OTK売却先優先交渉者選定過程の“カラクリ”、泉北高速鉄道外資(米投資ファンド)売却議案否決の波紋(その3)、ポスト堺市長選の政治分析(19)

 大阪府議会にはもっと詳しい資料が提示されているのであろうが、私たち一般市民が(現在のところ)入手できる資料は、大阪府都市整備部交通道路室が2013年11月26日に公表した『大阪府都市開発株式会社(OTK)株式売却の優先交渉権者の選定結果等について』だけである。この資料は選定結果の概要を記したもので、それ以上の詳しい内容はわからない。それでも大阪府の「大阪府都市開発株式会社株式売却公募要領」や各紙の報道記事と突き合わせてみるとおよそのことは把握できる。以下、そこから読み取れる米投資ファンドを優先交渉者第1位に選定した“出来レース”の幾つかの兆候を摘出してみたい。

 上記選定委員会資料によると、審査は「資格審査」と「本審査」の2段階にわたって行われている。資格審査は申込者の参加意欲(事業の継続意思)及び財務能力(資産状況等)の確認、本審査は申込者から提出された経営方針や提案金額などの評価である。資格審査をパスしたのは投資ファンド・銀行5社(外資系4社、国内系1社)、鉄道会社1社(南海鉄道)、計6社だった。売却物件が鉄道とトラックターミナルだから鉄道事業、運送事業、物流事業などを手掛ける企業が数多く参加するかと思いきや、申込者の圧倒的多数が投資ファンドであり、しかも外資系が6社中4社を占めていたのである。なぜ、ОTK売却はかくも多くの外資投資ファンドを惹きつけるのか。

 通常、投資ファンドの企業目的は、複数の機関投資家個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資し、その企業の経営に関与して企業価値を高めた後に企業の株式を売却することで高い利回りを獲得することだとされている。だから、その目的は事業そのものを起こすことでもなければ事業経営を継続することでもない。要するにA社を買い取ってB社に売り、売却利益を上げることが本来の目的なのである。だからこれだけ多くの外資投資ファンドが群がったのは、それだけの好条件が揃っていたと考えてよい。

 30頁にも及ぶ『大阪府都市開発株式会社売却公募要領』(大阪府公式サイトからダウンロードできる)を読んでみると、AからIにわたる9項目のうち「E.売却条件」と「G.本審査、7.本審査項目と配点」にその“カラクリ”が隠されている。まず「売却条件」を見よう。

1.トラックターミナル等物流事業の継続確保
 ●東大阪及び北大阪流通センターにおけるトラックターミナル事業を継続すること。
 ●ОTK株式取得後5年間、トラックターミナルの譲渡(事業譲渡、資産譲渡、その他)を行わないこと。
 ●トラックターミナル等物流事業に関する運営方針についての提案事項を遵守すること。

2.鉄道事業の継続確保
 ●泉北高速鉄道事業を継続すること。
 ●ОTK株式取得後5年間、鉄道事業の譲渡(事業譲渡、資産譲渡、その他)を行わないこと。
 ●鉄道事業の利便性(料金引き下げ等)についての提案事項を遵守すること。

3(略)
4.ОTK株式の譲渡制限に係る売却条件
ОTKの安定的な経営に資するため、府および府以外の株主から本件公募によりОTK株式を取得した者は、ОTK株式譲受後5年間、ОTK株式を他社に譲渡することはできない。ただし、次のОTK株式の保有形態ごとの条件を満たす場合には、ОTK株式譲受後5年以内であっても予め府と協議の上、第三者へ譲渡できることとする。ОTK株式を他社に譲渡することはできない(以下、略)。

 これはもう子どもでもわかることだが、この売却条件を読んでみると、それぞれの第1項に「トラックターミナル事業、鉄道事業を継続すること」を麗麗しく掲げながら、第2項で「ОTK株式取得後5年間、トラックターミナル事業、鉄道事業の譲渡(事業譲渡、資産譲渡、その他)を行わないこと」という全く矛盾した条件を挙げていることだ。したがって、これを文字通り読めば、「トラックターミナル事業及び泉北高速鉄道事業は株式取得後5年間(だけ)継続すればよい」ことになる。

 年間5千万人もの乗客を運び、堺・泉北と大阪市内を結ぶ唯一の府民の足である鉄道を5年間だけ継続すればよい(5年後には廃止してもよい)なんて馬鹿げた条件を大阪府が掲げるはずがない誰もが思うだろうが、現実に大阪府はれっきとした公文書のなかでそう書いているのだから、こちらの方を信じる他はない。また注意事項のなかに「鉄道事業は、鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)を順守することが必要である」と付記されているので、鉄道事業法泉北高速鉄道を守ってくれるのかというと必ずしもそうはいかない。

 これは意図的かどうか知らないが(意図的であったとしたら犯罪的だ)、昭和六十一年(1986年)制定の(旧)鉄道事業法は1999年5月及びその後にわたって改正され、現在はもはや存在しない。そして重大なことは、2000年3月以降は改正鉄道事業法第二十八条の二にもとづき、旅客鉄道事業の退出(廃止)は旧法の許可制が原則“一年前の届け出制”に変更されたのである。したがって運輸大臣(現在は国土交通大臣)は、退出後の沿線地域の公衆の交通利便の確保に関し、関係地方自治体等から意見を聴取する手続きを踏めば、鉄道事業者は地元の同意が得られなくても法律的には廃止に踏み切れるようになったのである。(つづく)