「前原新党」は政界再編の波に乗れるか藻屑と消えるか、2024年京都市長選挙にみる政治構造の変化(下)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その12)、岸田内閣と野党共闘(77)

 岸田首相の「安倍派一掃人事」から1週間余り、各紙の紙面には岸田政権への「ダメ出し」が目立つ。手元にある新聞スクラップ(12月分)の見出しを拾ってみても、容赦ない言葉が並ぶ。

 〇「首相火だるま、見限る自民」(朝日新聞、14日)

    〇「裏金疑惑と岸田首相、これでは国政任せられぬ」(毎日社説、同)

 〇「安倍派の4閣僚交代、小手先では不信拭えない」(毎日社説、15日)

 〇「岸田政権と政治の危機、進退かけ信頼回復を果たせ」(朝日社説、同)

 〇「岸田首相『3年目の蹉跌』」(日経新聞、18日)

 〇「『危険水域』首相焦り、裏金疑惑直撃 打開策なく」(京都新聞、同)

 〇「裏金不信 首相へ 自民へ、支持下落底なし 焦る議員」(朝日新聞、19日)

 〇「裏金解明へ本丸捜索、検察『派閥システムを摘発する』」(朝日新聞、20日)

 〇「派閥事務所を捜索、『裏金システム』の解明を」(毎日社説、20日)などなど。

 

 それもそのはず、各紙調査はいずれも記録的な「内閣支持率の下落」と「不支持率の上昇」を叩き出している。東京地検特捜部の捜索が始まる前の段階でこれだけ世論が沸騰するのは、安倍元首相による政治私物化(森友学園・加計学園問題、桜を見る会など)に対する国民の怒りが溜まりに溜まっているからだ。それが今回の政治資金の裏金疑惑と重なって爆発し、もはや「手の付けられない」状態になっているのである。先日も京都の口さがない連中が集まって放談会を開いたが、この騒動は「火元が焼け尽きるまで収まらないだろう」というのが皆の一致した意見だった。

 

 「火元が焼け尽きる」とはどういうことか。「政治とカネ」に絡まる裏金疑惑が安倍派はもとより自民党そのものの金権体質に根ざしている以上、そこへのメスが入らない限り事態は収まらないということだ。自民党自身による自浄作用が期待できないもとでは、〝政治資金透明化〟を争点とする総選挙によって政権交代を実現し、新政権の下で新しいシステムを構築する以外に方法がない。野党各党はこの1点で団結して自公政権を打倒する方策を見つけ出さなければならないし、そうしなければ国民の政治不信が頂点に達し、トランプのようなポピュリスト政治家が出てこないとも限らない。

 

 前回の拙ブログでも言及したように、今回の世論調査の顕著な特徴は、内閣支持率と自民支持率がリンクして共に急落していることだ。各社の調査結果は実施時期によって若干の違いはあるが、1カ月前と比べて(読売新聞を除き)自民支持率が大きく低下している点ではいずれも共通している。その結果、自民支持率は時事通信と毎日新聞では1割台、日経新聞(3割)を除く各社では全て2割台に落ち込んでいる。このまま自民党が手をこまねいていると、来年1月時点ではさらなる低下を免れず、軒並み1割台に転落する可能性も否定できない。以下は、各社の12月調査の結果である(カッコ内は11月調査との差)。

 〇NHK(8~10日)29.5%(-8.2)〇産経新聞(9~10日)27.3%(-1.7)

 〇時事通信(8~11日)18.3%(-0.8)〇日経新聞(15~16日)30%(-4)

 〇読売新聞(15~17日)28%(±0)〇毎日新聞(16~17日)17%(-7)

 〇共同通信(16~17日)26.0%(-8.1)〇朝日新聞(16~17日)23%(-4)

 

 問題は野党支持率の低迷だ。「野党」と言えるかどうかは別にして、維新は万博費用の果てしない膨張で国民の顰蹙(ひんしゅく)を買い、かってのような勢いがなくなってきている(維新王国の大阪でもその声が次第に大きくなりつつある)。立憲民主は野党第1党でありながら、泉代表の行き当たりばったりの迷走でいっこうに人気が出ない。これをカバーするには明確な争点を掲げた「野党共闘」しかないが、政治資金透明化を軸とする〝選挙管理内閣〟でも立ち上げない限り、この難関を突破する道は見えてこないだろう。

 

 野党共闘不発の震源地は〝京都〟にある。前原氏が掲げる「非自民・非共産」の旗印は、京都では「(非)非自民・非共産」だと受け取られている。立憲民主党代表の泉健太氏、元立憲民主党幹事長の福山哲郎氏、前国民民主党代表代行の前原誠司氏はいずれも名だたる「非共産」の闘士であり、国政では名ばかりの野党共闘は否定しないが、京都では共産と絶対に手を組もうとしない。京都府政・京都市政の与党でいることが彼らの至上命題である以上、自民・公明と手を組む「非共産・オール与党体制」は必要不可欠の条件であり、そのためには如何なる妥協も厭わないことが行動原理になっているからである。

 

 そんな政治風土の中で育ってきた前原氏が、なぜいま「前原新党」を立ち上げるのか。前原氏の政治プライドはきわめて高く、「トップでいなければ我慢できない人物」と言われている。かって民進党代表に選ばれたときは、神津連合会長の采配で小池東京都知事と結託して「希望の党」を立ち上げ、自公政権に代わる「第2保守党」の樹立を目指した。それが惨めな失敗に終わって後は、国民民主党代表の座を玉木雄一郎氏に奪われ、現在まで悶々とした日々を過ごしてきたが、いつかどこかで国政政党の党首に返り咲きたいという野望を捨てることはなかった。

 

 その野望が、今年4月の統一地方選での維新の躍進を目の当たりにして「火が着いた」というわけだ。前原氏は、京都市議会(67議席)で第1会派の自民党(19議席)に次ぐ第2会派の維新・国民民主・地域政党「京都党」の3党による合同会派(18議席)を立ち上げ、京都市長選での候補者擁立に向けて着々と準備を整えてきた。そして11月28日には、京都党元党首の村山祥栄氏(45)を統一候補に担いて「オール与党体制」から離脱し「3極対決」に持ち込んだのである。また、自らは国民民主党代表代行および京都府連会長の要職にありながら、2日後の11月30日には「前原新党」(教育無償化を実現する会)の結成を突如表明するという行動に出た。いずれは維新との合流を予定しての旗揚げであろうが、その変幻自在の「変わり身」の速さには驚くほかない。

 

これまで京都府知事選・京都市長選はすべて「非共産対共産」の2極対決だった。共産は府議会・市議会で自民に次ぐ第2会派の勢力を占め、保守陣営が確実に勝利を手にするためには立憲民主や国民民主を巻き込まなければならない手強い相手だった。しかし、共産が党勢の衰えから2021年総選挙、22年参院選、23年統一地方選で後退を重ねるに及んで「非共産対共産」の構図が崩れ、前原氏が策動するスペースが生まれたのである。これまで共産は「2極対決」の中では苦戦を強いられてきたものの、「オール与党体制」に反発する広範な批判票を獲得することができた。それが圧倒的な基礎体力の差がありながら、共産が善戦してきた背景となっている。ところが「3極対決」となると「オール与党体制」に対する批判票が分散するため、前原氏の動きは非共産陣営だけではなく、共産陣営にとっても大きな影響を与えることになる。次期京都市長選をめぐる新しい政治構図はこれまでにない変化をもたらすだろうし、それがまた中央政界に跳ね返って「前原新党」の行方にも大きな影響を与えることが予想される。

 

 こうした複雑な政治構図の中で、2018年知事選、2020年京都市長選に共産陣営から連続して立候補した福山和人氏(弁護士)は、次期京都市長選の立候補記者会見(9月8日)で意外な行動に出た。翌日の京都新聞は「共産色薄め 候補者主導」との見出しで、この模様を以下のように伝えている(要約)。

 ――弁護士の福山和人氏(62)が9月8日、2020年の前回選に引き続き京都市長選への挑戦を表明した。2018年の京都府知事選を含め、首長選への立候補は3度目となる。知事選、市長選では共産党推薦で戦ったが、今回は「『非共産対共産』の不毛な構図に終止符を打ちたい」と述べ、共産色を薄める狙いが垣間見える。両選挙とも接戦に持ち込めず敗北を喫し、「候補者主導」に寄り舵を切った形だ。

 ――「来るもの拒まず。幅広い政党や団体、個人から支援を呼びかけたい」。共産党関係者を含む支援者に囲まれてマイクを握った4年前の出馬会見から一転、この日の会見は福山氏一人で応じた。支援者は「候補者が先頭に立つことで、共産や一部の支援者が候補者決めているというイメージを払拭したい」と狙いを語る。背景には、前回市長選では「政策論争ではなく、京都独特の政党間対立の構図にのみこまれた」との反省がある。そこで今回は「福山個人」を徹底的に前面に出す戦略に切り替えた。支援者の一人は「共産推薦を強調すると投票しない人もいる。推薦ではない形での支援の在り方も模索してほしい」と望む。

 

 10月31日、福山氏の京都市長選挙確認団体である「つなぐ京都2024」が発足し、選挙戦の火蓋が切られた。福山氏は、政治は市民がつくるものだとして「無所属市民派として政党の推薦を受けずにたたかう」と表明。同時に「政党の党員や支持者の方々が市民として応援していただくことは大歓迎だし、応援していただけるものと信頼している」と述べた。これを受けて共産党渡辺府委員長は11月1日、「『つなぐ京都2024』発足と福山和人氏の会見を受けて」との声明を発表した(赤旗、11月2,3日、要約)。

 ――前回京都市長選挙以来、政党支持の違いを超えて多くの市民のみなさんが「つなぐ京都交流ひろば」に集い、市政を巡るさまざまな議論や交流を重ね、運動に取り組んでこられた。昨日の会見で、福山和人氏は「①市長は政党ではなく、市民の代表。市民が政治をつくる。②市長は全ての市民の代表である」との見地で、今回は政党推薦を受けずに無所属・市民派としてたたかうとの「京都市長選に臨む基本的立場」表明された。さらに「現市政のすべてを否定する立場ではない」としつつも、「特に問題なのは、子育ての貧困さ」と指摘し、「行財政改革」と称して強行した数々の施策の見直しを市民目線でおこなうと表明された。福山氏の掲げる政策は、日本共産党がこれまで広い市民のみなさんとともに運動に取り組み、実現をめざしてきたものと多くの点で一致する。日本共産党は、福山氏の決意と政策を支持し、表明された「基本的立場」を尊重して、今回は党としての「推薦」の機関決定を行わずに選挙戦に臨むことを決定した。

 ――渡辺府委員長の記者会見では、記者団から「これまでの選挙戦とどう変わるのか、後ろに引くのか」といった質問が出た。これに対して渡辺氏は、日本共産党も加わる「民主市政の会」がすでに福山氏の推薦を決定していることを挙げ、「自民党が割れるなどオール与党体制が崩壊したもとでの選挙であり、幅広い市民と力を合わせて勝利へ頑張りたい」と述べた。

 

 福山氏が共産の推薦を受けずに「市民派候補」「候補者主導」の立場を強調したのは、その背景に共産を取り巻く市民の目が一段と厳しくなってきていることがある。2021年総選挙では(京都1区での票欲しさに)政策協定も選挙協定も結ばないまま泉健太氏が立候補する京都3区で独自候補を降ろし、党員や支持者に泉氏への投票を呼び掛けた。結果は、泉氏は楽勝したものの「野党共闘」には見向きもせず、立憲民主の「共産離れ」を加速しただけだった。

 

 もう一つは、言わずと知れた志位委員長の党運営に異議を唱えた京都ゆかりの党員2人に対する除名処分の影響である。京都ではこの除名処分の強行によって多くの支持者が共産を離れ、23年統一地方選敗北の原因になったと言われている。ましてや、党派選挙ではない首長選挙においては無党派層の投票行動が勝敗を左右する以上、「共産推薦」はマイナス要因でしかない。渡辺府委員長は全力を挙げて福山氏を応援すると表明しているが、組織的に機関決定を見送ったのはそのためである。

 

 松井氏の選挙母体である「オール与党体制」にもひび割れが生じている。非共産陣営の主軸となる自民党の中から若手府議が出馬表明(9月7日)し、自民を離党して独自で市長選をたたかうことを表明した(10月30日)。これには数人の自民府議が行動をともにし、関係する元国会議員も離党届(11月9日)を出すなど、波紋が広がっている。影響は府議会だけではなく、元自民党市議団長を務めた重鎮の京都市議が離党届(11月17日)を出すなど、市議会にも広がってきている(京都民報、12月3日)。政党間の合従連合による「非共産対共産」の仕組みが制度疲労を見せ、両陣営ともに「市民派・市民主導」を表看板にした新しい動きが胎動しているのである。

 

 通常なら、従来からの「オール与党体制」をバックにした松井陣営の優勢は動かない。しかし、今回の京都市長選が注目されるのは、中央政界での自民党派閥の裏金疑惑の広がりが岸田政権を直撃し、野党各党の行動如何では政界再編につながる事態に発展することも十分に予想されるからである。このとき「与野党相乗り」の松井陣営はまた裂き状態に陥り、とりわけ立憲民主党が批判の矢面に曝されることは間違いない。立憲民主代表の泉健太氏をはじめ府連会長の福山哲郎氏など党幹部は、いったい如何なる口実でこの事態を切り抜けようとするのであろうか。

 

 「オール与党体制」が崩壊し立憲民主に批判が集まると、「前原新党」の前途は開けるであろうか。これは維新がどのような立ち位置を取るかで決まるが、「維新の喉に刺さった骨」といわれる万博費用の膨張が維新の「命取り」になる可能性も否定できない。政府は19日、2025年大阪・関西万博関連の全体費用を公表したが、万博に直接かかる費用は国費だけで1647億円。これに会場整備以外の「会場周辺のインフラ整備」810億円と「会場へのアクセス向上」7580億円を加えると、国費は計8390億円に膨張することがわかった(毎日新聞、12月20日)。また、16,17日実施の毎日世論調査では、「大阪・関西万博の入場チケットの販売が始まりました。チケットを購入したいと思いますか」との質問に対して、「購入したいと思う」10%、「購入したいと思わない」79%だった。維新支持層も7割強が「購入したいと思わない」と回答している。

 

 おそらく日が経つにつれて、万博費用の底抜けの膨張は大阪府政・大阪市政の財政を苦しめる元凶となり、「身を切る改革」の維新の喉元を脅かす存在になっていくだろう。急成長した政党は没落も早い。すでに維新支持率はピークを過ぎて下降傾向を示しており、「大阪万博とともに去りぬ」といったことにもなりかねない。各社の12月世論調査における立憲支持率と維新支持率の数字を前月比で示そう。カッコ内数字は11月調査との差である。

 〇NHK、立憲7.4%(+2.7)、維新4.0%(±0)

 〇産経新聞、立憲7.6%(+1.3)、維新7.9%(+1.3)

 〇時事通信、立憲4.4%(+1.7)、維新3.2%(-1.4)

 〇日経新聞、立憲8.0%(-1.3)、維新8.0%(-1.3)

 〇読売新聞、立憲5%(±0)、維新5%(-2)

 〇毎日新聞、立憲14%(+5)、維新13%(-1)

 〇共同通信、立憲9.3%(±0)、維新12.0%(+2.7)

 〇朝日新聞、立憲5%(±0)、維新4%(-1)

 

 最後に、京都市長選における福山和人氏の基本的立場と共産の多数者革命論の関係を見よう。これまで京都では「非共産対共産」の政治構図の中で共産の立場は比較的明確だった。「どんな困難にも負けない不屈性、科学の力で先ざきを明らかにする先見性を発揮して、国民の自覚と成長を推進し、支配勢力の妨害や抵抗とたたかい、革命の事業に多数者を結集する」(赤旗、12月10日、「志位委員長大いに語る」、若者ミーティング)というものである。しかし、福山氏は、政治は市民がつくるものだとして「無所属市民派として政党の推薦を受けずにたたかう」と表明し、「政党の党員や支持者の方々が市民として応援していただく」と言明している。このとき、政党と市民はいったいどのような位置関係に立つのだろうか。市民に「民主集中制」を押し付けることはできない以上、党員が「市民」として行動するのであれば、多様な議論の存在を容認し、意見の一致点を粘り強く追求する以外に方法がない。京都市長選は、共産党の「民主集中制」の存在意義を問うものとなり、やがてはそれを克服していく第一歩となるだろう。(つづく)

 

 みなさま、今年も押し詰まりました。良いお年をお迎えください。広原 拝