日本列島に拡がる有史以来の〝人口減少〟に如何に立ち向かうべきか、党勢拡大方針の抜本的転換が求められている、人口減少にともなう地方自治体と党地方議員の分析(3)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その26)、岸田内閣と野党共闘(91)

 社人研の2050年推計人口によれば、21世紀半ばに至るこれからの30年は、国土・地方・都道府県・市区町村のいずれのレベルにおいても有史以来の地殻変動の発現が予測されている。その変化を比喩的に言えば、〝人口減少〟という地殻変動が国土一円に拡がる中で、中央部(関東・首都圏)を残して日本列島の地盤沈下が急激に進み、その他の地域は浮島状態になる――というものである。南太平洋諸島のように、地球温暖化による海面上昇で島嶼そのものが消えるといった事態ではないが、有史以来の〝人口減少〟という地殻変動によって地域社会の存続(持続的発展)が脅かされ、首都圏やその他の大都市圏を除いて日本列島の急速な地盤沈下(衰退現象)が進んでいくということである。

 

 将来人口推計は、数ある将来予測のなかでも最も確度の高い予測だとされている。南海トラフ巨大地震は、今後30年間に数十パーセントの確率で起こると予測されているが、それは突発的に起こるものであって、何時どこで起こるかを正確に予測することは難しい。これに対して将来人口推計は、現在すでに進行している〝少子高齢化〟という「現実=人口動態」を将来に向かってそのまま投影したものであり、いわば「確実な未来」「必然的な未来」をあらわすものと言える。こうした前提のもとに、社人研の人口推計指数(2020年=100)および65歳以上人口比率(%)を用いて、30年後の日本列島の変化を国土・地方・都道府県・市区町村の各レベルで考えてみたい。以下は、その分析結果である。

 (1)21世紀半ばに至るこれからの30年は、国土が「首都圏」「非首都圏」に分断され、地域格差が一層加速する時代になるかもしれない。有史以来の人口減少の中で関東地方だけが現在人口をほぼ維持する一方、それ以外の地方はいずれも2~3割にも達する激しい人口減少に襲われるからであり、加えて世界でも類を見ない「超高齢社会」に直面するからである。国際的には、65歳以上人口が総人口に占める比率7~14%未満を「高齢化社会」、14~21%未満を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と言うが、我が国では関東地方でさえが30年後には65歳以上人口比率が30%を超え、それ以外の地方は30%後半から40%前半にも達するからである。

 (2)これを「2020年=100」とする人口指数でみると、2050年人口指数及び65歳以上人口比率は、北海道(73.1、42.6%)、東北地方(68.3、44.0%)、関東地方(93.1、33.7%)、中部地方(80.0、38.3%)、近畿地方(80.2、38.3%)、中国・四国地方(74.6、36.6%)、九州・沖縄地方(73.7、37.4%)となって、「東京一極集中」と言われる人口動態が今後も継続し、関東地方とりわけ首都圏の肥大化が突出して進むことを示している。

 (3)国土レベルの「東京一極集中」と同じく、地方レベルでも「一極集中」の傾向が見て取れる。東北地方では、地方中枢都市・仙台市を擁する宮城(79.5、39.4%)が突出しており、残りの青森(61.0、48.4%)・岩手(64.7、45.9%)・秋田(58.4、49.9%)・山形(66.6、44.3%)・福島(67.0、44.2%)は人口が5~6割台に落ち込み、65歳以上人口比率は40%後半にまで拡がる。北海道の場合は、道庁が位置する札幌市(88.5、39.4%)が突出し、それ以外の函館市(60.4、47.7%)・釧路市(59.7、46.9%)・小樽市(49.9、53.1%)などの地方都市は容赦なく沈んでいく。

 (4)北海道・東北地方ほどではないにせよ、中部地方では名古屋市を擁する愛知(88.5、34.5%)、九州・沖縄地方では福岡市を擁する福岡(87.2,35.1%)への「一極集中」が際立っている(本土と離れており異なった文化を持つ沖縄は〈94.8,33.6%〉と別格)。中国・四国地方では、中心都市の広島市と岡山市の求心力が相対的に小さいからか、広島(79.6,37.4%)、岡山(80.0、37.8%)とその他との格差はそれほど大きくない。また近畿地方では、大阪市・京都市・神戸市で空洞化が進んでいる所為か、大阪(82.2,36.6%)、京都(80.5,38.5%)、兵庫(79.7,39.5%)よりも滋賀(86.5,36.7%)が凌駕している。

 

 2023年12月31日現在、共産党が議席を持つ市区町村は、全国1728(原発災害地域3市10町村を除く)のうち1266(73.3%)、市区は812のうち751(92.5%)、町村は916のうち515(56.2%)であり、党所属の市区議員は1549人、町村議員は628人である。社人研推計人口によると、30年後に人口が「半数未満=指数50未満」になるのは、党地方議員が議席を持つ751市区のうち36(4.8%)、515町村のうち133(25.8%)となり、「3割未満=指数70未満」は313市区(41.7%)、364町村(70.7%)である。つまり、党地方議員が議席を持つ市区町村で、現在よりも人口が3割程度減少する市区は4割、町村は7割に達し、選挙情勢が一段と厳しくなると考えなければならない。

 

 人口が3割も減れば、議員定数の縮小は避けられない。また新たな市町村合併が起これば、大幅な定数削減が一挙に現実化する。「平成大合併」によって町村数が2558から929(36%)、議員定数が3万8800人から1万800人(28%)、党町村議員が2103人から655人(31%)に激減したことは記憶に新しいが、人口減少がこのまま続けば、町村はもとより市区においても議員定数の大幅な縮小は避けられない。そればかりではなく、道州制の導入によって府県制が廃止されるといった地方自治制度の改変、あるいはそれに近い大再編が起こるかもしれない。

 

 30年後と言えば現役世代よりも次世代の時代であり、この時までに党地方議員の世代交代が進んでいなければ議席を維持することは著しく難しくなる。しかし前回の拙ブログでも述べたように、すでに党都道府県議員113人の平均年齢は60.9歳、市区議員1553人は61.7歳、町村議員631人は68.0歳に達しており、都道府県議員と市区議員はあとせいぜい10年、町村議員は数年足らずで活動が停止する境目にさしかかる。また昨年の統一地方選のように、多くの議員が落選して議席を失うかも可能性も否定できない。ここ数年から10年の間に世代交代の準備が整わなければ、「戦わずして敗れる」といった事態も起こりかねないのである。

 

 第29回党大会は「党勢拡大の新しい目標について」の中で、①第30回党大会(2026年)までに第28回党大会現勢――27万人の党員.100万人の「しんぶん赤旗」読者を必ず回復・突破する。党員と「しんぶん赤旗」読者の第28回党大会時比「3割増」――35万人の党員、130万人の「赤旗」読者の実現を2028年末までに達成する。②第28回党大会で掲げた青年・学生、労働者、30代~50代の党勢の倍化――この世代で10万の党をつくることを党建設の中軸に据え、2028年末までに達成する。1万人の青年・学生党員、数万の民青の建設を2028年末までに実現すると決定した。これは、「党の現状、世代的構成に照らして、青年・学生、労働者、30代~50代のなかでの『党勢倍化』は、党の現在と未来がかかった死活的課題となっており、第二決議の他の目標を実現させるうえでもとりわけ重視すべき目標となっている」からである。

 

 しかしながら、この拡大目標はわかりにくい。赤旗(2024年2月14日)には党員拡大の補足的説明として、「②2028年末までの5年間で3割増、10万人の50代以下の党員、1万人の青年・学生党員、数万の民青同盟を建設する」とあるが、これだけでは党員現勢25万人を35万人に拡大(年平均4千人・月平均333人)することがわかるだけで、「50代以下=真ん中世代」10万人が新規拡大目標なのか、それとも現勢党員「50代以下」8万人(党員25万人の党歴「20年未満」31.7%を概ね「50代以下」と見なすと8万人)を含む数字なのかが判然としない。だが、5年間で「50代以下」10万人を新規拡大することなど到底考えられないので、現勢党員「50代以下」8万人と合わせて10万人となる「2万人」を拡大目標と考えるのが妥当な線のように思える。

 

 「青年・学生1万人」の方はもっとわかりにくい。「青年・学生」の党員現勢は公表されていないので、1万人が新規拡大目標なのか、現勢党員を含めての拡大目標なのかが皆目わからない。ただ「青年・学生党員の拡大は、民青同盟のリーダーづくりになるとともに、わが党にとって世代的継承のカギを握る課題です。毎月、現在の3倍以上となる100人以上の青年・学生を党に迎えてこそ、5年後の1万人の青年・学生党員建設の道が開かれます」(赤旗4月20日)との文面から推察すると、新規拡大目標は「毎月100人以上×5年間=6000人以上」となり、党員現勢を3千数百人程度と考えると、ほぼ1万人の目標に見合うことになる。したがって、2028年末までの5年間で総数10万人、うち「50代以下」2万人、「青年・学生」6千人が「新規拡大目標」だと考えることができる。言い換えれば、10万人の党員拡大の内訳は7割が「60代以上」ということになる。

 

 ところが、田村委員長は全国都道府県委員長会議において「青年・学生、労働者、真ん中世代で10万人の党員を目指す『5カ年計画』は、党員拡大の6~7割をこの世代で迎えようというものです」(赤旗2月7日)と述べている。この見解を文字通り読めば、「10万人の6~7割=6~7万人」を青年・学生や30代~50代の真ん中世代で拡大することになるが、2028年末までの5年間でこの目標を達成しようとすると、年平均1万2千人~1万4千人、月平均1000人~1200人弱の拡大が必要になり、現在の党活動の水準からしてとても実現できるとは思われない。田村委員長は、この発言の真意について説明する責任がある。

 

 とはいえ、「50代以下」2万人にしても2028年末までに目標を達成するのは相当難しいだろう。これを年平均・月平均で考えると、「50代以下」は年平均4千人・月平均333人、「青年・学生」は年平均1200人・月平均100人となる。だが、第29回党大会以降の5カ月の実績報告を見ると、「50代以下」「青年・学生」の数字が公表されたのは僅か2回にすぎず、しかもその数は著しい低水準にある。

 (1)2月の党勢拡大は、党員拡大では421人が入党、50代までの入党申し込みは100人強にとどまっています(赤旗3月2日)。

 (2)5月の党員拡大の現状はどうか。党員拡大は、入党申し込みは363人、うち青年・学生が14人、真ん中世代が76人となっています(同、5月29日)。

 

 第29回党大会以降の5か月分の党員拡大を集計すると、入党は月平均450人前後、うち「50代以下」は100人余り、その中の「青年・学生」は20~30人程度にしかならない。加えて留意すべきは、入党数は毎月公表されるが、死亡・離党数は公表されないので、正確な「増減数=入党数-死亡数-離党数」がわからないことである。しかし、2020年以降の年平均死亡数は5千人・月平均420人前後で推移しており、ほぼ入党数に匹敵する規模に達している。これに離党数を加えると入党数を上回ることは確実で、「長期にわたる党勢後退」はむしろ加速していると言わなければならない。また「死活的課題」である世代的継承も目標の3分の1にとどまり、成功しているとはとても言えない。

 

 このように第28回党大会と第29党大会の党勢拡大決議が二度にわたって破綻しつつある現在、党中央の取るべき態度は、人口減少や少子高齢化が急激に進む地方や地域の中に深く分け入り、その苦悩や困難をともに分かち合うものでなければならないだろう。また「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針の破綻に真正面から向き合い、抜本的な方針転換を図るものでなければならないだろう。ところが、志位議長はまるで「糸の切れた凧」のように空中遊泳を繰り返し、社会主義の夢物語を振り撒く「笛吹き男」と化している。そればかりではない。パンフにする程度の内容を5回にもわたって平然と赤旗に掲載し、紙面を事実上私物化する行動に出ている。

 

 悲しむべきは、志位議長の言動を批判する党幹部の姿がどこにも見えないことだ。それどころか、赤旗は志位発言に追随する党幹部の声で充満しており、紙面刷新の気配さえ感じられない。赤旗は減紙が続いて「発行の危機」を迎えているというが、紙面を抜本的に刷新することなくして拡大はあり得ない。志位発言を満載した赤旗は、遠からずして終焉の時を迎えるほかはないのである。(つづく)