朝日新聞がこの2月10日に掲載した大阪都構想に関する市民世論調査結果をみて驚き、かつ油断ならないと感じた。ひとつは、「仮に今、大阪都構想の是非を問う住民投票で投票するとしたら、賛成しますか、反対しますか」の質問に対して、「賛成」35%、「反対」44%と反対が賛成を上回っているものの、賛否がかなり拮抗していることだ。
もうひとつは「橋下さんが知事や市長を務めてきたことで、大阪府や大阪市はよくなったと思いますか。悪くなったと思いますか。それとも、変わらないと思いますか」との質問に対して、「よくなった」33%、「悪くなった」21%、「変わらない」39%と、肯定が否定を大きく上回っていることだ。そして、「大阪市の橋下市長を支持しますか。支持しませんか」の質問に対しては、「支持する」43%、「支持しない」42%と、支持、不支持がほとんど変わらないにも驚いた。
少しでも新聞を読む人なら、最近の紙面が大阪府・大阪市の失政やスキャンダルで溢れ返っているのに気付くはずだ。(1)府教委の第三者委員会が「精神的苦痛を与える行為」「人権侵害とも言うべき発言で、かつ精神的攻撃」と認定した府教育長のパワーハラスメント、(2)杜撰(ずさん)な音楽イベントの開催で大赤字を出し、損害賠償問題が持ち上がりその責任を問われた大阪観光局長の辞任(更迭)、(3)局長の知人業者に応募させ、局長自らが審査して受注させた市交通局イベント事業の発覚、(4)市の外部監査チームが「違法支出」と指摘した、市交通局イベント中止にともなう知人業者への局長命令による公金支出、(5)大阪市の職員組合に対する橋下市長の一連の弾圧行為(事務所退去、市教組集会の小学校使用不許可、刺青調査、組合活動に関するアンケート調査)に関する訴訟判決で市側が4連敗、(6)道頓堀川を「巨大プール」にする荒唐無稽な計画のお流れ、(7)住吉市民病院閉院にともなう民間病院誘致公募の不調などなど、枚挙の暇もない。
なのに、「橋下さんが知事や市長を務めてきたことで、大阪府や大阪市はよくなった」と思う大阪市民が3分の1もいるのだから、私にはどうもその背景がよく吞み込めない。そこで朝日世論調査の「橋下市長を支持する理由」をよくみると、橋下支持の市民は「個別の政策」(11%)を支持しているというよりも、「改革の姿勢や手法」(64%)と「人柄や言動」(22%)によって判断していることが分かる。つまり、上に挙げたような個々の政策に関する是非はともかく、橋下市長の「改革派イメージ」に依然として期待を抱き、その派手なパフォーマンスに酔いしれる市民が結構いるということだ。
おそらくこのような市民意識(市民感情といってもいい)は、橋下氏が登場してきた頃のマスメディアの大合唱の中で形作られてきたもので、現在に至るもまだ払拭されないで根強く残っていると考えてよい。いわば「第一印象」としての「橋下イメージ」があまりにも強いものだから、それを個々の政策論議で崩していくのは容易でないということだ。この点をよく考えないと、政策論議を重ねていけば、大阪都構想を住民投票で阻止できると思い込むことにもなりかねない。
私は以前からかねがね、選挙や住民投票における「イメージ戦略」の重要性を訴えてきた。個々の政策の是非を問うのは勿論大切だが、それだけで十分かといえば必ずしもそうとは言えない。橋下市長を支持する4割強の大阪市民を説得するのは政策だけでは駄目で、橋下氏の「改革派イメージ」をどう崩すかということにもっと力点を置かないと橋下支持層には通じないと思うのだ。それではどうするのか。
このことはまだ大阪の人たちと相談していないのであまり自信がないが、ひとつ言えることは、橋下氏の言う「改革とは何か」をこれまでの経過と現在の立ち位置を含めて分かりやすく解説することではないかと思う。つまり、橋下支持層の期待する「改革」と、橋下氏が目指す「改革」のズレやギャップを分かりやすく解説する「Q&A形式」のパンフレットが必要なのではないかということだ。
橋下氏の大阪都構想住民投票に対する戦略は、「訳のわからない大阪都構想」を「訳のわからないまま」にして住民投票に雪崩れ込もうというものだ。「訳のわからない」住民投票は、結局のところ橋下氏に対する「イメージ」の好感度で決まる。橋下氏の「改革イメージ」を崩さないことには、ひょっとするとひょっとすることにもなりかねない。この点については読者諸氏のご意見をうかがいたいし、またコメント欄で論争もしてほしい。その中から新しい発想と戦術が生まれてくると思うからだ。(つづく)