「裏金政党」自民と手を組む立憲民主(京都)に明日はない、2024年京都市長選から感じたこと(1)

事前に「横一線」と伝えられていた2024年京都市長選は、松井孝治候補(自民・立憲民主・公明・国民民主推薦)が福山和夫候補(市民派・共産支援)に1万6千票の僅差で競り勝った。自民党派閥の裏金疑惑が渦巻く中での市長選だったが、長年続いてきた「非共産対共産」の政治構図の下で、「非共産=オール与党体制」候補が辛くも勝利を手にしたのである。当選確実が決まった2月4日深夜、松井氏は周囲が万歳三唱するなかで頭を下げ続け、「厳しい選挙だった」と繰り返していた。

 

私は地元テレビ・KBS京都の実況中継を見ていたが、会場となったホテルの壇上には西脇知事、門川市長、伊吹元衆院議長、西田自民党府連会長などがズラリと居並び、末席には福山哲郎立憲民主府連会長の姿もあった。彼は出番もなくただ座っているだけだったが、所在無さげにスマホをいじっていた姿はなぜか哀れだった。「裏金政党」自民と臆面もなく手を組み、連合京都とともに「国政と地方政治は別」「府市協調がなによりも大切」「共産に市長を渡すわけにはいかない」などとぶって回っていた福山立憲府連会長は、選挙期間中からも立憲支持者から厳しい批判を浴びせられていたからである。

 

朝日新聞が投票当日に実施した出口調査によると、立憲支持層の47%が松井候補に投票しただけで、35%は福山候補に流れている。連合京都とともに京都府連が総力を挙げて応援したにもかかわらず、立憲支持層の多くは松井候補に投票せず「NO!」を突きつけたのである。また、無党派層の35%が福山候補に投票しているのに対して、松井候補は27%に止まっている。立憲支持層の過半数が「裏金政党」自民と手を組む立憲に反旗を翻し、無党派層も含めてその多くが市民派候補の福山和夫氏の支援に回ったのは明らかだろう。

 

朝日記事は、この結果を「自民支持層は前回市長選の出口調査結果よりも細っており、その分を前回よりも厚みを増した維新支持層のからの30%や、前回と同程度の厚みの立憲支持層の47%の指示で埋め合わせ、接戦を制したとみられる」と分析している(朝日新聞2月5日)。事実、松井候補に投票したのは自民支持層の63%にすぎず、14%は福山候補に流れている。「裏金政党」自民への批判が自民支持層の中にも渦巻いていることを示したのが、今回の京都市長選の特徴だと言っていいだろう。

 

2024年京都市長選挙は、当初は維新の会と前原新党が仕掛けた「3極選挙」になるはずだった。両党が結託して地域政党・京都党の村山候補を担ぎ出し、長年続いてきた「非共産対共産」の政治構図に代わる新しい潮流をつくる算段だった。維新の会は、前原新党と組んで京都市長選の勝利で弾みをつけ、次期総選挙で一気に「野党第1党」に伸し上がろうと目論んでいたのである。ところが「政治は一寸先が闇」というが、告示日が目前に迫った1月12日、維新の会が村山候補の推薦を突如取り消し、前原新党も推薦を撤回した。村山氏の政治資金管理団体が8回もの「パーティー」を開いて会費を集めながら、実際のパーティーには来場者がなく、会場代を除いた収入の大部分が資金管理団体の収益になるという「架空パーティー疑惑」が発覚したからである。

 

それでも村山氏は、「市民の選択肢を狭めたくない」との口実で立候補を断念しなかった。「オール与党体制」を維持するため「身を切る改革」を断行しようとしない自民への不満を維新がすくいあげ、「3極選挙」を展開しようと考えていたのである。だが、村山候補は「裏金疑惑」が致命傷となり、前回市長選での得票に遠く及ばなかった。毎日新聞は、「2008年と20年に続いて挑んだ市長選。この間、地域政党・京都党を創設し、市議として実績も重ねた。だが、自らの政治資金パーティーを巡る疑惑が浮上し、告示直前に異例の推薦取り消しに。『政治とカネ』の疑惑が致命傷となった」と評している(2月5日)。

 

それからもう一つ、2月4日の投票日が直前に迫った1月31日、第2の「政治の闇」が明るみに出た。自民党派閥の政治資金パーティー問題が国政上の大問題になり、安倍派が政治資金収支報告書の訂正を迫られて6億円を超える巨額の「裏金」が明るみに出たのを機に、安倍派に属する自民党府連会長の西田昌司参院議員が1月31日、安倍派から過去に411万円の還流を受けていたことが発覚したのである。西田氏は、自民単独では京都市長選に勝利できないことを自覚していたのか、伊吹元衆院議長とともに立憲民主や国民民主を巻き込んで松井氏を「オール与党体制」候補に祭り上げた張本人であり、選挙戦の「司令塔」だった。それだけにその影響は大きく、松井陣営はかってない危機感に見舞われた。

 

一方、福山和夫候補はよく頑張った。共産陣営が党組織の高齢化と除名問題の影響で後退一途にあったことから、「市民派」としての旗色を鮮明に打ち出し、政党支持にはこだわらない選挙戦を展開した。親しみのある穏やかな風貌と人柄が人気を呼び、保守層の中にも支持が広がって、自民支持層の中からも1割を超える投票が福山候補に寄せられた。またNHKの出口調査では、福山候補が松井候補をリードしていると伝えられたことも期待を大きくした。最後は松井候補に勝利を許したが、これまでの政党中心の選挙戦術を大きく変える成果を挙げたと言える。

 

 立憲民主党は京都市長選当日の2月4日、東京都内で党大会を開き、次期衆院選で「自民党を超える第1党となる」と掲げた2024年度活動計画を決めた。泉代表は「自民党を政権から外し、新たな政権を発足させ、政治改革、子ども若者支援、教育無償化などを実現しよう」と声を張り上げたという(朝日2月5日)。だが、立憲民主党が自民と一体で市長選を展開している京都では、泉代表と長年行動をともにしてきた福山府連会長が「反自民」の「は」も言わず、自民党と同じ壇上で万歳をしているのである。こんな「鵺(ぬえ)」のような得体のしれない政党は類を見ないのではないか。

 

 2月5日の日本経済新聞オピニオン欄「核心」に、芹川論説フェローが「自民党の明日はない、平成改革世代なぜ立たぬ」と題する主張を書いている。「政治とカネ」にまつわるスキャンダルが自民党内に吹き荒れているというのに、若手世代がなぜ改革に立ち上がらないのかとの叱咤激励である。骨子は「政党のダイナミズムを感じさせる侃々諤々(かんかんがくがく)の保守政党はどこへ行ったのだろうか。それが失われているとすれば自民党に明日はない」というものだ。だが、自民と立憲が馴れ合う京都では、「自民も立憲も明日はない」という言葉が当てはまる。次期衆院選では、泉代表(京都3区)は激しい選挙戦に曝されるだろうし、次期参院選では同じく福山府連会長も当落のかかった選挙戦に直面するだろう。「裏金政党」自民と手を組む京都の立憲民主党に「明日はない」のである。(つづく)