ、維新と対立することはまずない。そうなると、大阪府知事選では期せずして〝保守大連立〟が先行モデルとして成立することになり、今後の国政にも大きな影響を与えることになる。その意味で、大阪府知事選は国政選挙並み(あるいはそれ以上)の影響を政局に及ぼすことになり、国民注視の的になることは確実だろう。

 

いまや「野党共闘」が幻となった情勢の下で、表向きは「野党共闘」を掲げながらも共産が独自候補擁立に踏み切った意義はそれほど小さくない。世論が圧倒的に〝岸田内閣不支持〟に傾いているにもかかわらず、自民党内で「岸田降ろし」が始まらないのは、無定見でその場の言いなりになる岸田首相が現在の政局に最も「ふさわしい人材」だからだ。日本の軍事力を飛躍的に増大させ、アメリカの強力な同盟国に日本を変質させようとする勢力からすれば、岸田首相ほど「使いやすい人材」はいないからである。

 

日本の軍事大国化を意図し、そのために保守大連立を推進しようとする勢力にとっては、確固たる信念も政治思想もない岸田氏が首相の座に留まっていることは誠に都合がいい。その場限りの言動で政局をくぐりぬけ、なし崩し的に日本を変質させていく岸田首相は、国民には一見捉えどころのない人物のように見える。しかしこの「蜃気楼」ともいえる体質が、実は岸田首相の政治的延命を支える源泉となっている。誰の言いなりにもなる岸田首相の周辺には、(麻生副総裁や山口公明代表のように)政策を主導し、世論誘導を担う人物が配置され、政権運営を推進する分業体制が出来上がっているからである。

 

来たる大阪府知事選では、事実上の保守大連立陣営候補である吉村現知事と辰巳孝太郎氏が対決することになる。政党別支持票では圧倒的少数派の辰巳候補がどれだけ善戦するか、実はここに今後の政局を左右する重大なカギがある。もし辰巳候補がそれ相応の得票をすれば、保守大連立候補に加担した政党の中に動揺と亀裂が生じる。とりわけ立憲民主党内の護憲派への影響が大きく、泉代表が主導する維新との連携路線は修正を迫られるか、破綻するほかなくなる。大阪府知事選の動向は、来年の京都市長選にも無関係ではない。京都市民は、大阪府民にも増して大阪府知事選を注目している。(つづく)