地方議会議席数・議席占有率と国政選挙(2022年参院選)得票数・得票率との関係、人口減少にともなう地方自治体と党地方議員の分析(1)、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その24)、岸田内閣と野党共闘(89)

 本稿で用いる主なデータは、共産党のホームページに掲載されている地方議会別党所属議員の人数と基本属性(性、年齢)及び総務省「令和4年参議院通常選挙、都道府県別党派別得票数(比例代表)」の2つである。前者は、党地方議員の地方議会に占める比重すなわち議席占有率を分析するための第1次資料であり、後者は、2022年参院選挙における共産党の比例代表得票数・得票率を都道府県別にみるための公式資料である。

 

 共産党のホームページには、都道府県議会・市区議会・町村議会ごとに党議員の氏名、顔写真、生年月日などが掲載されている。だが、その中には顔写真がなく、生年月日が記入されていないものもあり、氏名だけでは男女の区別さえつかない場合がある。神奈川県委員会の場合などは68人のうち実に28人(41%)、滋賀県委員会の場合は43人のうち16人(37%)が年齢不詳であり、第1次資料としては著しく精度に欠ける。これらのデータには多くの難点があり、不正確さを免れないが、それでも党地方議員の今後を考える上で必要な資料なので、データベースを作成することにした。なお、年齢は2024年末を基準とし、平均年齢は年齢不詳議員を除いて算出している。

 

 田村委員長は、5月9日に行われた「地方議員オンライン交流会」において「地方議員のみなさんへのよびかけ」(赤旗5月10日)を発表し、党地方議員の議席占有率がこの間、後退し続けていることに警告を発した。

――わが党の議員団の活躍は、議席占有率で最高時の8.43%から減ったとはいえ、2024年4月末時点でも7.19%と議員数4400人だった「平成大合併」前の時期とほぼ同じ割合を維持していることによるものです。同時にこうした「かけがえのない」党地方議員団の陣地が、この間の統一地方選挙、引き続く中間地方選挙を通じて後退傾向を脱していない現状があります。党大会では、4年前の第28回党大会時(2662人)から331人の議席後退になり、その後も5月1日現在で20人後退しました。候補者がたてられず、あるいは自力の後退で党の議席が後退あるいは空白になってしまう。こんな悔しいことはありません。

 

 地方議会における議席占有率は、今後の党地方議員の行方を考えるうえでの最重要資料である。だが、その全体動向(後退傾向)を伝えるだけでは問題の所在がわからない。田村委員長の「地方議員のみなさんへのよびかけ」は、議席占有率の低下に警鐘を鳴らしているものの、その原因や背景については何一つ語っていない。ただ減った議席は取り返さなければならない、その最大の力は「つよく大きな党」をつくることにある、だから頑張らなければならない――と強調するばかりである。

 

 このような論調は、これまで党中央が地方議会の議席占有率の動向を主として国政選挙の得票数・得票率との関連から見てきたことと深く関係している。地方自治は「民主主義の学校」とも言われるように、地域住民が地方政治に関わる上で欠くことのできない社会基盤であり、住民自治の発現の場でもある以上、党地方議員の存在を重視しなければならないのは当然だろう。だが、現実はそればかりでなく(それ以上に)、党地方議員が国政選挙に果たす役割が重視されてきたのである。

 

 共産党が国会で一定議席を占め、国政に影響を与えるためには国政選挙の勝利が不可欠である。そのためには、選挙での支持獲得や投票動員を第一線で担う党地方議員の活動が何よりも重視される。そしてそのことが、国政選挙のために地方選挙を前哨戦としてたたかい、党勢拡大を地方選挙を通して実現しようとする活動スタイルを広げてきた。だが、地域住民や有権者からすれば、党勢拡大を主とし、住民要求を二の次にするような選挙戦術は余り歓迎されない。統一地方選挙や中間選挙における党の後退は、地方選挙を本来的な形で戦わなかった選挙戦術に起因するものと言わなければならないだろう。

 

 全国の地方議員定数3万1582人に対する現在の共産党の議席数・議席占有率は2297人・7.2%、2022年参院選比例代表得票数・得票率は361万8千票・6.8%であり、議席占有率と得票率はほぼ均衡している。議席数は、北海道・東北地方400人(全国2297人の17.4%)、関東地方611人(26.6%)、中部地方388人(16.9%)、近畿地方426人(18.5%)、中国・四国地方239人(10.5%)、九州・沖縄地方233人(10.2%)と比較的分散している。一方、得票数は、関東地方145万4千票(総得票数361万8千票の40.2%)、近畿地方69万2千票(19.1%)と両地方で総得票数の6割を占め、人口規模と密度の高い大都市圏が小規模低密度の地方圏よりも得票数が大きいことが見て取れる。

 

 そこで横軸に議席占有率、縦軸に2022年参院選比例得票率を取り、都道府県別にプロットすると、低占有率・低得票率の地方圏から高占有率・高得票率の大都市圏へ右肩上がりで分布が広がる。しかし、議席占有率が高くなると得票率が横這いになる傾向が見られるのは何故か(グラフは目下作成中。後日掲載)。

 (1)全国47都道府県のうち「占有率>得票率」(議席占有率より得票率が低い)は29都府県(62%)、「占有率=得票率」は2県(4%)、「占有率<得票率」(議席占有率より得票率が高い)は16道県(34%)である。全体として、議席占有率に見合う得票率を得られなかったケースが6割強を占める。

 (2)「占有率>得票率」の中でもその差が大きいのは、神奈川12.9%・7.2%、東京12.0%・9.4%、京都17.2%・12.0%、滋賀10.6%・7.2%、大阪10.6%・7.1%であり、関東・近畿の大都市圏に集中している。これは議席占有率が高い大都市圏では、その時々の政治情勢によって支持票が浮動化しやすく、2022年参院選ではそれが典型的にあらわれたからである。

 (3)「占有率<得票率」の場合はその差が小さく、それも沖縄6.2%・9.4%、高知11.5%・14.0%、北海道6.8%・8.2%など地方圏に分散している。地方圏は大都市圏とは逆に支持票が固定化していて振れが少なく、変動幅が小さい。

 (4)占有率と得票率の差がプラス・マイナス1ポイント未満に収まるケースを「占有率≒得票率」と見なすと、「占有率>得票率」は16都府県(34%)、「占有率≒得票率」は25県(53%)、「占有率<得票率」は6道県(13%)となる。この状況は、低占有率の地方圏では得票率の増減幅が少ない「膠着状態」が広がり、占有率の高い大都市圏では得票率が伸び悩む「政党離れ現象」に直面していることを窺わせる。総じて、議席占有率と得票率がともに躍進した高度成長期とは異なり、低投票率が常態化している現在は、「政治不信」「政党不信」が蔓延し、無党派層が4割を超える事態が続いているからである。

 

 党地方議員の議席占有率をめぐる第2の問題は、都道府県占有率の著しい低さである。議席数・議席占有率は全国定数2604人のうち113人・4.3%、党地方議員全体の議席占有率7.2%よりはるかに低い。地方自治体における都道府県の卓越した影響力から考えると、都道府県占有率は知事選を初めとする地方選挙全体に多大な影響を与えるものと考えなければならない。大阪維新の会の知事誕生がその後の大阪の政治構造を劇的に変え、府議会定数の大幅削減によって共産党が僅か1議席に落ち込んだことは記憶に新しい。以下はその分析である。

 (1)都道府県占有率が党地方議員全体の議席占有率7.2%を超えるのは、高知16.2%(議席6人、以下同じ)、東京15.0%(19人)、京都15.0%(9人)、沖縄14.6%(7人)、長野8.8%(5人)、宮城8.5%(5人)の6都府県である。これら6都府県は革新系知事を生み出してきたことでも知られる。

 (2)「議席ゼロ」は新潟・福井・静岡・福岡・熊本の5県、「議席1人」は秋田・茨城・栃木・富山・石川・岐阜・愛知・三重・大阪・奈良・和歌山・鳥取・徳島・香川・愛媛・佐賀・長崎・宮崎・鹿児島の19府県、合わせて24府県(全国の過半数)が「議席ゼロ」あるいは「1人」となる。とりわけ大都市圏にありながら「議席ゼロ」の福岡、「議席1人」の愛知・大阪の不振が目を引く。これらの府県では共産党の影響力は限定的であり、地方政治を動かす実質的な力となっていない。

 (3)「つよく大きな党」をつくることは、党組織単独の力で達成できるものではない。個々の支部や党員が如何に頑張っても、それを後押しする環境や雰囲気がなければ目標は達成できない。「議席ゼロ」「議席1人」といった府県では、せめても複数議席(以上)を確保できなければ党の影響力は住民に届かない。住民の声を自治体行政に反映させることが地方選挙の本来の目的であり、党勢拡大は人間らしい政治を実現するための手段の一つであって、それ自体が目的ではないはずだ。ところが地方選挙を党勢拡大の機会として捉え、選挙結果は二の次にしか考えていない党幹部も少なくない。これでは有権者の支持を獲得することは困難であり、いつまでも「議席ゼロ」「議席1人」といった事態から脱することができない(福岡の党勢拡大運動は赤旗ではいつも「先進例」として賞賛されているが、「県議ゼロ」という政治的空白の実態についてはこれまで報道されたことがない)。

 

 結論を先取りして言えば、国政選挙の勝利のために地方選挙をたたかい、選挙活動を通して党勢拡大を追求するこれまでの活動方針はもう限界にきている――ということである。地方選挙本来の目的である自治体民主化と住民生活向上の実現のために、選挙活動の形や方法を抜本的に転換しなければならない時に来ている。言い換えれば、党中央主導の(国政選挙中心の)党勢拡大目標を追求するため、有権者を単なる「票読み・拡大・動員対象」視することを止め、主権者である地域住民の声と要求を実現するために政策を訴え、行動を共にしなければならないということである。地方選挙における地域活動を通して地域住民の声に真摯に向き合うことは、「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針の見直しにつながり、本来の政党活動の姿を取り戻す契機となる。同時に、党中央の指導に基づく「民主集中制」がもたらす政策の歪みやズレを発見することにもつながる。次回は、市区議員と町村議員の現状について分析する。なお、党地方議員のデータベースは最後に独立して掲載するつもりでいる。(つづく)