観光支援事業「Go To トラベル」に固執する菅首相、背後に二階幹事長の影が、菅内閣と野党共闘の行方(12)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その237)

 12月初めの京都新聞に「京都の感染者、なぜ少ない?」(12月4日)という記事が載った。京都は大阪に比べて繁華街の規模が小さくて接触の度合いが少ない、市民の警戒心も強いから―というのがその理由だ。ところが、その1週間後の朝日新聞には、「2日連続 最多更新、新たに感染者75人」(12月10日)との見出しが躍り、市民の間では一気に危機感が高まった。京都府内の11月26日から12月2日までの感染者数は162人(1週間合計)と比較的安定していたが、それが12月3日から9日までの1週間合計は308人といきなり倍近くに跳ね上がったからだ。

 

「GoToトラベル」の対象に東京発着分(10月1日から)が加わった頃から、京都を訪れる観光客が急に増え始めたことは誰もが感じている。京都市観光協会が毎月発行している「データ月報」(登録会員には毎月送付される)によれば、今年10月に京都市内の主要ホテルを利用した日本人客の延べ宿泊者数は、2019年同月より2%上回ったという。今年5月には前年同月比で95%減まで落ち込んでいたのだから、菅首相がこの話を聞いたらさぞかし喜ぶことだろう。尤も外国人の延べ宿泊者数の方は7カ月連続で「ゼロ状態」(99.8%減)が続いているので、両者を合わせると「半減状態」であることには変わりない。

 

京都の観光関係者は、紅葉シーズンの11月にはこの数字がもっと改善すると意気込んでいたが、問題はそれに伴うコロナ感染の拡大だ。11月21~23日の3連休の混雑ぶりは拙ブログにも書いたが、その影響が2週間後の今頃になってあらわれ始めたのかもしれない。12月9日に開かれた京都市対策本部会議によれば、12月4~8日の新規感染者のうち感染経路が判明しているのは86人、うち家庭内感染が37人(43%)、飲食の機会23人(27%)、職場11人(13%)と続く。一方、経路不明者は4割に上っており、市当局は「市中感染拡大の兆し」と警戒を強めている。12月9日の府内感染者75人のうち、京都市内は50人と過去最多を更新しており、門川市長も「強い危機感」を表明した(京都新聞12月10日)。

 

京都市民の多くは(観光業関係者を除いて)、「GoToトラベル」の波に乗って大量の観光客が京都を訪れることに日頃から強い警戒感を抱いている。日曜・休日などの嵐山、清水、祇園、伏見稲荷などの観光地は誰も寄り付こうとしないし、平日でも避ける人が多い。私自身も伏見稲荷大社の近くに住まいし、近くのお総菜屋さん(丁寧な味付けで美味しい)なども利用していたが、最近は滅多に近寄らなくなった。観光客相手のお店だけではなく、住民相手のお店までが影響を受けるようになってきている。聞けば、ご近所の方々も同様らしい。

 

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は12月9日、衆院厚生労働委員会で感染状況が2番目に深刻な「ステージ3」相当の地域について、「人の動き、接触を控えるべき時期だ」と述べ、観光促進事業の「GoToトラベル」を一時停止すべきとの認識を示した。尾身会長はすでに11月下旬の段階で、札幌市、東京23区、名古屋市、大阪市がステージ3相当のレベルにあると判断しており、東京都も含めて全ての人を対象に「GoToトラベル」を停止すべきとの見解を示していた(朝日新聞12月10日)。

 

ところが、政府の方は全く逆方向に動いている。12月8日には「GoToトラベル」を来年6月末まで延長し、当該予算3000億円を予備費から支出することを決定した。日頃は「専門家の意見」を尊重すると言いながら、いざとなれば「国の決定事項をすべて分科会にかけることはない」(田村厚労相)と言うのだから、これほどのご都合主義はない。要するに、専門家の意見は適当に「つまみ食い」するだけで、全ては菅首相の政治的意向が優先されることになっているのである。

 

だが、事態は急変している。1日当たりの全国の新規感染者数は12月10日、2973人と2日連続で過去最多を記録した。東京は602人と初めて600人を超え、千葉・埼玉でも過去最多と影響が広がっている。感染急拡大は東京、大阪、札幌ばかりでなく、もはや京都も含めて全国に波及しているのである。

 

12月11日の朝日新聞(大阪本社版)は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が11日の会合で議論する「提言案」を1面トップで紹介している。内容は、感染状況が4段階のうち2番目に深刻な「ステージ3」相当と分科会がみている地域を「減少」「高止まり」「拡大継続」に3分類し、「高止まり」「拡大継続」地域では観光支援事業「GoToトラベル」の一時停止を求めるというものだ。

 

菅首相と小池東京都知事は先日、65歳以上と基礎疾患がある人に限って都内発着の「GoToトラベル」利用の〝自粛〟を呼びかけた。だが、こんな生ぬるい対応でコロナ感染が収まるなどとは誰も考えていない。この程度の手打ちで「国民の命と暮らしを全力で守る」ことが可能になるのであれば、誰も苦労はしない。ドイツのメルケル首相が身を震わせ、国民にコロナ危機を訴えた光景とはあまりにも違い過ぎる。なぜ、菅首相はかくも「GoToトラベル」にこだわるのか、その背景に何があるのか、次回は二階幹事長の「影」も含めてその構図を分析する。(つづく)