〝党勢後退〟についての本格的な分析と総活がない決議案では事態を打開できない、第29回党大会決議案を読んで、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その8)、岸田内閣と野党共闘(73)

日本共産党第10回中央委員会総会(10中総)が終わった。第29回党大会(2024年1月)に提案される大会決議案が全員一致で採択されたというが(赤旗11月15日)、ざっと読んでみても疑問に感じる点が多い。最大の問題点は、これまでもしばしば言及してきたように〝党勢後退〟についてのしっかりとした分析と総活がないことである。「第28回党大会・第二決議(党建設)にもとづく党づくりの到達点」および「党の歴史的発展段階と党建設の意義」における内容をみよう(抜粋)。

――党勢拡大の現時点の到達点は、この4年間の党建設の努力を通じて、これまで1万4千人を超える新たな党員を迎えてきたが、わが党は党員現勢での長期の後退から前進に転じることができていない。「赤旗」読者拡大でも、現時点では、長期にわたる後退傾向を抜本的な前進に転じることには成功しないしていない。

――党は、1980年代以降、長期にわたる党勢の後退から前進に転じることに成功していない。ここにあらゆる力を結集して打開すべき最大の弱点がある。最大の要因は、わが党を政界から排除する「日本共産党をのぞく」の壁が造られたこと、わけても90年を前後しての旧ソ連・東欧の旧体制の崩壊という世界的激動と、これを利用した熾烈な反共攻撃の影響があった。大局的・客観的に見るならば、日本はいま新しい政治を生み出す〝夜明け前〟ともいえる歴史的時期を迎えている。同時に、どんな客観的条件が成熟しても、社会を変える主体的条件をつくらなければ、社会は自動的に変わらない。〝夜明け〟をひらく最大の力となり、保障となるのが、つよく大きな日本共産党の建設である。1万7千の支部、26万人の党員、90万人の「しんぶん赤旗」読者、2300人を超える地方議員を擁し、他党の追随を許さない草の根の力に支えられ、今日の時代にふさわしい民主集中制の組織原則で結ばれた党組織をもっている。

 

ここでの記述の特徴は、(1)党があらゆる力を結集して打開すべき「最大の弱点」である〝長期にわたる党勢後退〟の正確な実態が明らかにされていない、(2)党勢後退の要因の全てが外部要因である〝反共攻撃〟に帰せられ、党組織や党運営などの内部要因には一切触れられていない、というものである。だが、その実態は看過できるようなものではなく、80年代半ばの党現勢「党員50万人弱、赤旗読者350万人」は、志位委員長が就任した2000年には「党員38万6千人、赤旗読者199万人余」に激減し、さらに第28回党大会(2020年)には「党員27万人、赤旗読者100万人」にまで後退し、さらにその後も後退し続けているのである。

 

第28回党大会から現在までの4年間に1万4千人の入党があったというが、2023年11月の現勢は「党員26万人、赤旗読者90万人」、党大会からは党員1万人減(死亡者+離党者は2万4千人)、赤旗読者10万人減となっている。要するに80年代半ばから現在までの40年間で党員は「2分の1」近くになり、赤旗読者は「4分の1」そこそこにまで落ち込んでいる。とくに最近の4年間は、入党者の倍近い数の党員が亡くなるか、離れるかといった事態が継続しているのである。

 

第28回党大会で決議された党勢拡大目標は、「130%の党づくり=党員35万人、赤旗読者130万人」というものだった。だが、この拡大目標が破綻していることはいまや(以前から)誰の目にも明らかだ。今年になってようやく「第28回党大会現勢の回復・突破」にまで目標が下げられたが、それすらも47都道府県委員会のうち1県しか達成していない(それも党員のみ、赤旗11月14日)。第29回党大会まであと僅か2か月となった現在、「大会現勢の回復・突破」などは期待すべくもない「夢のまた夢」なのである。

 

にもかかわらず、なぜ〝長期にわたる党勢後退〟についての本格的な分析と総活が行われないのか。その回答は、「第3章 党建設――到達と今後の方針」の冒頭、「多数者革命と日本共産党の役割、②民主集中制の組織原則を堅持し、発展させる」の中にある(抜粋)。要するに「民主集中制」を不磨の原則として堅持し、それを前提にして党勢拡大方針を立てようとするので、党勢後退の大きな原因になっている「民主集中制」の問題点を分析することができないのである。

――日本共産党が、国民の多数者を革命の事業に結集するという役割を果たすためには、民主集中制という組織原則を堅持し、発展させることが不可欠である。多数者革命を推進する革命政党にとっては、民主集中制は死活的に重要な原則である。行動の統一ができないバラバラな党で、どうして支配勢力による妨害や抵抗を打ち破って、国民の多数者を結集する事業ができるだろうか。わが党を「異論を許さない党」「閉鎖的」などと事実をゆがめて描き、民主集中制の放棄、あるいはこの原則を弱めることを求める議論がある。

――党の外から党を攻撃する行為は規約違反になるが、党内で規約にのっとって自由に意見をのべる権利はすべての党員に保障されている。異論をもっていることを理由に組織的に排除することは、規約で厳しく禁止されている。党のすべての指導機関は、自由で民主的な選挙を通じて選出されている。これらの党規約が定めた民主的ルールは、日々の党運営において厳格に実行されている。わが党が民主集中制を放棄することを喜ぶのはいったい誰か。わが党を封じ込め、つぶそうとしている支配勢力にほかならない。わが党は、党を解体に導くようなこのような議論をきっぱりと拒否する。

 

ここには、日本の多数者革命を果たす役割は共産党しかないという「前衛党」意識が濃厚に出ている。また、多数者革命を推進する革命政党にとって「民主集中制」は死活的に重要な組織原則だとする認識も示されている。第22回党大会(2000年)においては、激減する党勢を目前にして党規約が改訂され、党と国民との関係あるいは党とその他の団体との関係を「指導するもの」と「指導されるもの」との関係だと誤解される「前衛党」という名称が削除された。同時に、共産党の体質を象徴する「党の決定は無条件に実行しなければならない。個人は組織に、少数は多数に、下級は上級に、全国の党組織は党大会と中央委員会にしたがわなければならない」とする上意下達条項も削除された。それが、その時よりも遥かに深刻な党勢後退に直面している今日、「居直り」ともいうべき口調で堂々と復活しているのだから驚くほかない。

 

市民社会における「多数者革命」は多様な姿をとることが予想される。多様な政治集団の中からその時々の政治情勢に応じた統一戦線が結成され、それが政権交代につながることは何ら不思議なことではない。共産党(だけ)がそのカギを握っているとか、共産党が国民を導かなければ「多数者革命」を成功させることができないとか考えるのは、思い上がりも甚だしいと言わなければならない。おそらくこの大会決議案は2か月後に「全会一致」で採択されるだろうが、その先に待っているのは「国民の党」から遠く離れた共産党の姿への世論の厳しい批判であり、次の総選挙での厳しい結果であろう。

 

朝日新聞(11月15日)は10中総に関する記事を掲載したが、末尾で次のような観測記事を書いている。

――今回の10中総では、決議案の説明を志位氏ではなく田村氏が担ったことに、出席者から「普通なら議案は委員長が説明する」と驚きの声が上がった。委員長就任後初めて、志位氏が綱領改正案や決議案の報告に一切立たなかったこともあり、党内では「田村氏への委員長禅譲があるのではないか」(別の関係者)との憶測も出ている。

 

決議案では「居直り」ともいうべき口調で「民主集中制」を擁護した志位委員長も、さすがにこのまま委員長ポストに居座ることはできないと考えたのか、それが決議案説明と結語を田村氏に譲ることになったのであろう。志位氏の行く先が「議長席」への横滑りとなるか、それとも潔く身を引くかは予測できないが、大方の予測は議長就任によって「志位院政」を敷くというものである。そうなると、田村氏は自ら説明し結語を述べた決議案に縛られることになり、「志位院政」と運命をともにすることにもなりかねない。連合会長に神津氏の後釜として初めての女性会長が登場したが、その後の行動は前任者を上回る強硬路線となって世の中を驚かせている。共産党初の女性委員長となるかもしれない田村氏が、志位委員長を上回る強硬路線にならないことを祈るばかりである。(つづく)