「130%の党づくり」は〝目標〟なのか、それとも〝ノルマ〟なのか、共産党党首公選問題を考える(その6)、岸田内閣と野党共闘(41)

 党員10万人増、赤旗読者30万人増(いずれも死亡者数、離党者数を除く純増分)を目標とする「130%の党づくり」が提起されたのは、第28回党大会(2020年1月)のことであり、党創立100周年(2022年7月)までが期限だった。しかし、創立100周年直後に開かれた第6回中央委員会総会(2022年8月)の報告では、第28回党大会以降の党勢拡大は2年6カ月で逆に党員1万4000人余の減少となり、赤旗読者も6万2000人減という無残な結果に終わった。

 

 いかなる場合であれ目標や計画を期限までに達成できなかったときは、課題の設定自体が間違っていたか、あるいは無理があったと考えるのが普通だ。まして、党勢が現状維持もままならず減少に転じたとすれば、当初から目標や計画に大きな誤りがあったと思われても仕方がない。「目標」や「計画」は単なる政治スローガンではなく、大会決議に基づいて打ち出されている具体的な方針だから、党員や支持者は何らかの根拠や見通しがあってのことだと思うだろう。それが無残にも破綻したのだから、党指導部の受けた打撃は小さくないだろう。

 

  もともと〝目標〟とは個人が自発的に定めるもので、他者から強制されるものではない。しかし、社会進歩と変革のための政治結社である革新政党の場合は、綱領によって目標が設定され、規約によって行動の規律が定められている。そして、党活動の一環として(あるいは最大の重点として)党勢拡大運動が推進される仕組みになっている。とりわけ党勢拡大が困難な共産党の場合は、党員個人の自発的意思に基づく党勢拡大には限界があるということで、党大会決議として拡大目標が設定され、それを実現するための年次計画が策定され、地方組織を通して各支部に指導が行きわたる方式が徹底している。これが「ボトムアップ」方式ではなく、「トップダウン」方式で党勢拡大運動が展開される政治的背景である。

 

 しかし党勢拡大がままならないとして、党中央の指導・点検が一律的に強化されるようになると、ソ連共産党時代の〝ノルマ〟と変わらない様相を呈するようになる。ちなみにロシア語の〝ノルマ〟とは、個人や団体に対して国家や組織が強制的に割り当てる労働の目標量のことである(社会科学辞典)。戦時社会主義体制の下では「ノルマ達成」は至上命令であり、これに背くときは強制労働や収容所送りなど国家的制裁に付された。時代は大きく変わってこんなことは昔話になったが、それと同じようなことが形を変えていま起っていないだろうか。

 

 共産党は〝科学的社会主義の政党〟だとされている。目標や計画は一定の根拠と見通しがあって初めて説得力を持つのであり、いい加減な目標を並べたその場限りの数字なら誰も見向きもしない。ところが、第28回党大会では党勢から著しく乖離した過大な目標が設定され、それが3年も経たないうちに破綻した。この時点で抜本的な立て直しが図られて然るべきだったが、実際には目標はまったく変更されず、期限を第29回党大会(2024年1月)までに延長し、全党挙げて目標を達成することが改めて提起された。2022年8月から12月の5ケ月間を「党創立100周年記念、統一地方選挙勝利、党勢拡大特別期間」に設定し、新入党者5000人以上、赤旗読者を大会現勢回復・突破(6万2000人以上)をめざすことが決定されたのである。

 

 社会の常識からすれば、2年6カ月かかって達成できなかった目標を(減少分も含めて)今後1年間で達成しようとすることなど到底無理だと誰もが思うだろう。現に党財務・業務責任者は、「2021年総選挙後の10月、11月に大幅な後退をした結果、日刊紙の減紙によって赤字がさらに増え、安定的な発行を続けることが困難に陥る寸前の状況になっています」(赤旗2021年12月)と悲痛な声を上げているし、その後にこのような状況が好転したという報告はどこを探しても見つからない。

 

 果たせるかな、2022年8月から5カ月間の新入党者は2064人(目標5000人の40%)にとどまり、赤旗読者数は90万人からさらに3万8000人も減少した。この事態を打開するため、第7回中央委員会総会(2023年1月)は、党中央からの「手紙」に対して各支部の「返事」を求める方針を決定し、2023年3月現在6千通の「返事」が届いているという。3月16日の赤旗は、山下副委員長と埼玉県・静岡県委員長との間で行われた「オンライン座談会」の趣旨を次のように伝えている。

 ――3月の幹部会の「訴え」は、3月、4月を強く大きな党をつくりながら選挙諸課題をやりぬいて統一地方選挙を必ず勝ち抜き、さらに「130%の党」へ前進していく――新しい歴史的挑戦をやりとげられるかどうかの〝勝負の2カ月〟だと訴え、その確かな土台をつくりだしつつあるのが、第7回中央委員会総会の「手紙」「返事」のとりくみであることを明らかにしました。

 

 ここでは、今年3月、4月は〝勝負の月〟だとされているが、それに見合う成果が上がっているかというと、実態は必ずしもそうなっていない。3月半ばまでに寄せられた6千通の「返事」は1万7000支部の3分の1強(35.2%)で、残りの3分の2からはまだ届いていない。だが、問題はその内容である。通常、この種の拡大目標が提起されたときの赤旗紙面は、先進事例が列挙されて拡大ムードを盛り上げることが恒例となっているが、今回の場合はそんな事例が見つからない。共通しているのは、支部の困難な実情を訴えながらも、必死の思いで事態を打開しなければならないとの悲痛な決意が表明されていることである。

 ――私たちの支部は70代、80代、90代の人たちが中心で活動している。もう免許証も返納して運転できる人は1人だけなった。会議にも集会にも参加することもその人の運転に頼っている。一番の困難は「赤旗」の配達だ。しかしこれはなんとしても支えなければならない。動ける党員が1人減り、2人減り、そういう中で1人の人が週3回4回と配達して党を支えている。それでも足りないので党外の人の力を借りている(埼玉県支部、赤旗3月16日)。

 ――困難があるからと党づくりをあきらめてしまえば、どうなるでしょうか。党の未来はなくなります。困難に直面している支部も、存在すること自体が市民・国民にとってかけがえのない役割を果たしており、その灯を消してはなりません(同上)。

 ――3回「手紙」を討議して「返事」を書きました。当初、「130%の党づくり」の提起に「とても無理だ」「できるわけがない」など衝撃を受けた意見が相次ぎました。しかし、それでは支部にとっても「未来がなくなる」との冷静な議論になり、ダメな理由ばかりあげるのではなく、とりあえず1人でも党員を迎えられるように取り組んでいこうとなりました(略)。党員拡大は極めて困難だが、少なくとも今年中には1名以上迎え突破口開きたい。日刊紙読者は年2人、日曜版読者数は年4人(北陸・義務制教職員支部、赤旗3月17日)。

 ――2022年度わが支部は病気で1人の党員と2人の読者を失いました。支部解散の危機に直面しましたが、事業を維持・発展させることで、1人の転籍者を迎えて解散の危機を乗り切りました。こうした思いを二度としないために、2023年度もう1人の党員を迎えます(東京・出版職場支部、同上)。

 

 ここには、党勢拡大は条件があるからするものではなく、困難があっても進めるべきものだとの(革命的)気概が表明されている。かっての成功体験がそうさせているのであろうが、この気持ちを前提にして拡大目標を設定すると大きな間違いを犯すことになる。戦時社会主義体制下においては過大な目標が「ノルマ」として課され、それが強制力を以て執行されたが、今は状況がまったく異なる。目標の達成はあくまでも個人の自発的意思に基づくものであり、集団的強制力によって推進されるものではない。この当たり前のことを認識できない「目標」と「計画」はことごとく破綻するだろう。

 

 改めて言うが、2024年1月の第29回党大会までに当初の目標を達成するためには、党員26万人を37万人に、赤旗読者90万人を130万人にしなければならない。この数字は、その後の死亡者数と離党者数の目減り分を勘案するとさらに大きくなる。この目標を1万7000支部に割り振ると、この1年間で1支部平均6.5人の新入党者、23.5人の赤旗読者を増やさなければならない。だが、党員3人で成立する支部の数もこれからは死亡者の増加で急速に減っていくことを考えれば、1支部当たりの割り当てはもっと大きくなるはずである。これが不可能であることはもはや明々白々なのに「130%の党づくり」は依然として掲げられ、撤回される気配がない。志位委員長をはじめ党指導部はいったいこの事態をどう見ているのだろうか。あれだけ大号令をかけてきた「目標」と「計画」が、まるで蜃気楼のように消えていく有様を黙って見ているつもりなのであろうか。(つづく)

※前回の拙ブログで2022年8月から12月までの赤旗読者減少数を6万2000人と算出しましたが、これは3万8000人減の誤りでした。お詫びして訂正いたします(広原拝)。