堺市長選の政治的本質は何か、それは“自民党分裂選挙”すなわち「国家保守=橋下維新」vs「地元保守=大阪自民」の戦いなのだ、堺市長選の分析(その13)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(43)

 全国注目の的の堺市長選がいよいよスタートした。マスメディアがこの選挙の政治構図をいったいどう描くのか、9月に入ってから各紙の論調を丹念にフォローしてきた。だがその感想を一言でいえば、各紙ともお決まりの「大阪都構想対決」一色で目の覚めるような斬新な切り口は見られない。どれもこれもが同じ「ワンパターン報道」ばかりなのだ。朝日・毎日から読売・産経までが同じ論調だとすると、読者にはこの市長選の政治的意義がさっぱり読み取れなくなる。いったいどうしてなのか。

 私は、この「ワンパターン報道」の原因を単なるマスメディア報道の劣化現象だとは思いたくない。鋭敏な政治記者ならおそらく誰もがその「内幕」に気付いているのであろうが、それが記事にならないのは、各社首脳部やデスクがその論調を抑えているか、あるいは様子見をしているからだろう。それほど堺市長選の政治的影響は大きく、今後の日本の政治構造を占う重大な「先行現象」(予兆)なのである。

 結論から先に言うと、私は堺市長選の政治的本質は“自民党分裂選挙”だと思っている。これまで「包括政党=国民政党」としての性格が強かった自民党が、支配体制の利益を第一義的に追及する「国家保守=ネオコン」と地元利益を重視する「地元保守=旧保守」に分裂し、その最前線での対決が堺市長選となって展開されているとの見立てである。自民党が安倍政権のような「国家保守=ネオコン」に急傾斜していくにつれて、これまで「国民政党」だと自負していた自民党の体質が急変し、「保守」の本流であるはずの「旧保守」が自分の居場所を失うような事態が全国各地で出現してきているからである。

 大阪では早くから自民党の弱体化が進行していた。中小企業や自営業が多くて社会階層の多様化(分極化)が進み、自民党が「包括政党」の役割を果たすのが難しかったためだ。しかし、自民党が長年にわたって国家権力(予算)を掌握する政権政党であったことから、「開発政党」としての役割を存分に発揮して、土木公共事業中心(鉄とコンクリート)の地域開発・都市開発を大々的に推進してきた。そのおこぼれが何とか大阪での自民党の政治基盤を支えてきたのである。

 だが、堺・泉北臨海コンビナートや大阪港の舞州(まいしま)、夢州(ゆめしま)、咲州(さきしま)などの巨大埋め立て事業が開発目的を達成できず、経済的にも財政的も破綻するに及んで、「開発政党」としての自民党に赤信号がともった。その象徴的な出来事が「2008年大阪オリンピック」誘致の大失敗である。大阪は2001年IOC総会(モスクワ)の第1回投票で立候補5都市中最下位の6票しか取れず、世界に大恥を曝した。「大阪オリンピック」の誘致は、橋下大阪市長がいうように「大阪都」でなかったから失敗したのではない。土木事業中心の都市開発に失敗した結果、買い手のつかない埋立地を後始末(処分)するためにオリンピックを誘致しようという、大阪の“卑しい魂胆”が世界に見破られただけのことなのだ。

 高度成長時代を通して肥大化した大阪の開発行政が限界に達して破綻し、開発政党としての自民党が政治的にも行き詰っていたころ、そのなかに2つの政治的潮流が生まれた。ひとつは開発主義の誤りを是正し、大阪の歴史文化や都市生活の伝統を生かして大阪を再生させようとする「地元保守=旧保守=環境保守」の路線である。もうひとつは、開発の破綻をさらなる大開発で突破(糊塗)しようとする「国家保守=ネオコン=開発保守」の路線である。だがこの路線対立は、橋下大阪府知事が誕生するまでは自民党の組織的分裂につながらなかった。

 ここまでくれば、もうその後の説明は必要ないだろう。大阪維新の会の結党を契機にして自民党は組織的に分裂し、「国家保守=橋下維新」と「地元保守=大阪自民」に明確に分かれたのである。大阪ダブル選挙はその最初の「大戦」(おおいくさ)であったが、当時はまだ橋下維新がマスメディアの世界では「第3極」などと持て囃されていて、「国家保守=ネオコン」としての姿が露わになっていなかった。新聞論調を信じる以外にさしたる判断基準を持たない大阪府民・市民が、橋下・松井コンビを選んだのも無理はない。

 だが、堺市長選は違う。支配体制の利益を第一義的に追及する「橋下維新=国家保守=ネオコン」と地元利益を重視する「大阪自民=地元保守=旧保守」の対決構図はいまや明確すぎるほど明確だ。だから、竹山氏や大阪自民がどれだけこの事態を正確に認識しているかどうか別にして、開発主義の誤りを是正し、堺の歴史文化や都市生活の伝統を生かして堺を再生させようとするのであれば、「地元保守=大阪自民」と「革新リベラル=共産・諸派」の連携が堺市長選で成立しても何らおかしくない。むしろ当然であり、必然的な成り行きだといえる。

 堺市長選にあらわれたこの新しい対決構図、すなわち「国家保守=ネオコン=開発保守」vs「地元保守=旧保守=環境保守」+「革新リベラル=共産・諸派」は、今後同様の問題を抱える全国各地に波及していくだろう。すでに沖縄では米軍基地問題をめぐって実質的な共闘が成立しているし、原発再稼働問題を抱える福島でもその兆候があらわれている。また北海道ではTPP問題を契機にして安倍政権と「地元保守」との対立が激化しており、「革新リベラル=共産・諸派」との連携が進んでいる。(つづく)