「ガースー」から「スガーリン」へ、WEB上で拡散する菅首相の独裁イメージ、菅内閣と野党共闘の行方(18)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その243)

 

 今年に入ってから、週刊誌のトップ記事に「次の総理は誰?」「さらば菅総理!」といった見出しが目立つようになった。昨年暮れの世論調査で内閣支持率が急落してからというものは、各週刊誌の次の企画テーマとして〝菅退陣マター〟が急浮上しているのである。次の世論調査結果次第では、この動きが一挙に加速して一大政局に発展するかもしれない。

 

そんな風潮を受けてか、菅首相の人物像についても新たな論評が見られるようになった。毎日新聞1月6日の政治コラムがそうだ。見出しは「独裁イメージ? 広まる呼名『スガーリン』」というもの。掲載されている菅首相のポスター(自民党作成)と旧ソ連の指導者スターリンの写真が並んでいるのを見て、その意味が初めて分かった。強権的政治で知られる菅首相を旧ソ連の独裁体制を築いたスターリンになぞらえ、「スガーリン」という呼び名が広まっているというのである。

 

 私は時代遅れでネット交流サービス(SNS)などとは無縁の人間だが、ツイッターでは「#スガーリン」というハッシュタグをつけられた投稿が最近は相次いでいるという。内容は「異を唱える者は徹底的に弾圧・妨害・排除する」「周りに侍っている官僚はイエスマンだらけ」など、菅首相の強権的、独裁的体質を指摘するものが多いそうだ。私なら「思想統制・公安内閣」「説明抜き恫喝政治」などといった内容もこれに付け加えたいところだ。

 

 一方、今年に入って菅首相が「復古イメージ」を強力に打ち出したことにも気づく。読売新聞(1月4日)は、「菅首相『現状では男系継承を最優先』…旧宮家の皇籍復帰については『発言控えたい』」 との見出しで次のように伝えた。

 

「菅首相は3日のニッポン放送のラジオ番組で、安定的な皇位継承のあり方について、『今日まで男系継承で脈々とつながってきている。そこは極めて重いものがある。現状では男系継承を最優先にしていくべきだ』と語った。戦後に皇族の身分を離れた旧宮家の男系男子の皇籍復帰については、『私の立場で発言することは控えたい』と述べるにとどめた。ラジオ番組は2020年12月18日に収録された。安定的な皇位継承策を巡っては、17年に成立した平成の天皇陛下の退位を実現する特例法の付帯決議で速やかに検討するよう求められており、政府で議論が続いている」

 

 そう言えば、1月3日の産経新聞の6、7面全紙を使って掲載された「菅義偉首相インタビュー」記事にも驚いた。インタビューといっても産経記者が質問するわけではない。インタビュアーとして登場したのは、かの有名な右派勢力を代表する櫻井よしこ氏なのである。紙面の扱い方からしても、菅首相と櫻井氏のツーショット写真の掲載からしても、記事は事実上、両氏の〝対談〟として位置づけられている。これは「菅首相新春インタビュー」ではなくて、「菅首相・櫻井よし子新春対談」なのである。

 

見出しがまた面白い。「10年先を見据え 出発の年に、改憲へ しっかり挑戦したい」「春になれば雪は解ける、我慢すれば必ず変わる」とあるように、「ガースー発言」以来、苦境に陥っている菅首相を右派勢力が総力を挙げて支えようとする意図が透けて見える。もはや「スマホ値下げ」といった小手先の手法では世論を引き付けることができなくなったので、今度は保守勢力を結集するための2大テーマ「改憲」「皇位男系男子継承」を前面に出し、右派勢力を総動員するキャンペーンが始まったのである(と見るべきであろう)。

 

 これまで菅氏の人物像としては、「秋田出身、地方出身の苦労人」「たたき上げの庶民政治家」といった〝地方イメージ〟が意識的に打ち出されてきた。安倍・麻生氏に象徴されるような(日本の支配階級の系統を受け継ぐ)世襲政治家とは異なるイメージを打ち出すことで、自民党政治を一時的に立て直す「ワンポイントリリーフ」としての役割が期待されていたからだ。

 

 ところが、菅氏は学術会議会員任命問題で出足から躓(つまづ)いた。著名な学者6人を理由もなく任命拒否することで、この人物が「庶民政治家」とは縁もゆかりもない、公安情報に依拠して思想統制を目論む独裁者であることが赤裸々になった。また首相の1日が記録される「首相動静」によって、菅氏が朝昼晩「はしご会食」を繰り返し、夜には(国民には自粛を求めながら)「多人数ステーキ会食」などグルメ三昧の生活を送っていたことも明るみに出た。

 

 地に堕ちた「庶民政治家」を立て直す旗印は何か。それは「政治理念がない」「政策哲学がない」「国家構想がない」などと言われてきた菅首相に〝政治イデオロギー〟を与えることだ。産経新聞の「菅・桜井新春対談」は、まさしくそのために企画されたと考えることができる。シナリオは、ニッポン放送のラジオ番組が収録された昨年12月中旬にはすでに出来上がっており、それが新春早々の大型対談で本格に発進されたのである。ちなみにその内容がどんなものか、一部を抜粋して紹介しよう。

 

 櫻井、「昨年、首相が日本学術会議が推進した新会員候補6人の任命を拒否したと知ったとき、失礼ながら『お主、やるな』と思いました(笑)」

 菅、「官房長官時代にこの組織は既得権益のようになっているのではないかと感じていました。私は昨年9月の自民党総裁選で『既得権益、あしき前例主義を打破し、規制改革を進める』と公約し、当選しました。そういう思いの中で判断しました」

 

 櫻井、「安倍晋三前首相は憲法改正を公約に掲げ、野党時代を含め連続6回国政選挙に勝利しました。日本をもっと元気で、開かれた国にしていくために菅首相にも期待していいでしょうか」

 菅、「安倍前首相は大変熱い思いで取組んでおられました。憲法改正の国会発議には衆参両院の総議員の3分の2以上の改憲勢力を確保しなければならないという大きな壁があることも事実です。ですから、私もしっかり挑戦したいと思います」

 

 櫻井、「安定的な皇位継承の在り方については男系男子を維持し、2千年以上続く日本の伝統を受け継ぐのが正しい道と思いますが、どうお考えですか」

 菅、「日本は今日まで男系男子の継承で脈々とつながってきているわけでありますから、極めて重いものがある、こういうふうに思っております」

 

 菅首相は「自助」を強調する根絡みの新自由主義者だと言われるが、その一方、皇位継承では男系男子にこだわる極め付きの復古主義者でもある。「スマホ値下げ」といった小手先の人気取り政策が通用しなくなったいま、また新型コロナ対策で打つべき手がすべて後手後手にまわっているいま、菅首相は櫻井氏と組んで「改憲」「皇位男系男子継承」を政治課題化して右派勢力を総結集し、政権維持のための新たな「賭け」に出たのではないか。

 

 毎日新聞の政治部デスク・野口記者は、「オピニオン、記者の眼」(1月7日)の中で、菅氏の政治姿勢を次のように分析している。

 「私は第1次安倍政権発足前から菅氏を取材する。政治姿勢を一言で表せば『ばくち打ち』だ。政局となれば、全政治財産を賭けて勝負に出る。第1次、第2次安倍政権誕生前、水面下で真っ先に動いて安倍氏勝利の流れを作った。昨年9月は二階幹事長といち早く組み、首相の座をつかんだ」

 

 だが、「ばくち打ち」の菅氏に国民の生命と暮らしは任せられない。菅氏の取るべき道は、自らの非力を認めて政権の座から降りるしかない。菅首相は昨年11月からの「勝負の3週間」に続き、今年1月からは「勝負の1カ月」(緊急事態宣言)に政治生命を賭けるというが、その成否は前回と同じく目に見えている。(つづく)

民心が読めないガースー首相はコロナ禍とともに去るしかない、菅内閣と野党共闘の行方(17)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その242)

 

 全国で4千人を超えた大晦日の感染者数も衝撃的だったが、1月6日の数字はもっとインパクトが大きく、「感染爆発」の一歩手前まできている印象だ。何しろ1日あたり新型コロナ新規感染者数は、全国6001人、首都圏2887人(東京1591人、神奈川591人、埼玉394人、千葉311人)、愛知364人、大阪560人、福岡316人と、全国および大都市圏都府県の数字を軒並み過去最多を更新したのである(NHK特設サイト)。いまやこれら大都市圏都府県を中心に、コロナ感染が全国に拡大している状況が明らかになった。

 

もはや、国民に「自粛」を呼びかける口先だけのコロナ対策が破綻していることは明らかだろう。政府は昨年11月、他人の褌(ふんどし)で相撲を取るに等しい「勝負の3週間」を仕掛けたが、惨敗に終わったことは記憶に新しい。結果が明らかになった頃に行われた毎日新聞世論調査(12月12日実施)では、内閣支持率が前回調査(11月17日実施)から17ポイント急落して40%に落ち込み、不支持率は49%に急上昇して支持・不支持が逆転した。最大の原因は、菅政権の新型コロナ対策が「評価する」14%、「しない」62%と圧倒的大差で〝NO〟を突き付けられたことにある。この結果に驚愕した菅首相は12月14日、「GoToトラベル」を12月28日から今年1月11日までの間、全国一斉に停止すると発表した。

 

菅首相は、これまで観光支援策「GoToトラベル」がコロナ感染を全国に広げているエビデンスはないと強弁し、「感染対策と経済活動を両立させる」などと称して「GoToトラベル」の継続に固執してきた。自らの政権基盤である二階派との連携を維持するためには、〝観光業界のドン〟といわれる二階幹事長の至上命令に逆らうことは得策でなく、自らもまた「GoToトラベル」を経済政策の要として位置づけてきたからである。

 

ところが「GoToトラベル」の一時停止を発表したその夜、政府が国民に対して「5人以上の会食」は感染リスクが高まると呼びかけている最中に、あろうことか張本人の菅首相が二階幹事長の催した超高齢者8人の忘年会に(「GoToトラベル」一時停止の詫びを入れるためか)参加したのである。「国民の命を守る」といいながら、自らの政権基盤を最優先する首相の政治姿勢は国民の強い批判と反発を招いた。この時を契機にして、菅首相は国民の信を一挙に失った。毎日調査に引き続く各社の世論調査においても、内閣支持率は30%台後半から40%台に急落した。「重ね聞き」(支持・不支持を答えない人に対して更に回答を促して結果を積算する方法、通常の調査より支持率が高めに出る)を用いている日経、読売調査でもこの傾向は変わらない。

 

政府は1月7日、具体的な措置の内容などについて感染症の専門家などでつくる「諮問委員会」に意見を求め、国会に報告(菅首相は出席しない)したうえで対策本部を開いて緊急事態宣言を決定するという。今回の宣言に合わせて政府は、飲食の場での感染リスクの軽減策など限定的な措置を講じる方針らしい。だが、この飲食店中心の限定対策により果たして「感染爆発」寸前の首都圏の感染拡大状況を制御できるかについては、多くの専門家から疑問が出されている。

 

京大の西浦教授(数理疫学、昨年まで北大教授、厚労省専門家組織から離れた)は、1月6日の厚労省会合に提出した東京都の感染者シミュレーションに関する非公開資料において、飲食店への時短営業要請の対策では現在(12月19日時点)の実効再生産指数10%程度減らすぐらいの効果しか期待できず、1日あたりの感染者数は横ばい状態で続くことになるとしている(朝日1月7日)。

 

しかし、その後の情勢は劇的に変化している。東京都は1月7日、新たに2447人(前日より一挙に856人増)の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表した。7日現在の重症者は121人と前日から8人増えた。いずれも前日に続き過去最多の人数を更新した。国への報告基準で数えると重症者数は437人となり、都基準の4倍近くになる(ロイター東京、1月7日)。

 

また、今回の非常事態宣言の対象地域が首都圏の1都3県に限定されることについても疑問が出ている。吉村大阪府知事が緊急事態宣言の要請を見送る発言をしたことについて、吉田近大教授(感染症学)は「これ以上増えたら踏ん張りがきかない。現場としては緊急事態宣言を出してほしい」「情報の受け手は自分たちの都合がいいようにとらえてしまう。府民への『もう大丈夫』という誤ったメッセージになりかねない」「小刻みに制限したり緩和したりするのは止めたほうがいい。経済も感染症対策もどっちつかずになる。今は感染者を減らすべき時だ」と訴えている(毎日1月7日)。

 

しかしその後、吉村知事は1月6日に560人の感染者が出たことから、政府に対して緊急事態宣言の発令を「(府として)要請せざるを得ないのではないか」と急きょ態度を変更した。8日に開催する府の対策本部会議で議題に挙げ、専門家の意見や7日の感染状況などを踏まえて最終的に判断するとした(産経デジタル1月7日)。

 

 菅首相は1月7日、記者会見で緊急事態宣言発令に伴う所信表明するというが、それがどんな内容になるか国民は注視している。各紙の社説でも、「首相が緊急事態宣言へ、もっと明確なメッセージを」(毎日1月5日)、「宣言再発出へ、対策の全体像速やかに」(朝日、同)など、政府の明確な方針を求めている。菅首相がここに及んであいまいな態度に終始すれば、民心が一気に離反することは目に見えている。果たして菅政権は国民の期待に応えられるのか、菅首相は剣が峰に立たされている。(つづく)

2021年の〝恐縮〟な新年を迎えて、それでも為すべきことが多い、菅内閣と野党共闘の行方(16)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その241)

 

 新年はおめでたいものだと相場が決まっている。暮れには「よいお年を」と言って仕事を終え、年明けには「明けましておめでとう」と挨拶をかわす。そして、元旦には年賀状を読む...。これが日本人の平均的な姿であり、私も成人してからそうしてきた。しかし、ここ数年(正確には10年近く前から)、新年を迎えるのが少しずつ辛くなってきた。最大の理由は、自分が年賀状を欠礼しているのに、多くの方から年賀状をいただく〝恐縮〟状態が続いているからだ。

 

 現役時代は年賀状を沢山書いていた。数百通に及ぶことも珍しくはなかった。親しい友人には新年の抱負を語り、年来の知人には無事を確かめ合う意味で書くことが喜びだった。ところが、あるときからこれが苦痛になってきたのである。師走になると大量の年賀状を買い込み、毎日書かなければこれだけの数は消化できない。もともと筆不精の私が「年賀状だけは」と思って頑張ってきたのが、遂に限界が来たのだった。

 

 賢明な友人たちは既にパソコンで省力化していたが、私はどうしても表裏すべてがプリントされている賀状には抵抗感があり、どこかに自分の下手な字を記すことにこだわった。それが原因で段々と指や手首が動きにくくなり、遂には「ギブアップ宣言」する羽目になった。そこで、ある年の賀状にこれまでのお礼を述べ、来年からの賀状は欠礼すると非礼を詫びたのだが、事態はこれで収まらなかった。それ以降も(数は減ったが)毎年、年賀状が届くのである。

 

 嬉しくもあり、懐かしくもある。しかし、それ以上に「申しわけない」との気持ちの方が大きい。ならば、返礼すればいいではないかとも思うが、選別するわけにはいかない。全部返礼するとなると、ふたたび以前のような状態に陥る。これはもう自分の体力(気力も)からして不可能だ。だが、いただいた賀状は全てとってある。自分が物理的に存在しなくなった時のためだ。家人の誰かに委ねるしかないが、「年来のご無沙汰」をお詫びするためにも、最後の返礼だけは果たすつもりでいる。

 

 それからもう一つ、新年になるたびに決断を迫られることがある。こちらの方は「憂鬱」と言う方がふさわしいが、積もり積もった蔵書の始末をどうするかという大問題だ。現役を退いてからすでに軽トラ3台分ぐらいの雑誌や資料は整理してきたが、どこかで言うように「断捨離!」とはいかない。研究者の端くれである私にとって蔵書は切り離しがたい分身であり、それを始末することは「身を切る」のと同じぐらい辛いことだからである。

 

 そこで、年末から物置(書庫)に入って整理を始めたが、気持ちの整理がつかないので作業が一向に進まない。それでも、毎日回ってくる古紙回収のオジサンのためにも何らかの成果を出さなければならないので、泣く泣く段ボール10数箱ぐらいは整理した。だが、そのうち寒さとストレスで身体が動かなくなり、それを口実にして作業を中止した。

 

 でも、収穫がなかったわけではない。ここ10数年ほどは3年に一度ぐらい著書を出してきたが、関連する資料が山積みになっていたのを何とかテーマごとに大分けして、物置と書斎に分類することができた。家人は、私が居なくなった時は躊躇なく「葬儀屋の前に古紙回収のオジサンに電話する!」と言っているので、このような事態を回避するためにも、また次のテーマに取り掛かるためにも、一定の整理作業は不可欠のプロセスだったのである。

 

 2021年の今年は、大きな課題が待ち構えている。神戸市では阪神淡路大震災から26年目の今年、新長田駅前再開発事業の検証報告書を1月に公表する。私は4年前に神戸の友人3人と一緒に『神戸百年の大計と未来』(晃洋書房)を出版して、この大艦巨砲主義の再開発事業は「日本の都市計画史上最大の失敗だ」だと評価したが、神戸市の報告書ではどうなることか、誰も責任を取らない方向で報告書がまとめられることになっているらしい。

 

 神戸ではすでに「神戸市の検証報告書を検証する市民研究会」(仮称)を立ち上げる準備が進んでおり、1960年代末から神戸のまちづくりに関わってきた私は、人生の総仕上げのひとつとして研究会に参加するつもりでいる。神戸の都市計画・まちづくりに関わった数多くの研究者の中にも、1人ぐらいは市当局の意のままにならない気骨ある学者がいることを証明したい――と思うからである。

 

 一方、京都市ではコロナ禍で瀕死の状態にある観光を立て直すため、「京都観光振興計画2025」の審議会が開かれ、2月には答申が出されることになっている。京都では『ねっとわーく京都』というNPО法人が発行する辛口の月刊誌があり、私は自称コラムニストとして2011年以来、毎月論説めいたコラムを120回近く書いてきた。だが残念なことに、同誌は今年3月に休刊になるということなので、今後は別の場所でコメントする機会をつくらなければならない。

 

 そんなこともあって、昨年10月には同誌掲載の3年半のコラムをまとめた『観光立国政策と観光都市京都』(文理閣)を出版した。反響は「イマイチ」だと言うが、読むべき人は読んでいるらしい。こちらの方は、拙ブログでもこれから系統的に追いかけて論評を加え、次期が来れば『続編』を出版したいと考えている。年は変わったが情勢は変わらない。何とかに「水」といったことには気にしないで、今年も老体に鞭を打って頑張りたいと決意している。(つづく)

政治はすべて結果責任、100回超の虚偽答弁は万死に値する、安倍前首相は即刻議員辞職すべきだ、菅内閣と野党共闘の行方(15)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その240)

 

 「度し難い人物」とは、まさにこういう人物のことを指すのだろう。東京地検特捜部が12月24日、安倍前首相の公設第1秘書を政治資金規正法違反の罪で略式起訴したことを受け、安倍前首相が開いた記者会見がそうだった。「噓八百」というが、まるでそれを地で行くような人物だ。100回を超える国会虚偽答弁を認めざるを得なくなったにもかかわらず、自分は「知らなかった」「知らされていなかった」と全責任を秘書に押し付け、自らの政治責任を免れようとする有様は醜悪そのものだった。

 

 翌25日の衆参両院議院運営委員会での態度はもっと悪質だった。自ら釈明すると申し出たのに、野党議員の質問に対しては「事前通告を受けていない」と居直る始末。事前通告の有無にかかわらず、自らが進んで事実を明らかにするのが本来の釈明の姿ではないか。ところが、これまでの国会答弁のように「事前通告を受けていない」と屁理屈をこねて答弁をはぐらかし、中には回答まで拒否するのだから始末に負えない。

 

要するに、今回国会で釈明すると申し出たのは、「謝罪した」という格好をつけて「それで終わり」と幕引きするつもりだったのだろう。「責任を痛感する」「反省している」「心からお詫びする」など、大げさで形式的な言葉を繰り返しながら、その実、表情や態度を見ていると全く反省していない。こんな茶番劇で国民を騙せると思っているのなら、きっと酷いしっぺ返しを喰うこと間違いなしだ。

 

それにしても、こんな度し難い人物が7年8カ月もの長きにわたって首相の座に居座っていたかと思うと、はらわたが煮えくり返る。本人は委員会後、記者団に「説明責任を果たすことができた」と胸を張ったというが、いったい何処からそんな言葉が出て来るのか不思議でならない。証人喚問には応じるつもりはないというし、おまけに来年の衆院選については「出馬して国民の信を問いたい」と言うのだから(朝日12月26日)、これで「一件落着」「みそぎ(の儀式)は終わった」と思っているのだろう。

 

 菅首相も24日、安倍政権時代の官房長官としての国会答弁については、「私自身も事実と異なる答弁になってしまい、国民に大変申し訳ない」と一応謝罪したが、これもうわべだけのことで言動が全く一致していない。「桜を見る会」について、記者団から招待者名簿などの再調査を行うかと聞かれて、「国会の中で質疑応答がきちっと行われてきている。予定はない」と平然と述べているのである(朝日、同上)。安倍前首相が100回を超える虚偽答弁を繰り返してきたというのに、「質疑応答がきちっと行われてきた」と言うのだから、こちらの方も安倍政権の忠実な後継者と言うほかない。「噓の上塗り」もいいところだ。

 

 新旧首相が揃いも揃って自らの政治責任を認めず、安倍前首相などは議員辞職など「どこ吹く風」といった具合だから、このような厚顔無恥の政治家は世論の力で倒すしかない。なかでも政権基盤の弱い菅首相にとって、内閣支持率の動向は決定的だ。内閣支持率がこれ以上下がれば「菅では選挙戦を戦えない」との声が高まり、「菅降ろし」が始まると言われているからだ。

 

このところ、菅内閣の支持率は先週末から40%を下回って急落している。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、その原因となった観光支援策「Go Toトラベル」の停止タイミングなどに対して、政府の対応への不満が高まっているからだ。なかでも菅政権を驚愕させたのは、支持率下落の大きさだろう。12月19、20両日実施の朝日新聞調査では、内閣支持率は11月の前回調査の56%から17ポイントも大幅下落して39%となった。一方、不支持率は前回20%から15ポイント増加して35%になった。ANNが同期間に実施した調査でも、支持率は38.4%で前月から17.5ポイント低下。不支持率は39.6%と17.1ポイント増え、不支持が支持を初めて上回った。

 

 事実を語らない安倍前首相の「釈明会見」、Go Toトラベル事業の突然停止に伴う混乱、コロナ感染状況の「過去最多」日々更新、吉川元農相の収賄容疑などなど、菅政権を取り巻く政治環境は刻々と悪化している。このまま年末年始を迎えて機能不全状態に陥るのか、それとも起死回生の一打を打ち出すことができるのか、菅政権は文字通り瀬戸際に追い詰められている。次回の世論調査結果で支持率が30%台を割るようなことになれば、何時政変が起きても不思議ではない。2021年の年明けは、風雲急を告げる時代になるかもしれない。(つづく)

「ガースー」発言と銀座高級ステーキレストランでの「多人数忘年会」が物語るもの、薄っぺらな「たたき上げ宰相」の本性が底まで見えた、菅内閣と野党共闘の行方(14)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その239)

 

「皆さん、こんにちは。ガースーです...」。12月11日、菅首相が出演した「ニコニコ生放送」の冒頭の場面のことだ。翌日、この様子を報じたテレビニュースを見てのけ反ったのは私一人ではないだろう。日頃はロボットのような無機的表情しか見せない首相が、見たこともないような薄笑いを浮かべてインタビューに応じているではないか。私は一部メディアが菅首相のことを「ガースー」と呼んでいることは知っていたが、こんな呼び方は失礼だと思って今まで言葉を慎んできた。それが本人の口から出たので唖然としたのである。

 

普段滅多に笑わない人物が笑う時は、何かしら不気味さを感じさせる。権力者になればなるほどそう思うのが世の常、何か底意があるのではないか、下心が隠されているのではないかとつい疑ってしまうのだ。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏のような天真爛漫な笑顔でなくても、普通の場合、笑顔は他人に安心感を与えるサインとなる。ところが、「ガースーです」と言った時に菅首相が浮かべた笑顔は、「庶民派宰相」のイメージを作ろうとする下心があまりにも露骨過ぎて、得も言われぬ不快感を与えた。

 

医療従事者が命懸けでコロナ対応に当たり、国民がコロナ禍の恐怖に直面しているいま、首相に求められるのは真摯な態度でコロナ対策に当たり、国民を安心させるメッセージを発することだ。それがヘラヘラした笑顔とは裏腹に、「『Go To トラベル』の一時停止は考えていない」「感染症対策分科会から『移動』については感染との関連性が低いという提言をいただいている」と従来の主張を繰り返すだけでは、とても国民の信頼は得られない。

 

 この「ガースー」発言が、12月12日実施の毎日新聞世論調査に影響を与えたことはまず間違いない。菅内閣の支持率は前回11月7日調査の57%から一気に17ポイント急落して40%になり、不支持率は49%(前回36%)で、菅内閣発足後初めて不支持率が支持率を上回ったのである。支持率急落の原因は、菅政権のコロナ対策への国民の不信感がピークに達していることに尽きるだろう。菅政権のコロナ対策については、「評価する」が前回の34%から20ポイント下がって14%、「評価しない」は前回27%から35ポイント上昇して62%となった。いずれも菅内閣に対する評価の劇的変化であり、「ガースー」発言を契機に世論は一気に変わったのである。

 

 これに輪をかけたのが、12月14日の銀座高級ステーキレストランでの「多人数忘年会」である。この日、菅首相は支持率急落に歯止めを掛けるため、従来の態度を一変して「Go To トラベル」の年末年始一時停止を発表したばかりだった。首相は、新型コロナの感染拡大防止を呼びかけた「勝負の3週間」の最終日を迎えた現状について、「3千人を超える感染者があり、高止まりの状況を真摯に受け止めている」と述べ、官邸を去る際、「年末年始は静かにお過ごしいただきたい」と国民に慎重な行動を促している。ところがこの日の夜、首相は都内ホテルの宴会場で10数人の経済人と会食し、その後、二階幹事長が芸能人やタレント、プロ野球ОBなどを招いて開いた恒例の忘年会(8人以上)に駆け付けたのである。

 

聞けば、菅首相が突如「Go Toトラベル」の一時停止を決めたことに対し、自民党二階派が激怒したという。二階幹事長は、旅行業界の団体「全国旅行業協会」の会長をつとめる観光族の〝ドン〟であり、観光産業は二階氏にとっての大きな利権とされている。Go To停止は二階派の利権に直結するだけに、寝耳に水だった二階派幹部は「なんで急に中止なんだ。どうなっているんだ!」「勝手なことをしやがって」と声を荒らげ、「誰のおかげで総理になれたんだ」「もう次はないぞ」など、強硬意見も飛び出しているという(日刊ゲンダイ12月16日)。

 

菅首相は、国民に対しては5人以上の会食自粛を呼びかけ、食事中においても会話の際は「マスク」をつけることを求めている。それが二階幹事長の「多人数忘年会」には国民へのメッセージは横に置いて駆け付けるのだから、首相にとっては自分の地位を維持することの方が「国民の生命と暮らしを守る」ことよりも遥かに重要なのだろう。また、二階派の顔色に戦々恐々としなければならないほど、菅政権の政治基盤は脆弱なのだろう。

 

「ガースー」発言に引き続く菅首相の「多人数忘年会」への参加は、世論の大きな怒りを巻き起こした。国会でも与野党を問わず批判が高まる中で、菅首相は12月16日、「国民の誤解を招くという意味で真摯に反省している」との弁を述べた。だが、国民は「誤解」などしていない。菅首相の本性を見抜いているからこそ「不支持」を表明しているだけのことだ。国民へのメッセージと自らの行動が一致しない政治家は「二枚舌=ダブルスタンダード」だと言われる。まして、一国の宰相が二枚舌とあっては、国民は何を信じていいかわからなくなる。政治不信の根源は菅政権の二枚舌に根ざしているのである。

 

しかし、「懲りない」とはこのことを言うのだろう。菅首相は16日の「真摯な反省」を表明した直後に、今度は都内の日本料亭で銀行関係者2人、さらにフランスレストランでメディア関係者3人(その中にはテレビ常連の田崎氏も含まれている)と「はしご会食」している。18日のテレビトークショー(毎日テレビ)では、首相は就任3カ月で150回を超える会食をこなし、うち10数回は5人以上の「多人数会食」だったという。そして17日の夜、「会食」を取りやめたのは、官房長官時代も含めて稀有のことだというのである。

 

「会食」というが、これは形を変えた「宴会政治」ではないか。「人の話を聞くのはいいこと」だと周辺は擁護するが、これは宴会の席上での単なる情報交換にほかならない。本も読まず、勉強もせず、宴会を重ねていては一国の宰相は務まらない。「たたき上げ」政治家は、所詮首相の器ではなかったのである。(つづく)

菅首相と二階幹事長は〝一蓮托生〟の関係、二人が「GoTo事業」に固執するわけと背景、菅内閣と野党共闘の行方(13)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その238)

 

先日、大阪で開かれたある研究会の席上、菅首相と二階幹事長の関係が話題になった。この件について、二階幹事長の地元、和歌山から来たメンバー(複数)の生々しい発言が興味深かった。二階幹事長の権力基盤は観光と国土強靭化(土木公共事業)、菅首相と二階幹事長はこの両軸で固く結ばれている〝一蓮托生〟の関係だというのである。

 

二階氏は1992年以降、全国5500社の旅行業者を傘下に収める全国旅行業協会のトップを30年近くに亘って君臨している。二階氏は観光業界では〝ドン〟と呼ばれており、絶大な権力を振るっている。〝ドン〟とは首領・ボスのことであり、その人物の一声で全ての物事が決まる比類ない権力者のことだ。その二階氏が自民党幹事長の要職にあり、しかも「GoTo事業」推進者として旗を振っているのだから、観光業界にとってはこれほど頼もしい存在はない。

 

地元の和歌山県では、二階氏の意向は文字通り「天の声」として扱われているらしい。「赤字空港」として有名な南紀白浜空港から日航が撤退したくてもできないのは、運輸行政に目を光らしてきた二階氏が許さないからだと言われている。実現可能性の低い「統合リゾート」の申請に和歌山県が手を挙げたのも、二階氏の強い意向があったからだとされる。また、和歌山大学が国立大学の中で唯一「観光学部」の設置が認められたのも、二階氏の影響が大きかった。関係者の話によると、文部科学省がなかなかウンと言わない中で、二階氏が斡旋に乗り出した途端、即座に設置認可が下りたのだという。

 

 観光業界のドンである二階氏にとって、安倍政権の打ち出した観光立国政策は文字通り「渡りに船」だった。2016年に自民党幹事長に就任して以来、二階氏はあらゆる手を使って幹事長ポストにとどまり、観光立国政策を活用することで勢力を拡げてきた。コロナ禍によって危機に瀕している観光業界に対して今年7月からスタートした「GoTo事業」も、二階氏が最高顧問を務める自民党「観光立国調査会」が政府に観光業者の経営支援や観光需要の喚起策などを要望したことが切っ掛けになっている。二階幹事長は「政府に対して、ほとんど命令に近い形で要望したい」と応じ、ここから「GoTo事業」が始まったのだ。要望実現に尽力した菅官房長官と二階幹事長との間に「密接な関係」が生まれたのはこの時とされ、以降、両氏はことあるたびに会合を重ねるようになったという。

 

この事業を1895億円で受託したのは、「ツーリズム産業共同提案体」だ。同団体は、全国旅行業協会(ANTA)、日本旅行業協会(JATA)、日本観光振興協会という3つの社団法人とJTBなど大手旅行会社4社で構成され、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会といった宿泊業の関連団体が協力団体として14団体が参加している。観光関連14団体からは、自民党「観光立国調査会」関係議員37名に対して、少なくとも約4200万円の献金が行われていることが、『週刊文春』(2020年7月30号)の取材で明らかになった。

 

一方、菅首相が観光立国政策に手を染めるようになったのは、2012年に政権復帰した第2次安倍内閣の中で官房長官に抜擢されたことに始まる。安倍内閣の「地方創生」戦略の中で、外国人を呼び込んで産業を振興する「観光立国政策」が重視され、菅氏が実質的な推進役となったことがその切っ掛けだった。インバウンド(外国人旅行者数)が年々増加する中、菅氏は観光立国政策を推進することが自らの政治的存在感を高め、権力の座を駆け上がる有力な道筋であることに確信を持ったからだろう。このときから「ポスト安倍」を狙う菅作戦がスタートしたのである。

 

しかし、菅氏には二階幹事長のように観光業界との「太いコネ」がなかった。そこで政策面で頼ったのが、後にブレーンとなるデービッド・アトキンソン氏(国際金融資本ゴールドマンサックス、元アナリスト)である。菅氏は「2013年から始めた観光立国の仕組みづくりに際して、アトキンソンさんの本を読み、感銘を受け、すぐに面会を申し入れた。その後何回も会っている」と語っている(『週刊東洋経済』(2019年9月7日号)。

 

アトキンソン氏は、菅官房長官によって安倍政権の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員に起用され、2020年4000万人、2030年6000万人のインバウンド目標(外国人旅行者数)を主導するキーパーソンとなった。著書『新・観光立国論』(東洋経済新報社、2015年6月)の中では、インバウンド目標は「2020年5600万人、2030年8200万人」が可能だと主張し、観光ビジョン構想会議の第1回ワーキンググループ会議(2015年12月)においても、この数値目標を強力に主張している。

 

こうして、二階幹事長と菅官房長官(当時)は政治と事業の両面で「果実」を分け合う関係になったが、このことが「菅政権」の誕生に結びついたことはまず間違いない。有力な派閥の後ろ盾を持たない菅氏にとっては二階幹事長の支援が不可欠であり、観光業界のドンである二階氏にとっては観光立国政策を推進する菅氏の存在が不可欠だったからである。研究会の席上でも、両者は早くから「ポスト安倍」戦略を練っていたという説が(きわめて)有力だった。安倍政権はその内に終わる、問題はその時に誰がどのような形でイニシアティブを取るかが政権の行方を決める...。二階・菅両氏はその日に備えて周到な準備を重ね、綿密な作戦を立てていたのだろう。情勢を読めない岸田氏や石破氏が完敗したのも「むべなるかな」というべきではないか。

 

その後も菅首相は二階幹事長に対し、「恩返し」ともいうべき大盤振る舞いを続けている。首相は12月11日、自民党国土強靭化推進本部本部長を務める二階氏と首相官邸で会談し、二階氏が国土強靭化の予算拡充を求める党の緊急決議を「不退転の決意で実行し、国民を安心させてもらいたい」と要請したのに対し、首相は「しっかり応える」と述べ、その日のうちに強靭化計画を閣議決定した。もともと国土強靭化計画は、この数年、全国各地で発生した集中豪雨による水害などに対する緊急3か年計画として策定され、2020年度で終わることになっていた。それが菅政権では2021年度から新たな5か年計画として継続され、しかも総事業費は15兆円という超大規模の予算に膨れ上がったのである(時事ドットコム12月11日)。

 

 二階幹事長にとっては「わが世の春」ともいうべきご時勢だろうが、しかしこの事態は長く続きそうにもない。「GoTo事業」の強行によってコロナ感染状況はますます悪化しており、12月12日現在で1日あたり新規感染者数は全国で3000人を超え、東京で621人といずれも過去最多を記録した。それとともに、内閣支持率も確実に低下し、12月12日実施の毎日新聞世論調査では、菅内閣の支持率は40%となり、11月7日前回調査の57%から17ポイントも下落した。不支持率は49%(前回36%)となり、菅内閣発足後不支持率が支持率を初めて上回った。

 

 菅政権の新型コロナウイルス対策については「評価する」は14%、前回34%から20ポイント下がり、「評価しない」は62%(前回27%)に大幅上昇した。新型コロナ対策の評価が下がったことが、支持率の大幅減につながったと分析されている。この事態に菅政権はどう臨むのか。「GoTo事業と感染拡大との関係について明確なエビデンスはない」として、依然として事業継続に固執するのか、それとも撤回して判断の誤りを認めるのか、菅首相は「瀬戸際」に追い詰められている。(つづく)

観光支援事業「Go To トラベル」に固執する菅首相、背後に二階幹事長の影が、菅内閣と野党共闘の行方(12)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その237)

 12月初めの京都新聞に「京都の感染者、なぜ少ない?」(12月4日)という記事が載った。京都は大阪に比べて繁華街の規模が小さくて接触の度合いが少ない、市民の警戒心も強いから―というのがその理由だ。ところが、その1週間後の朝日新聞には、「2日連続 最多更新、新たに感染者75人」(12月10日)との見出しが躍り、市民の間では一気に危機感が高まった。京都府内の11月26日から12月2日までの感染者数は162人(1週間合計)と比較的安定していたが、それが12月3日から9日までの1週間合計は308人といきなり倍近くに跳ね上がったからだ。

 

「GoToトラベル」の対象に東京発着分(10月1日から)が加わった頃から、京都を訪れる観光客が急に増え始めたことは誰もが感じている。京都市観光協会が毎月発行している「データ月報」(登録会員には毎月送付される)によれば、今年10月に京都市内の主要ホテルを利用した日本人客の延べ宿泊者数は、2019年同月より2%上回ったという。今年5月には前年同月比で95%減まで落ち込んでいたのだから、菅首相がこの話を聞いたらさぞかし喜ぶことだろう。尤も外国人の延べ宿泊者数の方は7カ月連続で「ゼロ状態」(99.8%減)が続いているので、両者を合わせると「半減状態」であることには変わりない。

 

京都の観光関係者は、紅葉シーズンの11月にはこの数字がもっと改善すると意気込んでいたが、問題はそれに伴うコロナ感染の拡大だ。11月21~23日の3連休の混雑ぶりは拙ブログにも書いたが、その影響が2週間後の今頃になってあらわれ始めたのかもしれない。12月9日に開かれた京都市対策本部会議によれば、12月4~8日の新規感染者のうち感染経路が判明しているのは86人、うち家庭内感染が37人(43%)、飲食の機会23人(27%)、職場11人(13%)と続く。一方、経路不明者は4割に上っており、市当局は「市中感染拡大の兆し」と警戒を強めている。12月9日の府内感染者75人のうち、京都市内は50人と過去最多を更新しており、門川市長も「強い危機感」を表明した(京都新聞12月10日)。

 

京都市民の多くは(観光業関係者を除いて)、「GoToトラベル」の波に乗って大量の観光客が京都を訪れることに日頃から強い警戒感を抱いている。日曜・休日などの嵐山、清水、祇園、伏見稲荷などの観光地は誰も寄り付こうとしないし、平日でも避ける人が多い。私自身も伏見稲荷大社の近くに住まいし、近くのお総菜屋さん(丁寧な味付けで美味しい)なども利用していたが、最近は滅多に近寄らなくなった。観光客相手のお店だけではなく、住民相手のお店までが影響を受けるようになってきている。聞けば、ご近所の方々も同様らしい。

 

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は12月9日、衆院厚生労働委員会で感染状況が2番目に深刻な「ステージ3」相当の地域について、「人の動き、接触を控えるべき時期だ」と述べ、観光促進事業の「GoToトラベル」を一時停止すべきとの認識を示した。尾身会長はすでに11月下旬の段階で、札幌市、東京23区、名古屋市、大阪市がステージ3相当のレベルにあると判断しており、東京都も含めて全ての人を対象に「GoToトラベル」を停止すべきとの見解を示していた(朝日新聞12月10日)。

 

ところが、政府の方は全く逆方向に動いている。12月8日には「GoToトラベル」を来年6月末まで延長し、当該予算3000億円を予備費から支出することを決定した。日頃は「専門家の意見」を尊重すると言いながら、いざとなれば「国の決定事項をすべて分科会にかけることはない」(田村厚労相)と言うのだから、これほどのご都合主義はない。要するに、専門家の意見は適当に「つまみ食い」するだけで、全ては菅首相の政治的意向が優先されることになっているのである。

 

だが、事態は急変している。1日当たりの全国の新規感染者数は12月10日、2973人と2日連続で過去最多を記録した。東京は602人と初めて600人を超え、千葉・埼玉でも過去最多と影響が広がっている。感染急拡大は東京、大阪、札幌ばかりでなく、もはや京都も含めて全国に波及しているのである。

 

12月11日の朝日新聞(大阪本社版)は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が11日の会合で議論する「提言案」を1面トップで紹介している。内容は、感染状況が4段階のうち2番目に深刻な「ステージ3」相当と分科会がみている地域を「減少」「高止まり」「拡大継続」に3分類し、「高止まり」「拡大継続」地域では観光支援事業「GoToトラベル」の一時停止を求めるというものだ。

 

菅首相と小池東京都知事は先日、65歳以上と基礎疾患がある人に限って都内発着の「GoToトラベル」利用の〝自粛〟を呼びかけた。だが、こんな生ぬるい対応でコロナ感染が収まるなどとは誰も考えていない。この程度の手打ちで「国民の命と暮らしを全力で守る」ことが可能になるのであれば、誰も苦労はしない。ドイツのメルケル首相が身を震わせ、国民にコロナ危機を訴えた光景とはあまりにも違い過ぎる。なぜ、菅首相はかくも「GoToトラベル」にこだわるのか、その背景に何があるのか、次回は二階幹事長の「影」も含めてその構図を分析する。(つづく)