第2回目、雄勝支所による「高台移転意向調査」(調査世帯数1211、有効回収世帯数758、回収率62.6%)は、3カ月後の2011年10月に行われた。この調査はすでに「番外編6」でも書いたように、前文で「石巻市では津波で浸水した区域以外の安全な土地に住宅団地を造る計画を検討しておりますが、造成は希望者の数だけに限られます」とか、「今後住みたい場所」に関する質問では、「雄勝地区以外(旧石巻市、仙台市、その他)」と「まだ決めていない」に回答した住民に対しては、「②③を選択された方はこれで調査終了となります。ご協力ありがとうございました」といった露骨なコメントを付けるなど、まるで高台移転計画に賛同する被災者だけが行政施策の対象であるかのような(それ以外は勝手にしろと言わんばかりの)高圧的態度のもとで行われた調査だった。
10月調査の結果で注目されるのは、前回調査から僅か3カ月しか経過していないにもかかわらず、調査世帯数が1562世帯から1211世帯へ激減していたことだ。調査対象数が351世帯(22.5%)も減ったのは、住民登録数の減少すなわち他地域への転出が本格化したためだろう。これを震災前の1637世帯と比較すると、津波による犠牲者を含めて1/4の426世帯(26.0%)が半年間で減少したことになる。
また、回答を寄せた758世帯の今後の希望する居住場所については、「雄勝地区に住みたい」347世帯45.8%、「雄勝地区以外に移転する」231世帯30.5%、「未だ決めていない」180世帯23.7%という内訳になった。しかし前回と同様、無回答の453世帯を転出希望世帯とみなして再計算すると、「雄勝居住派」28.7%、「転出派」56.5%、「未定派」14.9%となって、すでに雄勝地区を離れた世帯を除いても「転出派」が依然として増え続けており、過半数を上回っていることが判明した。
これは石巻市や雄勝支所が、雄勝地区に住みたければ高台移転に同意する他はなく、高台移転に同意しないときは他地区への転出以外に道がないという“オール・オア・ナッシング”の選択を被災者に強要したことの結果だろう。被災者には多様な個々の事情がある以上、復興への道もまた多様でなければ被災者のニーズに寄り添うことができない。これが復興政策の鉄則だ。しかし雄勝地区で現実に起こったのは、被災者のニーズに応じて復興計画を考えるのではなく、国や県から指示された施策メニューにしたがって復興計画をつくり、それに合わない被災者には「これで調査終了となります。ご協力ありがとうございました」として責任放棄(棄民)することだったのである。
それから半年後、2012年春から夏にかけて行われた最終意向調査において、「高台移転」に同意する被災者はついに280世帯788人にまで縮小した。これに辛うじて津波災害を免れ、住民登録上は現住しているとされる395世帯1032人を加えると、雄勝地区に残る世帯は675世帯1820人となる。震災前の1637世帯4300人と比較すると世帯数で41.2%、人口で42.3%しか残らない(残れない)。しかし住民登録は残したままで実質的には他地域で生活をしている事例も相当数見られるので、実際の居住世帯数はもっと少なくなり3割台に落ち込むことが予測される。これが雄勝未来会議の示した「雄勝地区震災復興まちづくり計画」の全容である。
加えてもうひとつの問題を指摘しよう。それは、3回の住民意向調査の結果がいずれも正式の調査報告書として公表されていないことだ。調査結果は断片的資料としてその都度出されることはあっても、調査世帯の家族構成や年齢、就業形態や所得など、世帯の基本属性ひとつすらわからないのである。したがって4割の世帯が残ると言っても、それが若者世帯なのか高齢者世帯なのか、人口の年齢構成がどうなっているのかも不明だ。このことは、雄勝支所担当者が住民意向調査の「イロハ」も知らない程度の人物であることを示している。
震災復興まちづくりは、一時的な「デザイン・イベント」ではない。住民・被災者が将来にわたって持続的な生活を営める生活空間・生活基地をつくるというきわめて息の長い仕事なのだ。だから“土木建設事業”としての高台移転工事を実施すれば事が終わるのではなく、それから先の住民生活が安定的に形成されるかどうかを見通すことが「復興まちづくり」の要諦となる。こんなことも知らないのではとても「アドバイザー」は務まらないし、いくら「建築デザイナー」だといっても大学教員としては失格だろう。
とすれば、雄勝未来会議は高台に移転する280世帯788人も含めて雄勝地区の将来展望を示すことが求められる。生活全般についての展望が難しければ、少なくともその基礎となる将来人口推計ぐらいは示す責任があるというものだ。5年後10年後さらには20年後の高台移転世帯の人口は、5歳刻みの性別人口資料さえあれば簡易推計によって即座に求めることができるのである(コーホート推計法)。
将来人口推計はすべての「復興まちづくり」の基本だ。地域の要である学校ひとつを取って見ても、将来の児童生徒数を予測できなければ学校運営が成り立たない。だからこそ、2012年度の第2回石巻市震災復興推進本部に提出された小中学校の復旧整備計画についての教育委員会資料(2012年4月)には、市内各小中学校の「児童生徒数の長期見込み」(2011年度〜2021年度)が今後10年間にわたって算出されている。これは将来人口推計に基づかなければ算出できない数字である。
ちなみに雄勝地区の学校施設復旧整備計画は、「2013年4月に船越小学校と雄勝小学校に統合する。統合小学校と雄勝中学校の本校舎の建設は、雄勝地区の住環境の整備に合わせて大浜地区に小中併設校として建設する。なお大須小学校と大須中学校は、併設校開校時にそれぞれ統合する」となっている。2011年3月時点で見込まれた雄勝小学校の児童数91人が2012年4月には51人に落ち込み、さらに2021年4月には22人へ縮小すると予測されている。そしてこのことは、子どもを持つ若い家族および将来子どもを持つであろう若者がすでに現在時点で数多く雄勝地区外に転出していることを意味する。若者に見放される地域に「未来」がないことは言うまでもない。
おそらく雄勝未来会議は、高台移転世帯の「未来」を示すことができないのであろう。雄勝地区に見切りをつけて転出する世帯には若者世帯が多く、残る世帯に高齢者世帯が多いことはもはや誰でも知っていることだ。住民登録業務を所管する雄勝支所がその気になれば、世帯構成や年齢構成などは即座に算出できる。それをしないで高台移転世帯数だけしか公表しないのは、高台移転世帯のほとんどが高齢者世帯で占められているからだろう。
高台移転事業が完成するまで早くて3年、通常は数年程度かかるとされている。その間、従前居住地は災害危険区域に指定されて住宅建築は禁止され、被災者は仮設住宅での仮住まいを強要されることになる。だが高台移転希望世帯には容赦なく高齢化の波が押し寄せ、移転するための意欲やエネルギーが日々削がれていくことは避けがたい。だから高台移転工事が完了した頃、移転を希望していた世帯から相当数の脱落者が出ることが予測される。またたとえ移転したとしても、高齢者世帯にとっての高台生活が決して快適なものでないことは容易に想像できる。高台移転事業が始まり、事業が完了する頃から、雄勝地区の本格的な“ゴーストタウン化”がスタートするのである。(つづく)