“地元再建”の被災者ニーズを乱暴に踏みにじった「要望書」、そして高台移転計画に被災者を追いたてる「意向調査」、平成大合併がもたらした石巻市の悲劇(番外編6)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その57)

雄勝地区の全世帯アンケート調査結果が「復興まち協」でどのように議論されたのか、私は詳しく知らない。しかし7月29日に市長に提出された「要望書」なるものは単なる要望事項の羅列にすぎず、それを裏付ける討議資料(議論らしい議論がなかった)もアンケート調査結果も添付されていない。冒頭の「住宅の再建」に関する要望事項は、次の2点が箇条書きされているだけだ。

雄勝に戻りたい人を受け入れるため、災害公営住宅を原地区(筆者注:雄勝中心部から2キロ以上も離れた山間地)に早急に建設するように要望する。高齢者も低所得者も入れる住宅として建設する。

②「地域コミュニティ」の再生・復活を目指し、早急に各地区ごと津波被害のなかった高台を、居住希望者が住宅を建てられる用地として造成により必要面積を確保するよう要望する。

要するにここに書かれていることは、各地区の住宅再建が全て高台移転が前提になっており、津波浸水地域を居住地として再建する方向は完全に否定されているということだ。これではそもそも全世帯アンケート調査をした意味がないし、いったい誰がどのような権限で「要望書」を作成したのかも不透明である。また大学アドバイザーがどのような「助言」をしたのかもわからない。

この間の事情を垣間見せる記事がある。それは「復興まち協」が「要望書を市長に提出する段階で、すでに協議会内部では一部の委員から時間が経つに連れ、高台ではなく元の居住地で生活を望む住民が増えてきたという意見もあった。(しかし)同じ被害を繰り返さないため、移転を望まない住民には粘り強く説明し、理解を求めていくことで一致した」というのである(三陸河北新報、2011年7月30日)。

「復興まち協」の意見が果たして「移転を望まない住民には粘り強く説明し、理解を求めていく」ことで“一致”したかどうかはわからないが、支所担当者にとっては上からの至上命令である「高台移転ありき」が当初からの大前提なので、住民アンケート調査でいかなる結果が出ようとも「結論は最初から決まっていた」ということなのだろう。言い換えれば、支所担当者の思惑で住民合意のもとに復興まちづくりの「要望書」をつくるという一応の体裁はとられたものの、アンケート結果が予想(期待)に反して浸水地域の再建を求めるものだったので、それらを一切無視して強引に高台移転の結論を押し付けた(押し切った)ということだ。

国土交通省の『東日本大震災の被災地で行われる防災集団移転促進事業』(2012年5月)の解説書には、「被災者の集団移転に関する合意形成」が強調されている。これは防災集団移転促進事業(防集事業)があくまでも“任意事業”(強制的事業ではない)であるため、事業に反対する被災者(地権者)に対しては土地収用などの強権的手法がとれないためだ。したがって雄勝支所担当者のような専制的態度は“論外”と言え、もしこのような実態が暴露されれば事業計画そのものが取り消される可能性もあるといわなければならない。

にもかかわらず、「要望書」提出以降は、支所担当者の手で高台移転計画が一方的に進められていくようになる。10月半ばには雄勝支所から地区全世帯に対して突如『雄勝地区、住宅高台移転に伴う意向調査』が実施されたが、その内容たるや、意向調査そのものが被災者を被災地域から高台移転に向かって追い立てる一種の脅かし(ブラウ)のような性格を帯びている。

たとえば、前文において「石巻市では津波で浸水した区域以外の安全な土地に住宅団地を造る計画を検討しておりますが、造成は希望者の数だけに限られます」(早く決めないと高台に移れないよ!)と脅かすとか、「今後住みたい場所はどこでしょうか」という質問に関しては、「①雄勝地区」「②雄勝地区以外(旧石巻市仙台市、その他)」「③まだ決めていない」の3つの回答を用意したうえで、「②③を選択された方はこれで調査終了となります。ご協力ありがとうございました」(雄勝地区に残るもの以外は今後面倒見ないよ!)といった行政責任を放棄した露骨なコメントを付けるなどがそれである。

被災者の人権をこれほど蔑(ないがしろ)にした「高台移転意向調査」などおそらく全国どこにもないと思うが(国土交通省担当部局、都市局都市安全課の係官もきっと驚くのではないか)、しかしこれが「世界の復興モデル都市」を目指す石巻市復興計画の現実の姿であり、雄勝地区高台移転担当者の実際の言動なのだから、後は推して知るべしだろう。

だがこれほど露骨な圧力をかけられても、雄勝地区の被災者はなかなか決断できなかった。無理もない。高台に移転すれば確かに命(だけ)は助かるかもしれないが、日々の生活(漁業や商店などの仕事、買い物、病院通い、通勤・通学など)が果たして成り立つのか、移転費用は調達できるのか、顔見知りの人たちと一緒に暮らせるのか、余命幾ばくもないのにそもそも移転する必要があるのかなど、山ほどある心配が何ひとつ解決されていないからだ。

「高台移転意向調査」の結果は、支所担当者の思惑を大きく外れるものだった。1211世帯のうち今後の居住場所について希望を表明したのは半数足らずの578世帯、47.7%(雄勝地区に住みたい347世帯、雄勝地区以外に移転する231世帯)だけで、残り633世帯、52.3%(未定180世帯、無回答453世帯)からの回答は得られなかった。常識のある行政担当者なら、過半数の被災者が判断を下せないような状況の下では、高台移転計画を強行することなど躊躇したかもしれない。だがこの担当者は違った。既定方針を何ら疑うことなく、また何ら躊躇することなく、それ以降も引き続き高台移転計画に邁進したのである。(つづく)