菅政権のダッチロール(その1)、小沢氏を切れない理由

 8月に北朝鮮を訪問してからこの3カ月、もっぱら北朝鮮問題やそれに関連する中国問題について書いてきた。国際政治を専門にしているわけでもない私が、自分の個人的な興味や関心を文字にすることの不安は免れない。しかし、この種の「素人談義」も現在の政治社会情勢のある種の反映には違いないので、読者諸兄(姉)には理解と寛容をいただければと思う。

 そこで再び国内問題に戻るが、3ヶ月間留守にしていたこともあって、主たるテーマをどこに設定するかが悩みの種だ。というのは、この間、菅政権の迷走状態・「ダッチロール」が一段と深刻化し、直近の世論調査では内閣支持率が71%から一気に40%へ急降下するなど(日経、11月1日)、いつ不時着(墜落)してもおかしくない政治状況になってきたからだ。

 また来年4月の統一地方選挙を控えて、橋下大阪府知事や河村名古屋市長など「専制首長」の動きも過激化する一方だ。これら専制首長は、自分の主義主張が議会で認められそうにないと、政策変更して説明責任を果たすのではなく、議会そのものを弱体化して「専制政治」を強行しようとする危険極まりない人物だ。自らの政治姿勢を「維新改革」だの「市民革命」だのマスメディア受けするキャッチコピーで僭称しているが、その正体は、憲法地方自治法が定めている議会と首長の二元代表制をぶち壊して、自らの手兵だけで地方政治と地方行政を支配しようするファシズム体制そのものだ。

 そこで菅政権の分析から始めたいが、一言でいって「ダッチロール」状態の原因は、菅首相が「内憂外患」の諸課題に対して明確な施政方針を示せず、いまや絶望的ともいえる失速状態に陥っていることが根本にある。操縦士が飛行目標を見失い、コントロール能力を失えば、機体がダッチロールを繰り返すようになるのは避けられない。

「内憂」の中身はいうまでもなく「小沢問題」だろう。検察審査会が小沢氏の強制起訴を決議して以降、小沢氏に対する世論の風当たりは一段と強くなっている。普通の国会議員ならもうとっくに辞職に追い込まれているところだが、カネと派閥が「権力の源泉」だとして政治生活を送ってきた小沢氏には、この種の常識論は通用しない。

 小沢氏は、これまで一度も「政治とカネ」に絡まる自らの疑惑について国会で説明したことがない。複数の政治秘書が逮捕され起訴されているにもかかわらず、自分だけが「嫌疑不十分」で不起訴になると、それがあたかも「清廉潔白」の証しであるかのようなすり替えの主張で、「説明の必要ナシ」との態度を取り続けてきた。

 しかし検察審査会の強制起訴決議によって逃げられなくなり、いよいよ司法手続きが始まると、今度は「司法の場で事実が明らかになるので、国会での説明は不必要」との理屈(屁理屈)をつけて国会に出てこない。昨日のインターネット会見では1時間を超える饒舌ぶりを披露したが、国権の最高機関である国会に対しては「一切説明の必要ナシ」というわけだ。

このことを一般的にいえば、「政治家としての道義的責任や政治的責任を果たしていない」ということになるが、ありていに言えば、「刑事事件にさえならなければ、政治家はどんなことをしてもよい」ということを放言しているとの同じだ。小沢氏自身は、師と仰ぐ田中角栄元首相の「(刑務所の)塀の上を歩いていても、塀の中に落ちなければよい」という政治理念を実践しているのだろうが、それでは民主党自民党と何ら変わらなくなる。

だが、「選良」としての国会議員を期待している国民にとっては、この種の政治家はもはやスクラップする以外に方法がない。「政治家なんてそんなものだ」なんて諦めていると、国会は「嫌疑不十分の容疑者」ばかりになってしまう。「不起訴」にならなければ、国家権力(検察)によって「身の潔白」が証明されたなどということになると、「政治主導」を掲げる民主党マニフェストが泣くのではないか。

それに国会の政治倫理審査会や証人喚問が「非公開の密室討議」で、公判だけが「公開の場」だという小沢氏の言い分も理解できない。たしかに政治倫理審査会はそうかもしれないが、証人喚問は国会さえ承認すればテレビ中継もできるし、国民にすべてを公開できる。「嫌疑不十分」となった「政治とカネ」の問題について呵責のない追求が行われ、それに対して小沢氏がいかなる表情で答えるのか、国民は一部始終を知ることができる。「身の潔白を晴らす」とは、こういうことをいうのだろう。

このように国民の目には、小沢氏の態度は「政治家の風下」にも置けない事態に映るが、しかしこの事態は菅首相にとってはむしろ「歓迎すべき事態」であったことに注目する必要がある。なぜなら菅氏は「反小沢」で政権の座に就いたものの、もともとそれを実行するだけの定見も政治力もない人物なので、小沢氏を切り捨てる政治的決断ができないからだ。

もし菅首相が小沢氏を証人喚問に踏み切れば、小沢氏はもはや「逃げも隠れもできない」状態になる。しかし同時にこのことは、小沢氏の離党と民主党分裂の引き金になるという危険性をはらんでいる。いまでも参議院過半数を持たない菅政権が、かくなる分裂状態の下で国会運営をできるとは考えられない。小沢氏の証人喚問は、菅政権の崩壊に直結する導火線であり、火薬庫なのである。(つづく)