〝政治とカネ〟問題が2024年京都市長選挙を直撃している、京都の「オール与党体制」が崩壊する可能性が出てきた、京都政界にみる政治構図の変化(1)

2月4日投開票の2024年京都市長選挙は、当初、維新の会と前原新党が仕掛けた「3極選挙」になるはずだった。両党が結託して地域政党・京都党の村山候補を担ぎ出し、長年続いてきた「非共産対共産」の政治構図に代わる新しい潮流をつくる算段だったのである。維新の会は前原氏と組んで京都市長選の勝利で弾みをつけ、次期総選挙で一気に「野党第1党」に伸し上がろうと目論んでいた。このため、前原氏は京都市議会(67議席)で第1会派の自民党(19議席)に次ぐ第2会派の維新・国民民主・地域政党「京都党」の3党による合同会派(18議席)を立ち上げ、京都市長選の候補者擁立に向けて着々と準備を進めてきた。

 

ところが「政治は一寸先が闇」というが、1月21日の告示が目前に迫った12日、維新の会が村山候補の推薦を突如取り消す方針を決め、続いて前原新党も推薦を撤回した。村山氏の政治資金管理団体が8回もの「パーティー」を開いて会費を集めながら、実際のパーティーには来場者がなく、会場代を除いた収入の大部分が資金管理団体の収益になるという「架空パーティー疑惑」が発覚したからである。毎日新聞(1月13日)は「3極構図一変、村山氏推薦取り消し 出馬意向変えず」との見出しで第1報を伝え、「村山氏を維新などが推薦する枠組みの立役者だった前原氏は『パーティーの実態がなければ脱法的と言われても仕方なく、看過できないと判断した。支援者におわびしたい』と述べた」ことを伝えている。

 

翌13日に開かれた記者会見では、維新の会馬場代表と前原氏が釈明に追われて無様(ぶざま)な姿をさらす結果になり、維新の会は京都市長選から心ならずも「退場」せざるを得なくなった。だが、それ以上に市民の怒りを買ったのは、別の会場で記者会見を開いた村山氏が、「皆さまに迷惑をかけた。深くおわびしたい」と言いながら、恥知らずにも出馬を撤回しなかったことだ(朝日新聞1月14日)。こんな候補者の言動を見て、この瞬間から〝政治とカネ〟問題が一気に京都市長選の最大テーマに浮上したのである。

 

醜態をさらした前原氏はその後、京都新聞のインタビューで「京都市長選では政治資金問題を理由に村山祥栄氏の推薦を取り消した(のは)」との質問に対して、「思い切った行財政改革や教育無償化を京都からやってもらえると期待していたが、政治とカネの問題で脱法的行為と言われても仕方がない。とにかく残念の一言に尽きる。支援をお願いしていた方々や、『共産対オール与党』ではない、新たな選挙構図を望んでおられた有権者の方々には、心からおわび申し上げたい」「陣営の世論調査でも(村山氏は)他候補をリードし、トップだった。非自民非共産の枠組みとしてピタッとはまっていたのが村山さんだった。一生懸命やっていただいた方々は茫然自失としており、後援会のみなさんや企業におわび行脚している」と語っている(「2024決戦、京の各党に聞く」京都新聞1月18日)。

 

「オール与党体制」(自民、立憲民主、公明、国民民主推薦)の候補は、元参議院議員で元内閣官房副長官の松井幸治氏だ。国会では激しく対立している(はずの)自民と立憲民主が、京都ではまるで何事もなかったかのように公然と手を組むのは誰が見てもおかしいと思うが、福山哲郎立憲府連会長は「中央官僚としての経験があり、府知事とも連携できる松井さんの人柄と能力を誠意を持って市民に伝え、松井フアンを増やす。共産党や日本維新の会に市政を渡すわけにはいかない。いたずらに市民生活に混乱をきたすことは望まない。オール京都・府市協調で20年、30年先の未来に対する責任を持つ選挙になる」とまったく意に介さない。また「自民の裏金疑惑は市長選に影響するか」との質問に対しては、「市政は市民の生活を守るもので、国政の在り方がダイレクトに影響するものではない。市長選と裏金疑惑はつながっておらず、最も大切なのは府市協調だ。争点ずらし以外の何物でもない」と平然と居直っている(「2024決戦、京都の各党に聞く」京都新聞1月6日)。国政と直結しているはずの地方政治を「国政とは別」との詭弁で切り離し、あくまでも「オール与党体制」にしがみ付こうとする立憲の態度はこの上もなく見苦しい。

 

松井氏も京都新聞が主催した候補者討論会で、福山和人氏からの各候補者に対する質問である「政治とカネの問題だ。(自民党派閥の政治資金パーティーの)裏金疑惑が浮上している。パーティー券収入を得る政党から推薦を得たり、かって所属された人もいる。有権者に説明すべきではないか」に対して、「政治不信が募っていることに対して、自治体の首長(候補)がどうこう言う話ではない。国政で政治資金の在り方をどうするか真剣に考えていただきたい」と立憲と同様の態度を示している(「立候補予定者4人 本社討論会詳報④」京都新聞2023年12月22日)。「オール与党体制」候補の松井氏にとっては、政治資金疑惑問題は陣営に亀裂をもたらす導火線である以上、この問題にはあくまでも触れたくないというのが本音なのである。

 

ところが投開票日2月4日が直前に迫った1月31日、第2の「政治の闇」が明るみに出た。自民党派閥の政治資金パーティー問題が国政上の大問題になり、安倍派が政治資金収支報告書の訂正を迫られて6億円を超える巨額の「裏金」が明るみに出たのを機に、安倍派に属する自民党府連会長の西田昌司参院議員が1月31日、安倍派から過去に411万円の還流を受けていたことを明らかにしたのである。西田氏はユーチューブでコメントを読み上げ、「秘書の独自の判断だが、監督不行き届きであったことを痛感している」「深い政治不信を抱かせる問題が発生したことを心からおわびする」と述べた(朝日新聞2月1日)。このニュースは同日、NHKテレビでも繰り返し流されてあっという間に京都中に拡散した。

 

西田氏はかって、京都新聞のインタビューで「自民党派閥の政治資金パーティー券問題に批判が集まっている」との質問に答えて、「ご心配と政治不信を招いたことに自民党、清和政策研究会のメンバーとしてお詫びしなければならない。ただ、ただ私自身はこの問題について派閥から全く説明を聞かされておらず、関わってもいない。(派閥が)裏金を作る目的でやっとしか思えない処理をしているのは非常に腹立たしい。責任者は責任を取り、徹底的に膿を出してもらわなければならない」と語っていた(「2024決戦、京都の各党に聞く」京都新聞1月5日)。それが舌の根が乾かないうちに「真っ赤なウソ」であることが明らかになったのだから、「オール与党体制」の選挙陣営にとっては深刻な打撃になったことは間違いない。西田氏は、伊吹元衆院議長とともに松井氏を「オール与党体制」候補に祭り上げた張本人であるだけに、その影響は計り知れない。福山哲郎立憲府連会長もこのまま事態を「頬被り」のままで済ますことはできないだろう。

 

すでに告示日以前から、村山氏の「架空パーティー疑惑」を契機に〝政治とカネ〟問題は、京都市長選の一大テーマに浮上していた。京都新聞世論調査では「パーティー券問題が市長選に『影響する』67%、『影響しない』33%」とその影響の大きさを示唆していたし(京都新聞1月13日)、毎日新聞は京都市長選を「自民の政治資金パーティーを巡る裏金事件発覚後の大型選挙」と位置づけ、「『政治とカネ』影響必至」と報じていた(1月20日)。そこに来て、今度は京都市長選の「司令塔」、西田自民党府連会長の裏金疑惑の発覚である。投開票日直前のことだけに、松井陣営にとってはもはや「打つ手」がなく、運を天に任せるほかなくなったのである。

 

加えて、門川市長の後継候補として目される松井氏にとって、予想しない世論調査結果が出た。1月27,28両日に行われた朝日新聞世論調査では、門川市政への評価が「評価しない」(「まったく」と「あまり」を合わせて)51%、「評価する」(「大いに」と「ある程度」を合わせて)47%を上回ったのである(朝日新聞1月30日)。そう言えば、松井氏の広告ポスターは、門川市長ではなく西脇知事とのツーショット写真だった。知事選ではなく市長選なのにどうしてと思っていたが、門川市長に人気がないことが事前にわかっていたのだろう。これが「オール与党体制」候補の弱点になるとすれば、今度の京都市長選は意外な結果をもたらすかもしれない。なんだか「オール与党体制」の崩壊が迫ってきているような気がする。(つづく)