大阪都構想住民投票は、橋下市長信任投票にもなればリコール(不信任)投票にもなる、朝日新聞市民世論調査(2015年2月7、8日実施)から考える、橋下維新の策略と手法(その4)

 大阪都構想住民投票に関する朝日世論調査結果の最大の特徴は、都構想への賛否が橋下支持、不支持とストレートに結びついていることだ。大阪都構想は橋下維新の「1丁目1番地」なので当たり前と言えば当たり前のことだが、これほど橋下市長への支持、不支持が政策への賛否と直結している例は珍しい。具体的に言えば、橋下支持層が都構想賛成70%であるのに対して、不支持層は都構想反対が84%に達している。逆に言えば、大阪都構想への賛否が橋下市長への支持、不支持の分岐点になっているとも言える。いずれにしても、都構想の是非を問う住民投票が「天下分け目の決戦」になることは間違いない。

 このことは朝日の記事も指摘していることであるが、これだけ都構想に対する賛否がはっきりしてくると、住民投票が橋下市長に対する事実上の信任、不信任投票になると言ってもおかしくない。橋下市長が、住民投票に破れれば政界から引退すると言うのは怪しいとしても(彼は「2万パーセントない!」と否定したことでも平気でひっくり返す)、市長の座に留まっていられないことだけは確かだ。そうでなくても次期大阪市長選は今年の秋に迫っているのだから、市長の椅子にしがみついても仕方がない。その意味で今回の住民投票を「橋下市長リコール投票」と位置付けることも可能だろう。

 朝日の世論調査では、大阪市民の支持政党は目下、自民25%、維新12%、公明4%、共産3%、支持政党なし43%に分かれている。支持政党別の橋下支持率は掲載されていないが、都構想への賛否の割合は掲載されているのでおよそのことはわかる。維新支持層が[賛成84%:反対3%、以下同じ]と賛成が突出しているのを除いては、自民支持層[35%:48%]、公明支持層[21%:65%]、無党派[27%:46%]はいずれも反対が多い。 

 注目されるのは公明支持層の動向だ。共産支持層の賛否は掲載されていないが、おそらく反対が圧倒的に高いと推測できるので、公明支持層はそれに次いで反対比率が高いといえる。この公明支持層の意向が創価学会幹部によって今後どう方向付けられるかが、住民投票の行方を占う上で大きな材料になる。学会幹部が言うように本当に自主投票になるのか、それとも裏で賛成投票の組織動員が行われるのか、厳重に監視しなければならない。

 なぜ公明支持層の動きに注目するのか。朝日調査の大阪市民の支持政党を見ると、公明支持層は僅か4%の割合でしかない(私の実感からすれば、もう少し高くて6〜8%ぐらいではないかと思う)。しかし「常勝関西」といわれる強力な投票動員力を持っている創価学会のことだ。住民投票が低投票率になると、公明支持層の比重が飛躍的に高まり、維新支持層の投票とあわせると無視できない存在になる。このとき公明支持層がどっちを向くかで都構想の賛否が決まることにもなりかねない。

 さらに心配なのは、投票率がどれぐらいの高さになるかということだ。今回の場合は住民投票の成立要件として投票率の下限が設けられていない。極端なことを言えば、たとえ投票率10%でも住民投票は成立するのであり、この場合は過半数の5%以上をとれば大阪都構想に「ゴーサイン」が出されることになる。大阪市を解体・再編するための住民投票がかくも杜撰(ずさん)な制度で実施されること自体が民主主義を脅かす由々しき事態であり、場合によっては少数のポピュリスト集団によって大阪市が「自治体ジャック」されることにもなりかねない(橋下維新の狙いはそこにあると言ってよい)。

 住民投票は使い方によってはファシズムの有力な手段となりうる。ナチスが「イエス」「ノー」の単純な二択形式の国民投票によって独裁政治体制を敷いていったように、今回の住民投票はその危険性を孕むもので厳重に警戒する必要がある。大阪市の「かたち」を変えるような住民投票は、国家で言えば憲法改正手続きにも比すべき厳密な要件が課されなければならないのであって、少なくとも有権者過半数が投票することが住民投票の最低条件であり、さらには有効投票数の3分の2、あるいは過半数の賛成が無ければ都構想は不成立となると言った要件が課されるべきであろう。

 繰り返し言うが、今回の住民投票大阪都構想のメリット・ディメリットの比較に矮小化してはならないことだ。住民投票そのものの持つ政治的意味を市民・有権者に知らせ、場合によってはファシズムの手段になることに警鐘を鳴らさなければならない。そして、このような策略を弄してまで大阪市を解体・再編しようとする橋下戦略の狙いと危険性をより多くの市民に知らせ、都構想や住民投票に関心の低い市民・有権者に訴えなければならない。

 大阪都構想の是非を問う住民投票は、橋下市長を信任する投票ともなれば、橋下市長をリコール(不信任)する投票にもなりうる。前哨戦の統一地方選はもとより、住民投票においても大阪市政刷新の絶好の機会として大所高所にたった市民運動の展開が望まれる。(つづく)