堺市長選の勝利はいかに橋下維新に打撃を与えたか、“ポスト堺市長選”の政治分析、『リベラル21』の再録(その6)

 「堺市長選の分析」シリーズの最終回から10日経った。この間、多くの堺市民の方からメールや電話でいろんなご意見や反応をいただいた。大きく分けるとその反応は3つになる。第1は、市長選後の堺市のまちづくりについて勉強会や意見交換会を企画するので参加しないかという市民グループからのもの。第2は、堺市の都市計画の大問題であるLRT(高性能路面電車)計画を再検討するので意見を聞きたいという有識者からのもの。第3は、私の書いたブログを出版したいと思うがどうかという有志からのものだ。

 いずれも貴重なご意見であり問題提起だと思うので、「出来るだけご期待に添いたい」と返事した。でもこれらの企画が具体化するのには一定の時間がかかるだろうから、それまでは『リベラル21』に目下連載中の「ポスト堺市長選の政治分析」シリーズを再録することで少し考える時間をいただきたい。なお『リベラル21』は、ジャーナリスト・翻訳家・書評家・画家・評論家・研究者など多彩なメンバーが交代で執筆するので、私のブログの掲載は週1回あるいは10日に1回程度になる。間延びすることは承知のうえで読んでいただければ幸いと思う。

【再録】堺市長選後にいま大阪市議会・大阪市役所で起っていること、維新市議会議長は辞職するか、ポスト堺市長選の政治分析(その1)〜関西から(116)〜

 随分長く『リベラル21』への投稿を休んでしまった。「申し訳ありません」の一言に尽きる。でも、決してズル休みをしていたのではない。堺市長選を“天下分け目の大戦(おおいくさ)”だとみなす橋下維新共同代表と同じく、一介の「橋下ウォッチャー」である私も(正反対の立場から)危機感を共有していたので、「枯れ木も山の賑わい」とばかり堺市長選にブログで参加していたのである。

 選挙戦は時々刻々と変化する。だから選挙情勢をリアルタイムで伝えようとすれば、ブログを毎日書かないと情勢に追いつけない。そんなことで『リベラル21』をしばらく休ませていただき、自分のブログ(広原盛明のつれづれ日記)に集中することにしたのである。もし選挙中の模様を詳しく知りたい方がおられれば、拙ブログを読んでいただければ幸いと思う。

 今日10月6日は、堺市長選の投開票日からちょうど1週間目にあたる。マスメディアの報道もほぼ一段落し、選挙結果についても各紙の論評が出尽くした感があるので、ここで二番煎じをするつもりはない。むしろ、市長選後の大阪市議会や市役所内部で現在進行中の出来事を中心にして、「ポスト堺市長選」の情勢を追ってみたいと思う。いわば、堺市長選後の橋下維新の崩壊過程に関する政治分析である。

 まず、大阪市議会では「橋下維新包囲網」がより鮮明な形となり、その包囲網が日増しに狭まって行く様子がありありと読み取れる。この変化は、すでに堺市長選と同時並行的に始まっており、選挙期間中にも大阪市議会の「反橋下勢力」と堺市長選の「反維新勢力」が実質的に連動して選挙戦を戦ってきた。維新は、大阪の地方議員や全国の国会議員を総動員して堺市長選に臨んだが、反橋下勢力の方でも大和川大阪市堺市の境界)を越えて大阪と堺が手を組んで戦ったのである。

 こうした状況をみると、今回の堺市長選は「大阪都構想」を争点とする首長選であったが、それは単に都構想に関する政策対決にとどまらず、都構想に包含される地域挙げての橋下維新に対する対決戦でもあった。堺市が「大阪都構想」への参加を拒否することは、大阪で目下進行中の都構想を阻止することにつながるだけに、都構想反対派は堺と大阪の区別なく総力を挙げて橋下維新と戦ったのである。その意味で、堺市長選は1地方自治体の境界を越えた「大阪都」レベルでの選挙戦だったのである。

 目下の大阪市議会における最大の対決点は、維新に属する市議会議長の不信任可決にともなう議長辞職問題である。この問題は、議長が自分の政治資金パーティーに市立高校吹奏楽部を呼びつけて演奏させたことに端を発している。教育活動の一環である市立高校のクラブ活動を、あろうことか市議会議長が自分の政治資金パーティーのアトラクションとして私物化したことが問題になり、9月26日、自民・公明・民主の3会派の賛成で議長不信任が可決されたのである。大阪市議会での議長不信任は、市政始まって以来の珍事(不祥事)であり、しかもそれが公明主導で実現しただけに、公明の豹変ぶりがひときわ注目されることになった。

 なぜなら、公明(19人)は橋下市長当選以来の市議会与党であり、今年5月30日には慰安婦発言問題等を理由にした野党3党(自民17人、民主9人、共産8人)が共同提案した「橋下市長問責決議案」を、大阪維新の会(33人)とともに反対して葬った実績があるからである。その公明が今度は率先して議長不信任案の可決に回ったのだから、市民が驚いたのも無理はない。もし公明が今後維新との間に距離を置く姿勢に転ずるとなれば、定数86人の大阪市議会では維新は「少数与党」となり、全ての案件が通らなくなる可能性が生まれる。

 そうなると、「大阪都構想」に関しても住民投票の前提となる大阪市議会決議が得られないことになり、大阪維新の会の原点である「大阪都構想」が水泡に帰することになる。こうした絶対絶命の事態に対して橋下市長がどのような妙案を持っているかは不明であるが、考えられる方策は市議会を解散して与党議員の大幅増を目指すか、任期終了前に市長選挙に打って出て「大阪都構想」の信任を得るか、2つに1つだと言われている。

 今年5月の橋下市長問責決議案のときは、市長選の可能性に言及した松井幹事長の脅かしに公明が屈服して反対に回った。だが現在は、もはや「柳の下に2匹目の泥鰌(どじょう)」はいないらしい。もし市長選ともなれば、堺市長選のときと同じく「反橋下(統一)候補」が立つことで橋下包囲網が形成され、堺市長選以上の大差で敗北するだろうと言われている。その意味でも今回の堺市長選は来るべき大阪市長選の“前哨戦”だったのであり、維新候補が敗北したことは取り返しのつかない大きな痛手となったのである。

 維新市議会議長の辞職問題に話を戻すと、9月10日の市議会本会議までに議長の去就が明らかになるといわれているが、どうやら辞職の公算が大きいように思う。不信任決議(法的拘束力はない)が可決されたにもかかわらず、もし議長がそのまま居座るとなると、野党の大半が欠席して議事の進行に重大な支障が生じることになり、市議会が事実上機能不全に陥るからだ。そうなれば、一番困るのは橋下市長その人であり、大阪維新の会の存在自体が問われることになる。議長の首を差し出して難を逃れる以外に方法がないと思われるが、そのことの政治的ダメージも大きく、とにかく橋下維新は「八方塞(ふさがり)」の状態に直面しているのである。

 だがそれに増して、橋下維新にとってもっと深刻なことは、市役所内部の職員組織が「面従腹背」から「内部告発」に舵を切ったと思われることだ。堺市長選の真最中に、民間人区長や民間人校長のセクハラ事件など数々の不祥事が次々と暴露されたことは記憶に新しい。だがしかし、それらが偶然に発覚したとは思われない。聞くところによれば、それらは堺市長選での維新候補に打撃を与えるべく、関係部局から狙いをすましてリークされたと言われている。目下、橋下市長は「犯人探し」に躍起になっていると言うが、いまだ所在が突きとめられていない。

 また、8月9日の「大阪都構想」法定協議会に府市統合にともなう経済効果の試算が出されたが、その直前に市財政部局(のある幹部)から経済効果試算の欺瞞性を暴露する秘密ペーパーがマスコミ関係者に出回り、府市統合本部の発表に多大のダメージを与えたことも公然の秘密になっている。(つづく)