菅政権のダッチロール(その2)、国際テロ機密文書や尖閣ビデオがなぜ流出するのか

 菅政権が直面する内憂外患の「外患」は、いうまでもなく領土問題をめぐる軋轢だ。それも「前門の虎」は中国で「後門の狼」はロシアだというのだから、日本列島と「一衣帯水」の関係にある両大国から一度に挟み撃ちされたことになる。偶然なのか意図的なのかわからないが、まるで両国が申し合わせたような事態の出現だ。

 しかし菅政権のダッチロールの原因(もはやそれは政権の危機だといってよい)はこれだけにとどまらない。今回の「外患」は一連の「内憂」と連動しているところに大きな特徴がある。たとえば、尖閣諸島問題の発端になった中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突を撮影したビデオが、時を移さずインターネットの動画サイトに投稿されて内政問題化するとか、あるいは横浜でのAPEC開催を目前にして警視庁の国際テロ機密文書が流出し、菅政権の危機管理体制が問われるとかだ。

 与野党が対決する通常の内政上の課題なら、与党が結束してことにあたればよいが、菅政権の今回の「内憂」の中身がいずれも「民主党がらみ」であることが問題をより複雑化している。小沢問題は民主党自体の屋台骨にかかわる大問題であり、対処を誤れば屋台骨が崩壊する「内憂中の内憂」であるからだ。

また尖閣ビデオの流出問題は、「政治主導」を掲げてきた民主党政権に対して、官僚機構が「反旗」をひるがえした兆候ではないかといわれている。国家権力の執行機関である官僚機構が政権政党の意に従わないとなれば、政党政治は瓦解する。いずれもが政権政党の統治能力の根本にかかわる危機的問題だといえよう。

事実11月6日から7日にかけての各紙は、尖閣ビデオの流出問題の性格を「霞が関の倒閣運動」、「官僚による情報クーデタ―」(朝日)、「霞が関の疑似クーデター」(毎日)とかいった表現で伝えている。また民放テレビなどでは、「倒閣テロ」といった過激な言葉がトークショーで飛び交っている。それもマスメディアの造語ではなく民主党幹部の発言の引用だから、事態は容易ならぬ状況にあるといえる。

 だが警戒すべきは、ここにきて危機的状態を「右」から打開しようとする動きが急浮上してきたことだ。テレビなどではタカ派の元外交官や外交評論家、みんなの党の幹部などが、「普天間基地問題で日米同盟が揺らいだので、中国やロシアに好き放題にされている」とか、「日米同盟の強化なしには今後の外交は乗り切れない」といった趣旨の主張を強硬に唱え始めているのが、その証拠といえるだろう。

 これらタカ派イデオローグの狙いは、およそ次の3つの政治課題を一挙に突破しようとすることにある。第1は、目下戦われている沖縄の知事選挙で基地容認派の現職知事に有利な世論状況をつくりだすこと。第2は、その余勢を駆って名護市辺野古地区への基地移転を既成事実化し、日米合意を具体化すること。第3は、これからの大政治問題となるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加世論を組織することだ。

 すでにTPPに乗り遅れると「世界の孤児」になるとか、TPPへの参加は日本経済立て直しの「千載一遇のチャンス」とかの大キャンペーンが日経、朝日、読売など全国紙で始まっている。そしてこのキャンペーンの最中に発生したのが中国やロシアとの領土問題だった。計画的に事を起こしたとまではいえないが、しかし偶然の事態にしては「出来過ぎている」ことも事実だ。

 おそらく今後のマスメディアの論調は、これら領土問題をテコにして国民のナショナリズムを適当に煽りながら、その結末を「領土問題の打開」→「日米同盟による安全保障の強化」→「普天間基地問題の県内移設解決」→「TPP参加」へと操作・誘導していくのだろう。そして菅政権がこれらの課題を解決できないときは、財界と官僚による公然とした「倒閣運動」が組織され、自民党への「再政権交代」が起こるのか、それとも「大連立政権」が成立するのかのいずれかの道が選択されることになるだろう。(つづく)