雄勝地区震災復興まちづくり協議会の「全世帯アンケート調査」は大きな意義をもつものだ、しかし“重大な欠陥”があった、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(番外編5)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その56)

「復興まち協」が発足する以前に石巻市が行ったアンケート調査には、全市規模の『石巻の都市基盤復興に関する市民アンケート』(2011年5月実施、6月結果発表)がある。この調査は以前にも書いたように、「これほど杜撰な調査はない」(詳しい理由は7月16日の日記を参照してほしい)といってもおかしくないほどの酷い代物だった。雄勝地区に関して言えば、273の調査票が回収され、回収率は僅か16.7%(273/1637世帯)だった。

調査結果のなかで石巻市が高台移転計画の推進に当たって最大限利用したのは、「今後のお住まいの希望は」、「今後のお住まいの場所は」という2つの簡単な質問の回答である。雄勝地区の「自宅が流失・全壊」した216世帯の回答内訳は、「被災前の場所(自宅)に住みたい」33世帯、15.3%、「被災前と同じ地域に住みたい」45世帯、20.8%、「市内の他の地域に移転したい」121世帯、56.0%、「市外へ移転したい」17世帯、7.9%というものであり、「他の地域に移転したい」とする“希望”が2/3近くの138世帯、63.9%に及んでいたのである。

しかし、雄勝地区の「復興まち協」では一部の委員からこの調査方法や結果に対する疑問の声が上がり(当然だろう)、また支所担当事務局も改めて被災者の意向調査をしないとこのままでは押し切れないと考えたのか、特別養護老人ホーム入居者と死亡・行方不明を除く全世帯に郵送でアンケート調査を7月に実施することになった。調査項目は、①世帯と自宅に関する基本項目5問、②雄勝地区での居住意向の有無とその理由5問、③津波による浸水地域の居住地としての利用可能性1問、④震災後の現住地、住居形態および雄勝地区に居住する場合に必要な施設や条件4問、⑤津波避難時の状況5問、⑥雄勝の魅力とこれからの希望2問(自由回答)である。

調査結果は、全体として雄勝地区住民・被災者の率直な気持ちとニーズを反映したものとなった。また回収状況も調査世帯数1562、回収数834世帯(うち有効回収数777世帯)、回収率53.4%(有効回収率49.7%)となり、過酷な避難生活が続いているにもかかわらず町外被災者も含めて住民の関心は高かった。この点で「復興まち協」による全世帯アンケート調査は、被災者のニーズを把握するうえで大きな意義をもつものといわなければならない。

しかしながら残念なことに、このアンケート調査は回答方法に関して“重大な欠陥”があり、統計的に意味をなさない分析が随所に見られる。これは主に事務局およびアドバイザーの責任に帰するものであろうが、その知見水準(の低さ)には疑問の余地が大きい。主な結果は以下の通りである。

(1)今後の居住意向に関しては、「雄勝居住派」(雄勝に住む、住みたい172世帯、22.1%)と「他地区移転派」(雄勝には住まない144世帯、18.5%)がほぼ拮抗し、両者の中間に「条件付き居住派」(雄勝に住みたいが条件・環境次第だ267世帯、34.4%)と「未定派」(まだ決めていない186世帯、23.9%)が位置する。条件付き居住を加えると、「雄勝居住派」が777世帯のうち432世帯、55.6%と過半数を占める。

(2)次に雄勝に住む場合、希望する場所を「雄勝居住派」432世帯に限って尋ねているが、しかしこの場合の回答をなぜ「複数回答」にしたのかその理由がよくわからない。おそらく「どこにするか」を迷っている世帯があることを想定して「複数回答可」としたのであろうが、そうなると「以前の家の場所」と「高台など新規宅地」を複数回答するケースも排除できないことになり、アンケート結果全体が論理矛盾となって分析不能に陥る。また複数回答合計435に「無回答」41を加えた476を分母にして各回答の内訳を計算しているが、これなどは信じられないような統計処理上の“初歩的なミス”であり、分母は432世帯でなければならない。
したがって、このアンケート結果は原理的に“二重の誤り”を含むものとなり、学術的な検討はおろか社会的な評価にも到底耐えられないレベルのものだといわなければならない。しかし「雄勝居住派」432世帯のうち「無回答」41を除く391世帯の複数回答合計は435、世帯当たりの平均回答数は1.1なので、複数回答した世帯がそれほど多くないとすれば、これらの点を一応考慮した上での結果は、「現地再建派」(以前の家の場所160世帯、37.0%、以前の地区116世帯、26.9%)が合わせて276世帯、63.9%と過半数を占め、「隣接地区など」28世帯、6.5%、「高台移転派」129世帯、29.9%となる。 
(3)また「他地区移転派」116世帯に対しては、「雄勝に住まない理由」(複数回答、この場合の複数回答は適切だが、回答比率の計算方法は間違い)を尋ねている。住まない理由の主なものは、「震災(の再来)を考えると住めない」62世帯、53.4%、「必要な施設がない」16世帯、13.8%、「転居できる住居、建築できる土地がない」21世帯、18.1%、「職や収入が得られない(失われた)」14世帯、8.6%、「蓄えやローンの問題で住居を再建できない」22(11.3%)、「雄勝に住む必要や理由がない」37(19.0%)、「その他」20(10.3%)というものである。

(4)さらに、津波浸水地域の居住地としての利用可能性に関する質問(複数回答可)についても同様の欠陥を指摘できる。具体的には、「いかなる対処をしても居住不可」という回答とその他の「工夫して居住」に関する回答群の複数回答は論理的にあり得ないにもかかわらず、それが選択可能になっているからである。また回答内訳の比率計算の分母が複数回答と無回答の合計ではなく、有効回答777世帯であることも論を俟たない。 
そこで上記のような「居住不可」と「工夫して居住」の複数回答はないと一応仮定して回答内訳をみると、「地盤嵩上げ派」(道路や土地をかさ上げして居住)が270世帯、34.7%となって最大となり、次いで「堤防復旧派」(震災前の堤防を復旧して居住42世帯、5.0%、震災前より高い堤防を設置して居住175世帯、22.5%)が217世帯、27.9%と続き、これに「その他工夫派」103世帯、13.3%を加えると、津波浸水地域を居住地として再建可能と考えている住民は590世帯、75.9%となり圧倒的多数派となる。これに対して「居住不可派」(いかなる対処をしても居住不可105世帯、13.5%、その他20世帯、2.6%)は125世帯、16.1%と少数派にとどまっている。なお「無回答」138世帯、17.8%である。

 以上から雄勝地区の全世帯アンケート調査結果は、もし津波浸水地域が居住地として再建されれば、「雄勝居住派」172世帯、「条件付き居住派」267世帯、「未定派」186世帯が合流して“地元再建派”が618世帯、8割に達する可能性を示唆する。言い換えるなら、今回の大津波によって壊滅的な被害を蒙った雄勝地区においても、なお従前地にとどまりたいとする被災者・住民が大半を占め、他地区への移転を希望する世帯は2割弱にとどまっているのである。なのに、なぜか復興まち協の市長への「要望書」の結論は“高台移転”に書き変えられた。(つづく)